episode・3 幼馴染
「突然、悪かったな」
「……いいよ。お昼ゴチになるんだし」
俺は最近オープンしたショッピングモールにいる。
明日に迫った先行投資と言う名のコンパに向けて、参加資格を得る為に何とかしろと瑛太に言われた服を買いに来ている。
「大学の方はどうなん? 二回生になって」
「どうって別に。高校と違ってクラス替えがあるわけじゃないしな」
「相変わらず月城はドライだねぇ」
一緒に連れて歩いているのは近所に住んでいて小、中学が同じだった所謂幼馴染の
今日の講義は3限で終わりだった為、違う大学に通っている石嶺に服を見繕ってもらおうと連絡をとると、夕方からバイトが入っているだけだったらしく、昼食を御馳走するからと頼んでみたら即決でOKが出て現在に至る。
「そういう石嶺はどうなんだよ?」
「アタシ? アタシは楽しくやってるよ」
「そうか。そういえば彼氏って出来たのか?」
「か、彼氏!? な、何で月城がそんな事聞くの?」
「いや、大学生になった時、これからピンク色のキャンパスライフを送るぞって気合い入れてたからさ」
そういえば何故か俺にそう宣言した時、石嶺のやつ顔を赤くしながら俺を怖い目で睨んでたっけ。
何であの時、顔を真っ赤にする程怒ってたんだろ。
「い、今はまだ選別中なんだよ! ほらっ! 服選ぶんでしょ!?」
「お、おう」
俺はまたあの時のように、顔を赤くした石嶺のお薦めのショップに向かった。
「これとこれ……あとこれもいいかも!」
服の良し悪しがよく分からない俺は、石嶺の後を金魚のフンの如く付いて回る。
石嶺は子供の頃からファッションに煩いほうで、顔を合わす度に、ダサい!ダサい!とよく罵倒されたものだ。
今だってお洒落だと一目で分かる服装を着こなしている。
後で聞いてみた事だけど、今日は動きやすさ重視のワンピースでフィッシュテールの袖とドロストリボンでキュッとウエスト周り締めてるのがポイントらしく、パンツは衝動買いした新色のスキニーだと教えてくれた。
……全く分からんけどな。
「ところで、月城がまともな服が欲しいなんて、珍しいじゃん。なんかあんの?」
今着ている服はまともじゃないんですか?……そうですか。
「ん? あぁ、明日コンパに参加するんだよ」
俺が値札を見て脂汗を垂らしながらそう答えると、ガシャンと何かを落とす音が聞こえた。
何気なく値札から石嶺に視線を移した先に、目をこれでもかと大きく見開き、口元をワナワナと震わせている石嶺がいた。しかも手に持っていた服を全部床にバラまいてしまっている。
「ちょ、何やってんだよ。これ売り物なんだぞ」
慌てて落とした服を拾おうと石嶺の前でしゃがみ込めば、視界の両端から細く白い腕が伸びたのが見えたかと思うと、いきなり襟首を締め上げられた。
「今、何て言った!? コ、コンパがどうのって聞こえた気がするんだけど、アタシの聞き間違い……よね!?」
「え? い、いや、それで合ってるけど? つか苦しいんだけど」
「……じゃ、じゃあ何!? コンパ映えする服をアタシに選ばせてるってわけ!? 月城はお金稼ぐ事だけで、恋愛に興味がないんだよね!?」
「結果だけ見たらそうなるのか。いや、恋愛なんてするつもりないって! 俺はこのままで行くつもりだったんだけど、瑛太に却下されてさ」
「瑛太?……瑛太って大山の事!?」
俺は明日のコンパに参加しなければならなくなった経緯を掻い摘んで石嶺に話すと、ようやく襟首から手を離して解放された。
「大山って、アタシも何度か会った事がある、あの軽そうな奴だよね?」
「あ、あぁ、その大山で合ってるよ」
「とりあえず大山は今度ぶっ飛ばすとして、またバイト増やすつもり!? それでなくてもK大って大変なんでしょ? 体壊しちゃうよ」
な、なんか1部分怖い事言ってるのが聞こえた気がするけど、石嶺が怖いからスルーしておこう。
「いや、カフェは続けるけど、書店の方は店が移転する事になってクビになったんだ」
「それで家庭教師か……ん~腑に落ちないけど、そういう事なら協力してあげる……」
「お、おう。サンキュな」
石嶺はようやく落とした服を拾い集めて俺に押し付けて試着しろと告げてきた。
え? これ床にバラまいた服だよね? 金稼ぐ事しか考えてない奴にはこれで十分って事なのかな?
