episode 27 ターゲット捕獲できず……
「え? 雅君の連絡先!?」
「そそ! お兄さんにちょっと連絡ってか相談があってね」
「なんで? 私じゃ駄目なの?」
まぁ、そう言うよね。
だけど、ホントの事は言えない。心に頼まれてるからってのもあるけど、無暗に夕弦を怖がらせる必要なんてないからだ。
とはいえ、威勢よく守るだの助けるだの宣言したはいいけど、どう考えてもか弱いJK1人でどうにかできる案件じゃない以上、やっぱり協力者は必須なわけで。であれば夕弦の義兄であり、心のカテキョでもあって2人共知り合い以上の関係である月城さんを頼るのは当然の選択肢なのだ。
決してどさくさ紛れにワンチャンとか狙ってるわけじゃない。いや、ホントだよ?
「うーん……ごめん、やっぱ駄目だよ」
「えー!? なんでよー。もしかして、あれ? 私のお兄ちゃん取らないで的な」
「ち、違くて! 私にとって美咲は友達だけど、雅君にとっては違うじゃん。だから許可もなしに勝手に番号とか教えられないっていうか……。美咲だってそんなの嫌じゃない?」
「……まぁ、それもそうか。でもなぁ……」
唯一の協力者にコンタクトをとれないのは痛い。事情を説明しても絶対に協力してもらえるかは分からないけど、この前お邪魔した時の2人の様子を見るに、可能性は十分にあると思ってたんだけど……。
夕弦の家にまたお邪魔させてもらったら会えるのは会えるんだろうけど、それだと側に夕弦がいるからそんな話出来るわけないしなぁ。
「そんなに大事な話なの?」
「うん! めっちゃ大事!」
(だって、夕弦を守る話なんだもん!)
「雅君を誘惑するとかじゃなくて?」
「……違う」
「今の妙な間はなに!?」
(おっと! 煩悩が漏れてしまったようだぜ)
「本当に違うよ」
「はぁ、わかった。番号は無理だけど、バイト先なら教えられるよ」
バイト先!? そういえばカフェの店員やってんだっけ。よっし! この件が片付いたら通いまくろう!
「……今、邪な事考えてなかった?」
「ソンナコトナイヨ」
見事にエスパーされて思わず片言になっちまったい。
「【モンドール】ってお店でバイトしてる。私も場所を聞いただけで行った事はないんだけど、確か明日夕方からシフト入ってるって言ってた」
「モンドールね! あ、店の住所よろ!」
すぐさま店の住所が送られてきたのを確認した私は、改めて夕弦をジッと見てみる。
「ん? なに?」
知り合ってから随分と砕けた感じになったと思う。実際お泊りとかさせてもらったわけだし、私と夕弦の関係は順調に良好だ。
だけど、無意識にかもしれないけど、夕弦は何時もどこか怖がっている節がある。勿論それは常にある感情ではなくて、知らない事や理解できない事がある場合にだけ顔を出す。
実は夕弦から昔の事っていうか、中学の時はどうだったかとか、前の高校はどうだったかとかいう話を聞いた事がない。
前にちょっとそういう感じの話題になった事があるんだけど、途端に夕弦の口数が極端に減ってちょっと顔色が悪くなった。まったく空気が読めない亜美がその話題を夕弦に振ろうとした時、咄嗟に話題を逸らしたんだけど、その時の夕弦はホッと安堵してるようだった。
ここへ転校してきたのは親の再婚が理由だけど、夕弦にとって今回の転校は寧ろ嬉しい事だったんじゃないだろうか。
私達と仲良くなって心と知り合った、この学校へ来て夕弦は毎日楽しそうに生活してると思うけど、無意識に私達にも構えるところを見るに、以前はそうしないと駄目だったんじゃないかと思うから。
そうしないといけない状況ならいくつか想像できるけど、それは私から訊く事じゃないし、話したくないのならずっと話さなくてもいい。
ただ、私に対して無意識に構えさせる癖を治したい……ううん。私だけじゃなくてこの学校で知り合った友達たちも一緒だ。
その為にも、沢井の件は完全に潰さないと駄目だから、やっぱりお兄たま……お兄さんに協力してもらわないと!
☆★
「ここだね」
翌日、私は夕弦に送ってもらった住所を頼りに雅さんがバイトしている【モンドール】の前にいる。
「18時半前、か」
夕弦の話では雅さんは今日19時までのシフトらしく、このまま店に入って注文する時にアポをとり、バイトあがりに少し時間を貰う作戦だったんだけど……。
「なんで店の外まで列が出来てんの?」
大きな駅前でもなく有名なチェーン店でもないし、雑誌に取り上げられたこともないはずの、どちらかというと地域密着型の個人経営店であり場所も住宅街の一角にあってお世辞にも立地条件がいいとも言えない。
そんなカフェとも呼べない典型的は喫茶店だというのに、何故か店の外にまで伸びている順番待ちの列に、私は困惑しているところだ。
「よく見たら女ばっかじゃん」
列を作ってるのは女ばかりなうえ、年齢層の幅も広い。下はどう見てもJC、上はフェロモン全開のお姉さんまでバラエティに富んでいて、これから派手なイベントでもあるのかと勘ぐってしまう程の熱量がそこにはあった。
(こんな列にまともに並んでたら、雅さんのシフト時間内に間に合わないじゃん!)
