スペード国のジョーカー

多摩川一人

エピローグ-♠️J-

家族とテーブルを囲んだことがない僕にとって、この老人と共に囲む、冷たく硬いパンと生温いスープは新鮮で温かかった。


「お前さんの能力はこの国の役には立たん。残念ながら排除対象に指定される」


老人の目が僕の心をえぐる。


「...しかも、『しゃべれない』お前さんがどう生きてきたのか、...想像するのは難しくない」


思い返していた。母は、僕のこの『腕の印』を人から隠し、妹も遠ざけ、隔離させられ、

そこに僕と言う人間が存在すらしないように生かされてきた。

口すらきけない僕には、何も抗う術はない。


「だが、お前さんしかない能力があることがある?」


僕しかない能力?


「その腕の印の『J』にしかない能力。お前さんは『K』を刺せる」


???『K』


「その腕に刻まれた印ナンバリングは『ジョーカー』。呪われた印だ。...だが唯一、『キング』を倒せるカードである」


僕は左腕にうかぶ『J』の印を押さえる


「その印によって、お前さんたちは国から排除されるだろう」


胸が痛む...痛い


「お前さん...ロイドと言ったか」


「黙って殺されるか?」

「または抗うか?」



名前はロイド、ナンバリングはJ。

その日、殺される運命の男が、自らの意思でそれに抗った日であった。

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