第109話 因縁の再会

「あとは、ヤンの本隊、帝が率いる特殊部隊、太公望か……」

 ハオは倒れた京たちを一瞥して呟く。戦争における殲滅とは全部隊の三割の喪失である。

 すべてを滅ぼす必要はなく、組織的抵抗ができなくなれば、戦争においては勝利なのである。

「撤退中のブオの部隊と相手に寝返った魔術師メイガスはどうするんだよ……」

 どうにか口が利けるぐらいまで回復したアーサーが疑問を口にする。

 反転する可能性は捨てきれないというのだが、皓とてそこは理解している。

「わざわざ追撃する必要はない。魔術師も指揮官のクロウリーがあの様では反撃できんだろう」

「なるほど……。お前の調整をさっさとしておけばよかったな」

 と、アーサーが珍しく他人を褒める。生粋の科学者だけあり軍事関係には疎いからだ。

「当然、帝は軍の司令も兼ねていたからな。軍学は博やヤンに叩き込まれたよ」

「ふん……。この国の連中は皆、田舎者だと思っていたが違ったようだな」

 懐かしみ呟く皓ようやくアーサーもこの国の地力を認めたというところか。

「それに、帝と太公望ならこちらに来る。麒麟が連れてくるだろうからな」

「太公望と帝を完全に潰せば、勝ちか」

 予測通りならばフェイと太公望が来ると皓がいう。神仙とされた太公望を斃し、総司令であるフェイを下せば、この戦争の勝利は錬金術師アルケミスト側に転ぶ。

 皓を並大抵の人間が斃すのは至難の業だ。スープーを逃がして太公望とフェイを呼んだ妲己の判断は正しいが――、


「妲己は己がした選択を後悔することとなるだろうな」


 この言葉通り、皓にはフェイと太公望を相手取っても対等に戦える《力》と自負がある。

「……大した自信だ」

 アーサーはため息をつく。戦役に敗北し、絡繰を施された直後は頼りないと思っていた。

「だが、今は頼れると確信したよ」

 しかし、血反吐の出るような努力を積み重ねた姿と、なおかつその言葉を実現させる強さを見せつけた。

 お互いへの信頼の芽生え――図らずともクロウリーが指摘した通りの状況になってしまったようだ。 

「来たようだな」

 皓がフッと笑う。フェイと太公望を乗せたスープーが木々の合間を縫い、現れたのだ。

「……これは」

 博や功夫遣いが斃された状況にフェイは愕然とさせられていた。

 数々の敵を斃してきた功夫遣いが、その場で倒されているのだから

「皆、無事か!」

「《氣》は感じられるからな、息はある。すぐに回復するはずだ」  

 太公望はフェイに殺されてはいないと言う。あくまで気絶させられた程度だと。

 とはいえ、極雹ジーパオにより凍り付いている場所を見たとき、絶望は増す。

「大気すら操る。これが、応龍の《力》だというのか」

「正直、俺も訳がわからん。地を司る龍を取り込んだだけでここまでできるのかどうか……」

 理解の範疇を超えていると太公望は肩をすくめた。 

「……。のんびり観察している場合ではないだろう?」

「なるほど、お前が皓、……か」

 フッと笑って声をかけるのは皓だ。

「スープー、ヤン将軍に状況を伝えにいってくれ」

「わ、わかりました!」

 太公望はまずスープーを逃がすことにする、負けることを想像したくはなかったが、この状況ではその状況を取らざるを得ないと判断した。

「まさか、あなたが……」

 皓の顔を見たとき、フェイは驚きで思わず炎剣を落としてしまう。


「そうだ、俺がお前の父――皓だ」


 奇妙な形で、親子の再会が果たされたのだった。ただ――穏やかな再会とはいかなかったが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る