7 / ⅹ - 黒点 -
「私の仕事は事実のみを発信することだ。生憎と憶測の発言で混乱させてはならぬ身なのでな」
詰め寄るエンツォに、あくまで
「首席サマはどーすンだよ。尻尾振るべき大事な大事な主殿じゃねェのか?」
嫌なことを悪びれなく聞くものだと、その言葉を受けたガウェインは片方の眉をピクリと上げる。
そして数秒ばかり考える素振りを見せた後に、小さな溜息を吐きながら応えた。
「……彼は民の声を良く聞く。彼は常に正しき道を選ぶ。それは確かに気高き尊きものだ」
が、
「だが、それだけだ」
この世界は、決して綺麗なものだけで作られている訳ではない。
まさにガウェインの眼前に座る人物の様な、骨の髄、血の一滴まで悪行に使い潰す存在と渡り歩くには、〝善く在れ〟は夢想が過ぎると太陽の騎士は語る。
「現状がどれ程の叡智を集めた上に織られたシステムの上に成り立つ、恵まれた環境であるかなど知ろうともせずに、民草は響きの良さだけで変革という先のビジョンなどまるで見えない暗愚を選択しようと声を荒らげる始末だ」
それを良しとするなど───、
「優しきだけの代表では……欲望の肯定者では、この世界を動かすには甘過ぎる。そうは思わないか」
アーサーは正しい。
正し過ぎるのだ。
夢を売る者も現実で食べてなければ生きられないように、理想を口にする執政者も、その身体は現実に足を根差している以上は、白も黒も混在した世界で歩を進めなければならない。
「はン、言うじゃねェかよ」
その点を考えるに、皆の意見を聞く姿勢のアーサーは理想的な話の聞き手で、理想的な民の代表者だろう。
しかしだからと、ならば理想的な責任者かと、理想的な先導者なのかと問われた際に、ガウェインは素直に首を縦には振ることが出来なかった。
「それでも私は、燃え巡り照らす太陽のような強さと永遠を象徴する騎士の名を冠した。ならばとて、私の思う義を貫くまでだ。太陽の光が貴様らを、【
老いてもなお血の鮮やかな瞳が、指先が、彼の芯から巡る力強さを物語る。
そして同時に彼の脚元から首までが暗黒に浸り、その手が血に塗れていることを言葉の裏で見透かしたエンツォは、堪え切れない笑みを零していた。
「そうか、いや、それでこそのガウェイン卿か」
この場はこれまでと、どちらが言うでもなく二人が察する。
エンツォは溜息を一つ吐いて椅子から立ち上がると、ガウェインの側付きに一瞥して言葉を投げ掛けた。
「次の再会は翼を折った祝賀会か……いやもしかすると地獄の底で、なんて未来かもしれねェな、卿。それまで精々、互いに悪の華の実をじっくりねっとり育てようじゃねェかよ」
そしてこの言葉を最後に、闇の住人は暗黒へ消える。
「なァ、お父様」
先代『
名を捨てし太陽の騎士
老翁は一人、
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