第99話 操り人形

「せ、聖剣の鞘が……」

「聖剣?」

 アーサーが口にした聞きなれない言葉に妲己は一瞬、顔を顰めてしまう。

「ええ、鞘です。エクスカリバーの」

「えくす……、かり……? なんだって?」

 クロウリーの言った横文字に妲己だっきは困惑した顔をさせられるのだが、


「あの鞘こそがアーサーに傷を付けられなかった原因だという事です!」


 面倒だとクロウリーが分かりやすい言葉で怒鳴った。

 アーサー王が所持していたとされるエクスカリバーの鞘には持ち主を災厄から守る力が込められている、それを利用したという事だ。

 伝説の聖剣をどこから持ち出したかは知らないが、その力は本物のようだった。

「なるほど、王たる資格とはそういう事でしたか」

 ズーハンのほうがいち早くアーサーの不死のカラクリを理解していた。

「ちッ……」

 アーサーは歯噛みさせられる。とはいえ、ブオ旗下の突撃兵の弾薬は尽きており、狙撃銃を持つクロウリーとブレットが健在ではあるが五分五分だ。

 ――まァ、手はある……。

 アーサーの口元をいびつに歪めた。

 妲己側に傾いている天秤を、アーサー側に戻す方法があるからだ。

「なァ、ズーハン。お前がどうして生み出されたか知りたくないか?」

「!」

 ズーハンの動きが一瞬、止まってしまう。

「ズーハン! 奴の言葉に耳を傾けず、戦いに集中するんだ!」

 博がズーハンに警告を発する。不死という恐るべき切り札を破られた以上、アーサーが何らかの策を仕掛けてくるのは明白だったからだ。

「貴様!」

 妲己が叫ぶがアーサーは意に介さない。

「まァ、聞いてけよ。お前の素体になった脳はどこかの寒村で死にかけてた名も知らぬ娘なんだ」

 アーサーが妲己の功夫クンフーを受け流しつつ、ズーハンの素性を話し始める。

「あいつは寒村の生まれだからか、やかつての紂王チュウオウケイのような貧困だったり病弱な奴に肩入れする悪癖がある」

 やはりというか、己と同じ境遇の人間を見捨てておけなかったようだ。

「だからどうしたというのです……!?」

 ズーハンがかぶりを振るが、動揺は隠せなかった。冷静さがなくなっている。そして――。


「お前は、あいつらの代わりでしかないんだよ」


「違うッ!」

「違わないさ」

 強引にアーサーに拳をねじ込むが、冷静さを欠いた技ではあたるものも当たらない。

「そんなわけがない! 妲己様は私に生き方や技を教えてくれたッ!」

 ズーハンはショックと悲しみで

「なら、なぜ妲己は奥義を教えなかった? 免許皆伝の証なんだろ?」

「……え」

 事実、ズーハンは妲己から奥義を教えてもらっていない。リスクはあまりないはずなのにだ。

「所詮、代わりだからでしかないからだろ? あの女の」

「貴様、何を突然ッ!」

 妲己が怒鳴り散らすが、アーサーの狙いは

「……」

 ズーハンの動きが完全に止まってしまう。アーサーは狙い通りだと醜悪な笑みを浮かべ。

「さて、これで奴の自我は消失した。オートマトン、再命令実行」

「……あ」

 アーサーの言葉を聞いた途端、ズーハンはその場に崩れ落ちる。そしてしばらくして立ち上がり――。

「命令実行。これより、敵の殲滅モードに移行します」

「な……ッ!?」

 妲己が驚愕に固まる。なんと、ズーハンが妲己たちに拳を構えてきたのだ。


「操り人形の糸は手繰り寄せるものだ。ズーハンは試作機だが、今までの蓄積があるからな。量産型と同じと思うなよ?」 


 この事実は、功夫遣いズーハンがアーサーの手に堕ちてしまった事を意味した。

 

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