第81話 拳で語り合う仲
「メイズが調子に乗っていたようで。すみませんでした」
「ぎゃー、痛い。痛いです~!」
痛がるメイズを尻目にズーハンが頭を下げる。
「とにかく、助けていただき、感謝してます」
「まァ、知らねェ相手じゃねェし。妲己にはキョンシーにされたスーを救ってもらったしな。お互い様って奴だ」
神妙な態度を取るズーハンにアイシャは二ッと笑って返す。
「でも、ズーハンも見ないうちに随分かわいらしくなったわねェ。主に内面が」
京がニヤニヤと笑い出した、久しぶりに悪癖が出たのだ。
「あの、京。その気持ち悪い笑顔を近づけないでくれます?」
ズーハンはさらに辛辣な言葉をぶつけてきた。京はショックを受けてしまう。
「きッ、気持ち悪い……」
「落ち込むなよババア。多分、また照れ隠しだろ」
アイシャはククっと笑いつつへこんでる京を慰めつつズーハンをフォローする。
「くッ……、まさかあなたにそれを当てられるとは」
ズーハンは唇を噛む、図星だという事だ。
「絡繰兵とは思えぬほど、表情が豊かですな」
「ヤン将軍!」
失言ではないかと京が諫めるのだが、ズーハンは気にするなと笑みを向ける。
「事実ですし、さほど気にはしていませんが。できれば
妲己からもらったその称号をよほど気にっている様子がうかがえた。教わった極陰拳も同様宝と同然なのだろう。師弟愛がよくわかる言葉だ。
「わかった。気を付けよう」
「御願いします」
ヤンが頭を下げると、ズーハンは気にしていないと笑った。
「妲己サマや京老師みたいにかわいい弟子に愛される老師様になりたいですねェ。私、これでも老師ですがまだ弟子がいないのです」
実際、老師を名乗るには国が定めた明確な基準はないのだが、免許皆伝した弟子が名乗る場合が割と多い。そして、メイズの流派がまだ歴史が浅いのも手伝っているのだろうとは思われる。
「まァ、よく妲己についてこうと思ったな。一応知ってたんだろ?」
「そりゃ功夫マニアですし。でも、手合わせして、この人は歴史書とかで言われてるような悪人じゃないなと思いました!」
メイズいわく拳で語り合った仲だという事らしい。口より拳で打ち解けるのは、やはり功夫遣いの性というものなのか。
「なるほどねェ、俺もそうだしなァ」
アイシャは京を竹林で襲撃し、苦戦しつつも返り討ちにあったことを想い出していた。
「そんなこんなで一緒に旅をして、仲良くなった次第です」
「あ、妲己は大丈夫なの?」
京はベッドで寝ている妲己の事を気にした。
「凛という腕のいい軍医のおかげですね。ゆっくりと寝ておられます。直に目覚められるかと」
ズーハンは柔らかな笑みを見せるのだが、
「そうか、なら奴と腹を割って話したいことがある。構わんか?」
話に割って入るのは太公望だ。いつものような枯れた雰囲気はない。真剣な面持ちだ。
「太公望……」
ズーハンはいい顔はしない。かつての妲己と好敵手だった男だ。これは当然の反応だろう。
「絡繰の嬢ちゃんよ、別にここで妲己と遣り合おうって話じゃない。まァ、功夫遣いらしく拳で語り合うのも悪かないがな」
意地の悪い笑みを見せるが、これは上段の類だろう。
「わかりました」
「すまねェな」
ズーハンはおとなしく了承すると、太公望はフッと笑う。
「おーい、軍医殿。入るぜ」
太公望は扉をノックした。
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