ゆめ
晴れ時々雨
🥃
夢かと思うんですけど。
高校生の時、母のはとことかいう親戚の女性がしばらくうちにいたことがあるんです。私は当時でも世間知らずというか特に男女のそういった物事に疎く、そのお姉さんの話に恋愛小説のようなときめきを覚えてどきどきして聞いていました。
お姉さんと呼んでいました。お姉さんの語り口はまるで文学的で、丘の上の鐘のある公園で夕日を背につがいの雲雀が飛ぶ黒いシルエットだとか、蔓バラの生け垣で恋人を待ちながら煙草をふかすだとか、映画のワンシーンのように私の脳裏に蘇り、眠るまでのひと時、私のベッドに入ってきて直接夢に働きかけるように低い声で囁かれて私の意識は遠くなり、お姉さんに優しくさすられる心地良さと刺激的な展開に陶酔しながら目覚めると朝が来ているような日々を送っていました。
眠る前にふくんでいたお姉さんのナイトキャップをご相伴になるとそれはとてもよくお話が入ってくるものですから、彼女の手が私の寝巻きの胸元に滑り込んで乳房を弄ぶことなんてその時は大したことじゃないと思っていました。初めはその行為にはっとしましたが、お姉さんが語るのをやめないのでなすがままに身を任せるうち何か止めてはいけないような気になり、そうしている自分に恥じ、恥じることに恥じ、どうにもできないでいました。
あるときいつものように秘密の儀式めいた一連の行為が逸脱した夜がありました。お姉さんは私の秘めた場所に指を割り入れたのです。それだけはいけないと思い強く閉じた腿は、その後の彼女の話と耳朶を甘く噛まれる快感に為す術なく侵入を許し、治りかけた瘡蓋を剥がすような痛みと耐え難い痒みが同時に押し寄せ私を混乱させました。恋人との別れの物語でした。
翌朝、お姉さんはいませんでした。住処を見つけ出ていったそうです。
ベッドサイドには口紅のついた洋酒の空き瓶が残されていました。
夢であると思うのにいつまでも消えないで、思い出すと何の涙か、とまらないのです。
ゆめ 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
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