第110話 決着、しかし――
「本当に、親父さんだったのか。しかし、この《氣》の高まり。応龍を取り込んだってのは間違いないようだな……」
《氣》をかなりの精度で感じ取れる
さらには
「太公望殿」
フェイが太公望を手で制する。
「――ッ! 応龍を取り込んだ男相手にひとりで戦う気か!?」
正気かと太公望が制止するのだが、フェイは首を横に振り、
「いえ、父と話したいことがあるのです。……亡き母や叔父上の言葉を伝えたい」
「なるほどな」
太公望もそれを酔狂だとはいえなかった。
――避けられる悲劇は避けたいからな……。
言葉を尽くしていれば、戦争を起こし、むざむざ皆を死なさずに済んだはずだと今でも強く思っている。
「わかった。俺は京ちゃんたちを看てる。思いの丈をぶつけてこい!」
「恩に着ます、太公望殿!」
太公望の言葉に背中を押され、フェイは炎剣を抜き放つ。
皓はただの功夫遣いではない、体に
「私は現帝、フェイ。先々代、皓よ。いざ、尋常に勝負!」
「……、まだ帝と呼んでくれるのか」
皓はフェイの言葉に感じ入るものがあった。戦役を起こしたことにより皆、名前を呼ぶことをしなくなった。
父であり帝であると認めてくれた。
「お前を育てたであろうあいつに感謝せねばな……」
皓の心に去来するのは、側室だった妻だ。名目は側室ではだったが、皓に寄り添ってくれたのだ。
戦役を引き起こし、皓が流罪になった後も気遣ってくれていたのはフェイの言葉からわかる。
「いいだろう。ならば――」
皓は体を震わせ、その手から現れたのは――。
「そちらが剣で挑むならば剣で返すのが礼儀であろう。この応龍剣で相手をしよう」
応龍の《氣》で精製したと思しき宝剣だった。
「なるほど、確かに!」
フェイが炎剣を皓に向けて振りかぶる、戦闘開始だ。
「甘いぞ、フェイッ!」
皓が応龍剣をぶつける、剣と剣がぶつかる鍔迫り合いだ。その実力は拮抗している。
あとはどちらかが先に折れるかだ。
「ぐ……」
「むう……」
しかし、両者は一歩も引かない。
「父上、どうして人を見限ったのです!」
「
皓がフェイの剣を弾くが、フェイはとっさに飛びのき態勢を立て直す。
「いいえ。そこからまた新たなしがらみが生まれます。人は人の業と向き合い、それを乗り越えるべきです。そのための国家と民です!」
フェイは人の道を説く。フェイは人に絶望していなかった。寒村における酌量はそれを示している。
「父上たちこそ、人の業から逃げているのではありませんかッ!」
「――!」
事実を突かれ皓が体を硬直させる。絡繰にせよ、人体実験にせよ、人でなくなるということは人から逃げるということでもあると、フェイは喝破した。
新たな人を定義したところで、またしがらみが生まれるのだ。そのしがらみを抱えて、かつそれに立ち向かうべきだと。
「隙あり!」
フェイが一瞬の隙を突き、皓の応龍剣を弾き飛ばす。
「勝負あった!」
フェイが皓に炎剣を突き付ける、決着だ。
「……まさか、俺が剣で敗れるとはな。大した気迫だ。我が息子、フェイ」
「おい!」
降伏だと皓が白旗を上げるとアーサーは怒鳴り声をあげる。
「功夫や技ではなく、現帝の指導者しての覚悟を見たのだ。白旗を揚げる以外にあるまい」
「父上……」
自分たちを認めてくれたのかとフェイは胸を撫で下ろす。
「指揮官である俺をフェイが倒した時点で態勢は決した。だから――」
と、皓が言葉を不自然に切る。
「父上?」
フェイが怪訝に思い、皓に近づこうとするのだが、
「俺から離れろ!」
皓がフェイを突き飛ばした。
「やれやれ、さらに生きのいいヒトを取り込んでやろうと思ったのにのう……。喰らわれる側のくせに余計なことをしおる」
なぜか皓の口から女の声が聞こえた。幼さと老獪さというおおよそ釣り合わない要素が同居している声だ。
その《氣》は皓の放っていた《氣》より重く、禍々しさに満ちたものに変質していた。
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