「どう着替え終わった?」
「あ、あぁ……でもこれって派手じゃね?」
俺はブツブツとボヤきながら、試着室のカーテンを開いて試着した服を石嶺に披露した。
石嶺は特段似合わないとか馬鹿にする事なく、手を顎先に当てながら何やら考え込んでいるようだった。
「何かイメージしにくいなぁ……あ、そうだ! さっき雑貨屋で買ったこれ使ってみてよ」
石嶺はそう言って、手に持っていた袋から洗顔用に買ったヘアバンドを取り出して、投げ渡してきた。
それにどんな意味があるのか分からなかったが、今日は全て石嶺に任せると決めていたから、素直に髪を全体的に上げるようにヘアバンドを頭に巻いた。
「あとはこれも取って」
続けて今度はかけていた眼鏡を有無を言わさず、取り上げられてしまった。
自慢ではないが、あれがないと本当にぼやけてしまって見えなくなってしまうのに……。
ってあれ? 石嶺の声が聞こえなくなったぞ?
「おい、石嶺? なんも見えねぇから眼鏡返してくれよ」
眼鏡の返却を求めると、何も話さなくなった石嶺が突然カーテンを勢いよく閉めた。
あれ? やっぱりこんな服は俺には似合わなかったのか?
「う、うん! まぁいいんじゃない? それでいいと思うから、さっさと脱いで元のダッサイ服に着替えて、ヘアバンドも取るように!」
ダサいって、世界一のアパレルメーカーと俺に謝れ!
「言われなくても着替えるけど、その前に眼鏡返してくれよ」
再度眼鏡の返却を求めると、一瞬カーテンが開く音が聞こえたと思ったら、そこから勢いよく眼鏡が飛んできて額に直撃した。
「いって! 何すんだよ!」
「いいから早く着替えろ!」
◇◆
なにあれ……ヤバい。
知ってたよ?知ってたけど、いざ目の前で見た途端、意識が吹っ飛びそうになった……。
普段がもはや仮の姿って言っても、決して大袈裟じゃない。
もうギャップ萌えとか次元の違うお話だ。
その証拠に、前髪を上げて眼鏡を取った瞬間の視線の集まり方よ……。
ここはメンズファッション専門店だ。だから当然このショップにいる女の子は彼氏といてたりする子が殆どだろう。
それなのに月城の眼鏡を外した途端、彼氏をほったらかして月城をガン見するか普通……。
もう目がハートになってやんの!漫画かっての!
早く変装させてって、もうどっちが変装なのか分かんなくなってきた。
つか、もう変装がデフォになってるしぃ!
いや、待って!明日はあの恰好でコンパに行くんだよね……。
月城の目的は、女の子の出会いじゃないのは分かった。
でもそんな事、女共にしたら関係なくない?
コンパに来る女なんてイケメン探しの肉食系ばっかりじゃないの!?
確信した!明日のコンパで月城の周囲が煩くなる!絶対になる!
――だ、だったら、アタシだって!
「なぁ、その百面相っていつ終わるんだ?」
「うひゃっ!!」
脳内会議に没頭していると、思ったより早く着替えを済ませた月城がぬぼっとした顔を向けていた。
その惚けた顔の持ち主に百面相とか言われると、軽く死にたくなるんだけど……。
「やけに早い着替えだったじゃん」
「いや、お前が早くしろって言うから、急いだんだけど?」
そうでしたね……。
「おぉ! いいね、いいねぇ! そのボサボサ頭にガリ勉眼鏡! 陰キャ丸出しのその恰好!」
「……喧嘩売ってんのか?」
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