養子

駄伝 平 

養子

 これは、知り合いから聞いた話です。


 当時、ミチルさん40歳、奥さんはヨーコさん40歳。

 美男美女カップルで、中学1年生の時にお互い一目惚れで交際がスタートして大学を卒業したその日に婚姻届を出して結婚。ミチルさんは某外資系の家電会社就職し、仕事が出来たしコミュニケーション能力が高くてエリートコースに乗って出世し、ヨーコさんも某有名アパレル関係の会社に就職し、バリバリのキャリアウーマンとして働いていた。経済的にも恵まれているし、都内に新築でマイホームまで持っている。犬はゴールデン・レトリーバーのパトリックが1匹、ネコはアメリカン・ショートヘアのメリーが1匹。


 誰もがうらやむような順風漫符な人生を送っている二人なんですがね。一つどうしても望みが叶わなかったことがある。

 それは子供です。

 不妊治療も十年もやっているのですが、全く成果なし。自分のせいなのか?相手のせいなのか?相性のせいなのか?理由は分からいないですが検査結果は二人共健康そのもの。

 ミチルさんもヨーコさんも、だんだんそれがプレッシャーになってきた。

そのせいもあってか、お互いの関係もギクシャクし始めた。

それである日、ミチルさん思いついたそうです。「養子を迎え入れようと」

ヨーコさんにその事を言うと、彼女も同じことを考えていたそうで、養子をとることにしました。


ソーシャルワーカーのミズハラさんに相談したところ、夫婦は赤ちゃんを養子に迎えたいと言ったのですが、赤ちゃんの場合順番待ちの期間が長く諦めた。


 夫婦はスグに子供が欲しかった。もう待つのは懲り懲りだった。

するとミズハラさん、赤ちゃん以外なら簡単に早く養子にできると言った。

後日、ミズハラさんと児童養護施設へ行った。

 二人で園内を回っているとヨーコさんがある男の子に注目した。

 その男の子、見た目は7歳位、ノートにヒラガナでを書いて練習しているらしい。

「あの子は?」とヨーコさんが聞くとミズハラさんは言った。

 その男の子の名前はジュンくん。年は9歳。ジュンくんが2歳の頃旦那さんが事故で他界し、生命保険が入ったが、奥さんは精神のバランスを崩したらしく、母親は自分の子供に固執し始めて、度が過ぎて虐待に発展し幼稚園どころか小学校にも行かせてもらえず、最終的にはジュンくんを日々殴る蹴るの生活を送っていたそうだ。ある時マンションの隣人が虐待に気づき通報。そして保護されて3ヶ月前にこの児童養護施設へ来たそうだ。


 それを聞いたヨーコさん、ジュンくんの事を支えてあげようと思ったそうだ。

ミチルさんは、そんな酷い虐待を受けた少年を育てられるのか不安だった。しかし、ヨーコさんはジュンくんにすると一点張り。最終的にミチルさんが折れた。ジュンくんを家に迎え入れることにした。


 ジュンくんを家に迎え入れると夫婦はパーティーをした。最初はジュンくん警戒していたが、食卓に並ぶフライドチキンにチーズフォンデュとケーキを食べていく内に目が輝き始め、警戒心も解け笑顔になって、「こんな美味しい食べ物をたくさん食べたことない!」と興奮した様子。

 ジュンくんは動物が好きなようで犬もネコも撫で回して喜んだ。



 お風呂の時間になりミチルさんはジュンくんに「ひとりではいれる?」と聞くと「入れるよ!」と言ってお風呂へ。

 ミチルさんとヨーコさんはジュンくんが飛び跳ねて喜ぶ様子を見て養子を迎えてよかったと話していたら、

 ジュンくんはお風呂から出て下半身をタオルで巻いているのだが、背中に大きな焼きごてのような物で十字に押し付けたような、酷い火傷の跡があってミチルさんとヨーコさんは驚いた。後でわかった事だがお尻や太ももにも十字の火傷の跡が、まるで刻印でも押されているようだったとミチルさんは言っていた。こんなに酷い事をするなんて。ミチルさんとヨーコさんはジュンくんの実母に対して猛烈な怒りを感じたそうです。


