神様、そうじゃない
出汁巻きチョコバナナ
一章第1話 神様、そうじゃない!!
「銀髪巨乳で超絶美少女の彼女が欲しかった!!!」
トラックに轢かれる直前そんな事を願ったからだろうか。
「うん、その願い叶えてあげよう!来世はお幸せに!!」
辻綾人つじあやと35歳独身彼女いない歴=年齢だったピュア童貞サラリーマンの俺は銀髪褐色の美少女に転生していた。
もう一度言おう。
『俺』が『銀髪巨乳(予定)の美少女』に転生した。
生涯魔法使い(隠語)だった俺に酷く同情した神様でもいたんだろうが俺の死に際の願いを叶えてくれたつもりらしい。
神様違う、そうじゃない。と今ならツッコミをいれてやる。
さらば俺の息子よ……と悲しみに暮れた事もあった。
転生後といえばまずは現状把握から始まる。
どうやら俺は北の大地にあるスノーラントという領地のジンジャー・スノーラント(15歳)という次女の立場らしい。
上に美しい双子の兄姉がいる。
大陸図を見た所一つの巨大な大陸があり中央に王都キングリムがあって東西南北にひとつづつ大きな街が存在している。そのうちの一つが北都のスノーラントだ。
他に南都パスティア、西都フリージア、東都シノノメがある。
どこも大きな戦争があるなどもなく平和な世界だという事がわかった。
俺のことを話そう
北都スノーラントを納める父親はフェンデル・スノーラント。
彼は白銀の髪に緋色の瞳を持っており西都からの入り婿らしく俺の褐色の肌は彼から受け継いでいる。
母のユゥリ・スノーラント
は雪のように白い肌と夜空色の髪、アクアマリンの瞳を持った超絶美人だった。
もう国一の美人って呼ばれてる。
なんで私はこの人の特徴を一つだけでも受け継がなかったんだろう。
次に勇敢で優しい兄シルバ・スノーラント
彼は姉と同じで夜空色の髪に小麦色の肌、海色の瞳と両親のいいところをうまい具合に混ぜ合わせたような容姿をしている。
姉のリィリア・スノーラントは逆に雪のように白い肌、緋色の瞳、夜空色の髪というなんで俺の兄と姉こんなに美人なの?と言いたくなる。
お菓子くれるし優しい。
しかも御淑やか、秀才、綺麗の三拍子ですでに両人とも婚約者がいた。
その代わりなのか俺には父親の白銀の髪、小麦色の肌、ファイヤオパールの瞳がまるっと引き継がれている。
月と太陽に愛された兄姉妹とか呼ばれていたりしてちょっと嬉しかった。
ちなみに俺に婚約者はいない。
上の二人がしっかりしているので俺は好きな相手と婚約すればいいと母親が言っていた。
断固として俺が拒否したわけじゃない。
だって中身は35歳を超えたおっさんですよ?嫌だよ!結婚とかしたくないよ!!
そんな俺の生活が変わったのがつい数日前の出来事だった。
珍しく神妙な表情をした父親に呼び出されて執務室に行くと一枚の姿絵と共に「お前の婚約者」が決まったと言われる。
思わず姿見を落としてしまった。
「そ、んな……だって、私に婚約者は必要ないって……!」
そう言ったのは父親だったはずだ。
なのにただ一言「婚約者が決まった」とは何事だ。
「王都からの推薦で仕方なく、な……頼むから我儘を言わないでおくれ」
「い、嫌です!!お父様の馬鹿!!」
そう言って俺は部屋を飛び出した。
呼び止める声も聞こえたが無視して自室へ駆けこむ。
外へ探検に行く時用のバックに必要なものを詰め込んで部屋を飛び出す。
「お嬢様?!どちらへ?!」
「家出します!!」
「あらまぁ、気を付けて行ってらっしゃいね」
途中母親も出てきたが止められることなく私は領主館を後にすることができた。
飛び出した後の事は特に考えていない。
だが男と結婚させられるくらいなら一人で生きてやるという意気込みだけで街を歩く。
「お、お姫様!今日は機嫌悪そうじゃないか!」
「まーた無理難題でも押し付けられたのかい?」
通りかかる八百屋や果物屋の店主たちが声を掛けてくれるけれど内輪の話なので軽く手をあげて言葉を濁す。
そのままの勢いで街の外まで出てきてしまった。
スノーラント領はその名の通り雪の降る北の地だ。
北国育ちの私にとって雪道なんてどうってことないと林に入り込みキャンプで着そうな場所を探す。
