7 / ⅵ - 東方より西方へ -
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「……ほう、翼の連中が動いたか」
花の都ルテティア───聯盟は水の都から北西に離れ、中央大陸の西端に位置する星状の国。
その都市にある白磁の建造物の中で、初老の男性が小さく呟く。
「率直に問おう。我ら円卓の意を伺いたい」
聯盟最高評議会『円卓会議』。
そこでは同盟国内で特に影響力を持つ国々が、理事国として旧世───西暦時代における聯盟の最高傑作が一つ「アーサー王伝説」に
それは言わば国単位での国会のようなものであり、正式名称ではないが与党に位置する派閥を王家派、野党の立ち位置の派閥を叛逆派と呼ぶのが聯盟国民の呼び名であった。
「私はどのようなものであれ、貴方様のご決断をサポートするまでです。アーサー王」
最高評議会議長、第十三代目アーサー。
彼ら『円卓会議』に連なる者達は、国の為、そして聯盟の為に名を捨てし公僕である。
「私など首席と呼ばれるだけで十分だ。不相応な呼び名で老体を虐めないでくれたまえ」
彼は王と呼ばれるのを良しとしない。
アーサーはあくまで座の名前であり、聯盟は首脳国会議によって運営されている故に、議長という首席はあれども絶対君主とは成り得ないからだ。
そして何よりも、彼は己が王たる器ではないと思っていることこそ、アーサーという統べし者の名を有しながらも王と呼ばれるのを望まない所以である。
咳払いをして話を戻せば、アーサーの問いに答えた老齢の男性の言葉を最初に拾ったのは、彼と対になる位置に座る若々しく張りのあるテノールボイスの持ち主だった。
「答を早まるなガウェイン卿。我々は首席の独断に
「お言葉ですがモルドレッド卿、何事におきましても否定から入る人間ほど、信用のならない人もいらっしゃらないかと」
冷静、やもすれば冷徹とも捉えられるその言葉に被せて投げ掛けたのは、女性の穏和ながらも芯のある透き通った声。
「ランスロット卿、上座から正論を垂れるだけの貴女だけには言われたくない」
「愚弄するか
「よい、そこまでだ」
飛び交う言葉の数々を、アーサーが手を挙げて静止する。
「首席。聯盟の未来を語るに、聯盟の現実を見るに、私には一つ拭い切れぬ懸念がございます」
「発言を許可する、申してみよ」
アーサーから発言の許可を得て発言するは、凛とした声と真っ直ぐな瞳で鋭く切り込む気高き女騎士。
穢れなき色で国民に光を示す金糸のロングヘアーを靡かせるランスロットは、男性のような濁りのなく透き通った、それでいて力のあるソプラノボイスを円卓に響かせる。
「我が国では野党による大衆への煽動が、無視できない規模まで膨れ上がっております。この流れは我が国だけでなく、モルドレッド卿方の国にもあると耳にしております」
聯盟という軍事経済同盟は欠陥システムだ───そんな声が聞こえ始めたのは果たしていつ、どこ、誰からだっただろうか。
各国から円卓の騎士を選出し、多様性の強みを生かし多方面から包括的なアプローチで時に人々を守り、共に人々と発展する。
国境を越えた
「ガウェイン卿は政権が揺らぐのではないか、とすら騒がれていると聞き及んでおります……そしてそれは首席、貴方の国も、と」
確かに円卓システムにより聯盟各国は豊かになった。
否、豊かになり過ぎたのだ。
仮想敵を三聖翼である
企業間の経済競争を除けば、武力衝突は皆無になったとも言える。
そうして先人達が粉骨砕身し築き上げた平和の大地で育った人々は、時の流れと共に功績を偉業と称えるものが歳と共に世を去り、遂にはその平穏を享受されるのが当然だと感じるようになってしまった。
激動は過ぎ去りし先の時代だと人々は口々にし、そして甘く優しい世界で生きとし生ける者達は、誰からという発起人が名乗るまでもなく、聯盟というシステムが補え切れない箇所に目を向けるようになった。
長所が当然と思われてしまえば、利点の有り難みを忘れてしまえば、それは理の一部に成り果てる。
狭義で例えるならば、害あるものと呼ばれる意を学ばずに獣の血を悲劇と謳う人々のように、広義を見れば聯盟の民草は十、百、千の功績には目もくれずに、一の綻びの為に組織の崩壊と革命が正義だと声を荒らげるようになっていた。
「私は、それもまた一つの現実だと、一つの民の声だと思っている」
返するアーサーの言葉は濁さずに言うならばあまりにも悠長なもので、その真意を問うべくランスロットの眉がピクリと上がる。
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