 あまりジロジロ見ると、ジュンくんが火傷の跡を見ていることに気づいての嫌な記憶が蘇ってしまうのではないかと怖くなって

「あ、そうだこれプレゼント」ヨーコさんがと恐竜の柄の入ったパジャマをプレゼントしたそうです。

「恐竜好きかな?」とミチルさんが聞くとジュンくんとても喜んだそうです。

 サイズは少し大きめ、先輩ママから子供は直ぐに大きくなるからと大きめな物を買ったほうが良いとアドバイスされたからだ。


 ジュンくんはミチルさんとヨーコさんにスグに懐き、それにメリーをとても可愛がり、パトリックの散歩係に立候補した、散歩係になった。


 その後、年齢的には小学3年生だが、なにせ小学校に行かせてももらえなかった事もあり最初の3ヶ月は苦労したが、ジュンくん努力家で、それまでの3年間を取り戻すかのように、それとも、いろんな知識を得る事が楽しかったのか勉強も上達した。


 漢字を書くのには苦労したが読み方はの方はスグに覚えた。算数はあっという間にマスターし、理科が好きなようでとても特に熱心に勉強をした事もありテストでは100点をとるまでになった。

クラスでも人気者になり家に友達まで連れてくるようになり、二人は安心した。


 最初のうちは寝る前にミチルさんとヨーコさんが絵本の読み聞かせをしていたが、半年もすると、ミチルさんの本棚にあるSF小説に興味を示し、500ページはある小説を苦労はしていたが1ヶ月で読み切るまでになった。

とても完璧な生活だと、ミチルさんとヨーコさんは思った。


 1年後、ジュンくんが小学4年生の時のことだった。

 いつもダブルベットでヨーコさんとミチルさんは寝ているのだが、深夜左から何か温かいく柔らかい物を感じた。ヨーコさんの他に誰かいる。犬のパトリックかと思ったが違う。毛がないからだ。

そう思うと急にびっくりして上半身を起こし。左側を確認したジュンくんだ。

「なんだ、ジュンか」と思い再び寝た。

 朝、起きてミチルさん思い返してみるとジュンくんが自分たちのベッドに入ってきたのは初めてだった。


 朝食の時にミチルさんはジュンくんに聞いた。

「昨日はベッドに入ってきてどうしたの?悪い夢でもみたの?」

するとジュンくんは暗い表情をして「別に、特になにもないよ」と言った。

ミチルさんもヨーコさんも、怖い夢を見たけどそれを言うのが恥ずかしいだけだろう、と思って気に留めなかった。


 しかし、その日を境に段々ジュンくんの元気が無くなり塞ぎがちになり、気づけば夫婦の寝室で寝ていることが日常化した。


夫婦はジュンくんの事が心配になった。虐待されていた時のトラウマがぶり返したのかと。


 そこでミチルさんとヨーコさんは、ジュンくんに聞いた。

「なにか怖い夢でも見るの?」

ジュンくんはしばらくして答えた。

「違う、一人で寝ていると、母さんが来るんだよ」


 二人は後悔した。というのもあの火傷の跡を見た瞬間から精神病院に通院させておくべきだったと。きっと、自分たちに嫌われるのが嫌で無理して明るく振る舞っていたツケが回ってきたのだと。

「大丈夫だよ。だって家には警備会社の警報機がついてるだろ?誰かが侵入したら警報機がなるから」

「でも、本当にくるんだ。母さんが」

 ミチルさんとヨーコさんはジュンくんをつれて子供専門の精神科医に連れて行った。診断は「PTSD」だった。過去に辛い経験をするとフラッシュバックが起こり時には幻覚が見える事もあるそうだ。先生と相談しクスリを服用しながら経過を見ることにした。


 それにジュンくんが治るまでミチルさんとヨーコさんは一緒のベッドで寝ることにした。すると少しジュンくんの精神も安定してきたので、ミチルさんとヨーコさんも安心してきた。


 そんなある日の出来事、ちょうどその頃繁忙期でミチルさんは仕事を家に持ち込み書斎で深夜の2時までパソコンで仕事をしていると急にパトリックが吠えまくった。うるさいな、どうしたんだ?と思い吠える方向へ、多分2階で騒いでる。階段をあがると寝室でパトリックとネコが鳴いているのがわかった。


 なんだ?いったい? 寝室のドアは半開きになっていた。

 ミチルさんが思いっきりドアを開くと、そこには白ずくめの服を着た、髪の長い30代くらいの女が立っていた。犬とネコはその女に吠えていた。女の視線の先にはジュンくんがいる。