今日は絶対に家に帰ってやらないんだから。と決意を固める。
野営に必要なものは持ってきている。
後は魔物用に軽めのレイピアを一本腰に装備していた。
いつもより深く踏み入れていくと驚いたことに雪景色の中に花畑を見つける。
ふわりと吹いた風にフローラルな香りが鼻をついた。
花畑の真ん中にまるで人形のような少女が座り込んでいた。
ピンク色の花が咲いているのかと思う薄桃色の髪がふわりふわりと風にそよいでいる。
その翡翠色の瞳が涙で濡れているのがわかった。
「え、ちょ、ど、どうしたの……?」
放っておいたら消えてしまいそうな儚さを持った女の子だった。
思わず声を掛けてしまった。
かけてしまってから気がつく、女の子の頭にある黒い魔族の角の存在に。
「ふえぇええええ!」
私の姿をみた少女がさらに声を上げて泣き始めてしまう。
「ええええええ、どうしたっていうのさああああ」
「人間んんんんんん」
「ええええ私が原因かよおおおおお」
敵意は無いとレイピアをブン投げて落ち着かせようとする。
なんども敵意が無い様子を見せてようやく落ち着いて話が出来るようになったのは三十分くらいたった頃だった。
ふわふわの人形みたいな魔族の女の子はユウリと名乗る。
俺も敵意が無い事を示しながらジンジャー・スノーラントであると名乗った。
「に、人間は魔族を見るといじめてくると聞きました……」
「あーこっちでは逆に魔族には襲われるって習ったよ」
どうやら相互認識に違いがあるらしい。
「お姉さんは襲って来ません?」
「襲わないよ!」
むしろこんな可愛い女の子を襲うなんて美味しい意味じゃなきゃ嫌だ。
と35歳独身の俺が脳内で叫んでいる。
「ユウリはこんな所で何をしていたの?」
「わ、私は……お母様のためにお花を摘んでいたんですの」
どうやらお花を探しているうちに迷ってこんな人里近くまで来てしまったらしい。
「お家には帰れる?」
「わ、わかりません~……」
また少し泣きそうになるユウリを落ち着かせる。
といっても私も魔族領がどこにあるかわからない。
仕方ない、と私はキャンプ用テントを展開させた。
「お迎えが来るまでここにいましょう」
そう言ってテントの中にユウリを招き入れる。
少し大きめのテントなので小さな少女2人が入り込んでも余裕が十分あった。
雪の中にいるよりかは温かい。
そのままユウリの迎えは来ずに夜を迎えようとしている。
このテントには魔物避けの結界石を使ってあるので夜襲われる心配はなかった。
軽い夜ごはんを作ってユウリと一緒に食べる。
「おいしいです」
と可愛らしく言うユウリにこちらまで笑顔になった。
可愛過ぎか。
問題は夜起きた。
寝袋は一つしか用意してなかったので二人で一緒に使用する。
少し窮屈かな?と思ったけどそれはそれで修学旅行みたいで楽しかった。
お互いにいろんなことを話ていると俺はいつの間にか寝入ってしまう。
もぞもぞとユウリが動くのを感じで目が覚めた。
「……ん?」
「お姉さま……」
蕩ける様な声で呼ばれる。
何が起きているのだろう?
気が付けばユウリが俺の上に馬乗りになっていた。
「ユウリ……?」
「ごめんなさい、お姉さま……」
ごめんなさい。それを繰り返しながらユウリの顔が近づいてくる。
何か術でも使われているのか体が動かない。
ちゅう、と軽い音がして唇が触れあった。
「(な、なにごとー?!?!?)」
ユウリの舌が薄く開いた唇から中へ侵入してくる。
ぴちゃりと唾液が絡み合う感覚に混乱した。
動かない体と、様子のおかしいユウリ、突然のディープなキス。
しかも何かの術が働いているのか舌が触れ合うたびに電撃が走ったように気持ちよさが体を巡る。
「ふぁ、あ……」
唇から声が漏れた。
「お姉さまぁ……」
ぴちゃと唇が離れて唾液がお互いの唇を結ぶ。
体が熱い。
「ごめん、なさいぃ」
ユウリはそう言って俺の上に倒れこんで意識を失ってしまった。
ようやく動くようになった体は異様に火照っている。
これは一体なんだったんだ……。
何度自問しても答えは俺にはわからなかった。
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