夜の帳を蹴り飛ばせ(15分間でカクヨムバトル)
春嵐
01
夕暮れ。
とても綺麗な陽の光。反射して紅くなっている雲と空。
このまま待てば。夜が来る。
隣を歩く。彼。
「もうすぐ、夜だね?」
訊いてみる。
「なにばかなこと言ってんだ。陽が暮れたら夜になるに決まってんだろ」
めちゃくちゃに現実な答えが帰ってきた。
「分かってんだろうな。大まかな予算と部活毎の体育館割り。はやく作れよ」
「うええい」
自分も彼も。生徒会に所属している。
アニメや漫画に出てくるような、わくわくどきどきの日々が。生徒会には、あると思っていた。
実際。
頭の中がアニメと漫画だらけの、まるで使い物にならない先輩後輩。日々の業務に忙しく、生徒会などまったく見ている余裕のない先生方。そして、高級車と週末のゴルフだけにものすごい熱中を見せる理事長校長専務以下、幹部連中。
結局。
ほとんどの業務を、自分と彼でなんとか回していた。部活の日割りや、通学路のハザードマップ策定とか。
わけの分からない爆破予告があったりした場合は、休校の連絡網整備や集団下校の集団形成と時間構成まで。
とにかく。
ほとんどの雑務が、わたしと彼の仕事。ドラマや漫画のような日々など、まったくもって存在しなかった。先輩後輩はそういう日々を謳歌しているけど。わたしは、それができない。
彼のことが、好きだった。
その彼が。
生徒会の仕事を黙々とこなすのだから。自分が投げ出すわけにはいかない。
体力も自信があるけど、記憶力に関しては体力の数倍自信があるので、彼の隣にいることはできた。というか。彼が行くという理由で、この学校に来た。
「予算と、体育館日割りだからな」
「分かってますって。記憶力には自信がありますので」
彼の地頭は普通。でも、本当は。とっても頭がいい。それをなぜか隠して、普通の学校に来ている。不思議。
「止まれ」
急に彼に言われたので、立ち止まった。
「動かず。そのまま」
彼が、わたしの回りを。ぐるぐると回る。
「これは、まいったな」
彼。
見たことがないほど、困った顔。爆破予告が来たときでさえ、冷静だったのに。
「お前を巻き込みたくはなかったんだけどな。こればかりは仕方ない」
「喋っても、いいですか?」
「どうぞ」
「空が。綺麗」
「その空が問題なんだ。夜が来ない」
「え」
「時間は来ている。もうすぐ日没なのに。太陽が沈まないんだ」
「いや、あの」
さっき言ってたじゃない。
「陽が暮れたら、夜になるって、さっき言ってましたよね?」
「来ねえんだよ。このままだと。夜が」
「ごめんなさい何言ってるか分からないです」
彼。
制服の上着を脱ぎ捨てて。シャツを腕捲りしている。
「こういうことが、ここら辺では起こるんだ。それを解決するために、俺はここにいる」
鞄から、何か取り出している。本、かな。
「夜の帳。これだ。暗幕が降りなくなっているらしい」
「暗幕?」
「俺たちはこれから、なんとかして夜の帳を降ろさなくちゃならない。たまたま巻き込んでしまった。すまん。手伝ってもらえるか?」
「ぜひっ」
「嬉しそうだな?」
「なんかアニメとか漫画みたいでっ。なんかっ。たのしみですっ」
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