「おい、お前何しているんだ!」と叫んだ。

 すると女はこちらを見るとミチルさんに突進した。倒れるミチルさん。そのまま頭を打って気絶した。


 ミチルさん気がつくとそこは病院のベッドの上だった。

 後でヨーコさんから聞いた話によれば突然「ドン!」という音が聞こえて起きるとミチルさんが頭から血を流して倒れていたそうです。怪我の具合は3針を縫う怪我だった。ミチルさんが意識が朦朧とした中で女だ、女が居たと言うので救急車と警察をに通報したらしいんですが、警察の調べによると侵入した痕跡がなかったそうです。


「きっと、おかあさんに違いない」とジュンくんが言うので、ヨーコさんも、もしや、本当にジュンくんのお母さんが出入りしていたのではないかとと思って、警察にその事を伝えた。

 担当刑事にジュンくんの母の写真をミチルさんに見せた。背筋がゾッとした。

「この女です。この女が私を突き飛ばした」ミチルさんが証言した。


 だが警察が調べると、ジュンくんのお母さん実は今は精神病院の隔離部屋にいる。警備員は3交代で24時間監視してるし監視カメラがついていて彼女が部屋から脱走した記録はない。アリバイがある。しかも精神病棟からミチルさんの家まで車で2時間はかかる。往復すれば4時間。どう考えても無理だ。


 結局、事件はミチルさんの勘違い、ただ仕事に疲れて倒れて頭をぶつけただけだということで終了した。


 それからもしばらく、みんな怖がって3人でベッドで寝る生活が続いたのですが、ある日の事、寝る時ジュンくんが自分の部屋へ行ったそうです。

「ジュンちゃん、どうしたの?一人で寝るの?」とヨーコさん。

「うん、大丈夫だよ。もうなにも起こらないから」とジュンくんはニコヤカに言った。

 ミチルさんは勘違いかもしれないがジュンくんの母親を見てるし不安だったがその日を境にまた明るくて活発なジュンくんに戻ったらしい。


 ミチルさんもヨーコさんも、あの時のミチルさんの事で、ジュンくんにとってはショック療法のようなモノになって治ったのかもしれないねと話していたそうです。それにジュンくんにはお母さんがここに来るのは不可能だということをちゃんと説明したし、それで気分が落ち着いてきたのだと。



 それから2ヶ月したある日、ケースワーカーのミズハラさんから電話が来た。

「もしもし、ミズハラです。実はジュンくんのお母さんが亡くなりました。」

「え、どうしてですか?いつ亡くなったんですか?」

「心筋梗塞だそうです。ちょうど1ヶ月前です。ご連絡遅れてすみません。管轄が違うと連絡が遅れるもので」とミズハラ。

ヨーコさんちょっとゾッとした。というのもジュンくんが一人で寝るようになった日と同じだったからだ。

「それでなんですが、ちょっと不快に思われうかも知れないですが、ジュンくん夜に家を抜け出していませんでしたか?」

「いや、そんな事はありませんよ。家は特に夜に家を出る時は暗証番号を押さないと警報がなりますから」

「そうですか、ていうのもジュンくんのお母さんが亡くなる前に警備員たちの中で恐竜の柄のパジャマを着た少年を見たという噂がありまして。もちろん監視カメラには映ってないし」

恐竜の柄のパジャマ?ヨーコさん流石に怖くなった。ていうのもジュンくんのお気に入りのパジャマは恐竜柄の入ったやつだったからだ。

「まあ、もし抜け出して精神病院まで行けたとしても車でで2時間はかかるところですからね。まあ無理ですよね。それに心筋梗塞が原因ですしね」


 私はミチルさんに聞きました。

「ジュンくんはその後どうなりましたか?」

「とても元気に育ちましたよ。活発で学業もスポーツも優秀で、アメリカの大学で化学の勉強して卒業して。今はシアトルにある製薬会社に就職したよ。毎日のようにZOOMで連絡を取り合ってるよ。現地で中国人の女の子の恋人ができて同棲中だよ。夏休みや冬休みには、恋人を連れて家に帰ってくるよ」

「あの、この話なんですが、どうゆうことなんでしょうか?」

「わからない。いろいろ考えたけど、生霊て奴なのかな?それとも超能力かな」

「怖くなかったんですか?つまり、そのジュンくんの事が」

「確かに不気味で怖かったよ。もし、仮にジュンが超能力なのか或いは何かわからないトリックを使って母親を殺したとしても、血の繋がりがなくても俺とヨーコの子だ。俺はジュンの事を守るつもりだ」


そんな不思議な話しを聞きました。










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