第107話 人知超えし、応龍真拳  

「出でよ、岩龍イェンロンッ!」

 ハオがそう叫ぶと、皓の周囲に小さな岩がいくつか現れた。岩は意志を持つかのように浮遊している。

「ハッタリだろ!」

 突如現れた岩に功夫遣いたちが戸惑う中、アイシャが突貫を仕掛ける。若さゆえの無謀だからできたことであった。

「度胸は買おう」

熊猫拳シュンマオチェン、喰らえッ!」

 なんと、皓の岩龍はアイシャの熊猫拳を遮るように移動してきたのだ。

「ッ!」

 岩自体は砕けるほどもろかったが、意志を持つ岩が人間の死角をカバーしてのけるというのは厄介極まりない。

「まァ、筋は悪くないが、な!」

「ぐうッ!」

 皓のケリにより、アイシャは巨木に磔になるようにさせられた。

「ぢッ……、指銃弾ヂージョダンッ!」

「遅いッ! せめて突撃銃アサルトライフルを持ってくるのだな」

 メイズがおっかなびっくりで指銃弾を放つが、やはり《氣》の弾丸が岩が遮ぎられる。

「あぐッ……」

 そして、メイズは距離を詰めた皓に蹴り飛ばされた。

「なるほど、ハッタリではなかったというわけか……」

 皓が攻撃をしのぎ、反撃してのけるを見て妲己は認識を改めざるを得なかった。もはや己の力のなさを他人のせいにし、功夫を修められなかった男ではない。

 応龍や地にある龍脈を取り込んでいるからではあるが、自立する岩を常時出現させ、龍脈に喰われることなく理性を保つ精神力は相当なものだからだ。

「皓ッ、貴様ァッ!」

 メイズやアイシャが吹き飛ばされのを見たズーハンが唇をかみしめ、激高して殴りかかる。感情を取り戻したのは確かにプラスだったのかもしれないが、かわりに冷静さを失っていた。

「気合だけでは斃せんぞ、絡繰人形カラクリヒトガタッ!」

 皓はズーハンの拳をかわし、腹に裏拳を叩き込む。

「ぐ……、馬鹿な」

 ズーハンですら皓に攻撃を当てられない。《力》だけでなく技量もまた人知を超えている。

「かかってこないのか、梓萱ズシュエン妲己ダッキよ」

「くッ……」

 皓がケイと妲己を挑発する。岩龍のことを考えてしまい、迂闊に手を出せずにいたからだ。

「ならばこちらからいくぞ! 瞬拳シュンチュェンッ!」

 皓が繰り出すのは、功夫遣いの基礎である縮地なのだが、通常の縮地は相手との距離を瞬時に縮めるだけだ。

「この地に沈め、この森に付けられた名のごとくな!」

 しかし、皓の場合は技も交えていた、目で追うのは困難だ。

「ぐうッ……!」

 あまりの速さに妲己の目が剥く、拳は見えるものの体が追いつかない。

 一発、二発、三発――。妲己は一方的に皓に殴り倒される。

「嘘……」

 京は驚愕させられた。最強の功夫遣いである妲己が一方的に殴られ、あまつさえも反撃できなかったのだから。

「さて、梓萱。これでお前ひとりになったな……」

 京ひとりになったのを見て皓は呼吸を整える。


「兄妹が生きて再会できたのだ。存分に語り合おうではないか!」

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