あと30分もすれば雅さんは仕事を終えて帰ってしまう。どう考えてもそれまでに店に入る事なんて出来ない。こう見えて私は結構は部活女子で今日は仮病を使ってサボってここに来ているから、また仮病なんて早々使える手じゃない。
今日を逃せば何時になるかも分からないし、なによりのんびりなんてしてられない案件を抱えてる以上……。
(殆どストーカーみたいで気が引けるけども!)
私は列から外れて全体的に店を見渡せる場所へ移動した。ここなら雅さんがバイトを終えて帰るところを確保できるからだ。
張り込むこと15分後、店の前にできてた行列が全部店内に入った。それは間もなく雅さんのシフトが終わる事を意味していて、私はもうすぐ訪れるチャンスを逃すまいと神経を店の周辺に集中させる。
「こんなとこでなにしてるし」
「へっ? ――ぐえっ!?」
まだかまだかと前のめりになっていた上半身が不意に逆反りになるという摩訶不思議な体勢になるのと同時に、踏んづけられた蛙みたいな声が出た。踏んづけられた蛙の声なんて聴いた事ないけど。
誰かが後ろから私の首に腕を巻き付けている。というか、聞き覚えのある声に背筋から冷たい汗が零れ落ちる。
「こ、心!?」
「ん。場所変えるし」
お前に拒否権なんてないと言わんばかりに有無言わさず、私は引きずられるようにして、やっと現れた雅さんに一言も話す事なく心に強制連行されてしまう。
連れて来られたのはモンドールがある通りから一本外れたところにある、どこにでもありそうな公園だった。多分この辺りに住んでいる子供達の遊び場として利用されている場所なんだろうけど、この時間だともう遊んでいる子供の姿はない。
小さい東屋でイチャついてる高校生カップルらしき2人の男女がいたけど、負のオーラが駄々洩れてる心の姿を見て光の速さで去っていって、公園には私と心だけになった。
「で? 大体察しはついてるけど、一応確認するし。あそこでなにしてたん?」
「……えっと、珈琲飲みに?」
「こんな住宅街で他に何もない店にわざわざ? 美咲ってこの辺に住んでるわけじゃないよね?」
「う、うん。ここの珈琲が凄く美味しいって聞いて……」
「どこ情報なん? あそこの珈琲なんてふっっつーだし! そもそも美咲珈琲好きだっけ?」
「あ、いや……さ、最近好きになって……さ」
「ほーん。で? 聞いたって誰に聞いたん?」
「……夕弦、に」
「夕弦? あの子モンドールに来た事ないはずだし」
うう……。ハナから信じる気ないくせに自白させようとするのやめれ……。
「……はぁ、わかったよ。目的は雅さんだよ」
もうというか、見つかってしまった時点で完全にシラを切るなんて無理ゲーと諦めた私は目的の半分を白状した。何かで読んだ事がある。本当に隠したい事がある場合、すべてを隠そうとせずに半分は本当の事を話して信憑性をもたせる事が大事だって。
「センセ目的なんて初めから分かってるし。アーシが訊きたいのはセンセに何の用があるのかって事だし」
「そ、それは雅さんにお近づきになり――」
「――それ嘘っしょ。ホントのこと言えし」
(うう……。ある意味ホントの事なんだけど、それは今後の事であって、心の指摘は正解だ。でも、こればかりはどれだけ疑われてもしらばっくれるしかない)
「ほ、ホントの事だってば! だってあんなイケメン見た事ないし……こ、心だってそうなんでしょ!?」
「は?」
(ひいぃぃぃ! こわいこわいこわい!)
「正直に言うし。センセに沢井の事話そうとしてたっしょ」
「…………だから、私は」
「センセに協力してもらおうとしてたよね」
「………………ちが」
「してたよな!?」
「………………はい」
無理! 絶対に無理! 今は前と違ってギャルギャルしてないのに、何故か身にまとう雰囲気が〝それ〟で私を見る目に恐ろしくなるほどの殺気を帯びてるんだもん……。
だから同時にこうも思うんだ。
(心が動こうとしてる)
心と一緒に行動するようになったのはつい最近の事。
だからまだ彼女の事をよく知らないけど、沢井の被害者だというのは分かってる。具体的に何をされたかとか聞いたわけじゃないけど、麗奈の友達の話を聞いてだいたいの察しはついている。
沢井がバラまいた噂はまったくのデタラメで、実際2人が別れた原因は全て沢井にあるはずなのに、それらを否定せずにジッと我慢してたのはきっとセフレと同じ事をされて脅されていたからだろう。
その心が夕弦を守る為に動こうとしているんだ。
(……心がそこまでしようとしてるのなら、何も言えない。だけど、こればっかりは私達だけでどうにか出来るとも思えない)
「一つ訊いていい? なんで雅さんに助けてもらうのは駄目なの? あれだけ溺愛してる義妹を守る為なんだから、頼んだら絶対に助けてくれると思うんだけど」
「だろうね。センセならどんな手を使ってでも夕弦を守ると思うよ。それは分かってるし……でも」
「……でも?」
「……センセにだけは、知られたくない」
何を知られたくないのかなんて大体想像つくし、そう思う心の気持ちも分かる。
好きな人に沢井にされた事を知られるのは、身を裂くような辛さと羞恥に苛まれる思いなんだろう。その辛さは被害者にしか分からない。
「だけど――」
「――だから、アーシが夕弦を守るし」
「っ!」
心の目は真剣だった――ううん、まるで刺し違える覚悟があるみたいに、その目は殺気を帯びていた。
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