6 / ⅶ - 正義の在り処 -
&
「なぁ小郷君、正義とはなんだと思う?」
第二応接間に光皆の声が響く。
「点糸議員は脳溢血を起こしたと聞く。今はリハビリに臨んでいるとの話だが、事実上の政界引退で、点糸議員を失った第一野党は実質的に壊滅。小郷君と禾生青年、『
第一野党からの発表をNLCディスプレイで眺めながら、有土と法経がまるで歌劇の主人公のような書き方をしているニュース記事に笑みを零していた。
「それで、だ。改めて聞くが、正義とはなんたるかと問われた時に、君はどう答える?」
有土はその言葉の奥を探ろうとするも一瞬、結局光皆の真意を見通せるまでの技量は自分には無く、また光皆も語ってくれるだろうという結論に至り、ふうと一呼吸置いて述べた。
「正義、とは……正義とは、暴力を正当化する拳の名前を変えた、都合の良い傲慢な名称だと思っております」
それは決して栄光の輝きを持つ美しいものではない。
かつて自分が信じたものに裏切られたことは、決して忘れていない。
決して忘れてはいけないそれを回答と提出すると、光皆は満足した表情を答案の代わりに浮かべた。
「つくづく君は私好みの言葉を返してくれるね。ならば第二問だ、我々与党に異を唱えていた野党は正義だっただろうか。もしくは我々こそが野党に討ち勝った正義というなら、その反対に位置する彼等は悪だっただろうか───正義の反対を、君はどう考える?」
先程の問答に対し、そのボールに答えるには少しの時間を要した。
点糸の行った人為的な『
「正義の反対は、悪なのでは───いえ」
言い淀んだのは、だからと黒一色に塗り潰すのは否だから。
現実はそんな二極化出来るほど綺麗なものではない。
そう思えるのは、彼等の中にも確かに惹かれる白き言葉があったからだ。
「正義の反対は……申し訳ございません。私には適切な言葉がすぐには見付かりません」
視線を下に下げる有土に、構わないと光皆は苦笑を零す。
こんな話は聞いたことがないかと、彼は少年に話を切り出した。
「正義の裏はね、別の正義なんだよ。絶対悪なんてこの世にはなくて、翻せば万人が悪に成り得てしまう。結局、人と人の対立というのは正義と正義の衝突で、更に言ってしまえば戦争も人々の正義が噛み合わなかった結果に過ぎないんだよ」
「別の、正義……」
正義だから、法経はその主義に惹かれ信じた。
正義だからこそ、鎌瀬も点糸も自分の考えに絶対の信頼を置いた上で行動していた。
光皆は有土にそう説明した。
「自分の主張で民を導くことが最重要ではあるが、もし彼等の正義の中に頷ける言葉があったのなら、それを取り零さないことも勝者の義務だと私は考えている」
そして、有土に第三の問いを投げ掛ける。
「さて、小郷くん───君の正義は、どこにある?」
ここで初めて、光皆は明確な敵意を有土に向けた。
「───ッ」
普段の物腰柔らかな悪戯好きな少年心を持った茶目っ気のある眼差しでなく、全てを見通すかのような達観した眼光でもなく、必要であれば対立も辞さないという冷徹な視線を向けられた有土は、思わず言葉に詰まる。
明け透けな媚び
ならば素直に心境を吐露してもいいのかと、その口は
「第二ラウンドと洒落込もうじゃないか、小郷君。君は私の正義の元で『
ゴングは既に鳴った後で、賽はとうに投げられている。
「さぁ、聞かせておくれ」
言うしかないのだろうと意を決した有土は、己の正義を言葉の剣に変えて鞘から抜き出し、重しの付いた口をゆっくりと開いた。
「私が望むのは、この世界に青空を取り戻すことです。そしてその為には、この戦争を終焉に導くことが不可欠だと考えております」
「……それは、第一野党の掲げていた主義ではなかったか?」
第一投目を怪訝な表情で打ち返す光皆に、臆することなく有土は返球の用意をする。
「それこそが光皆社長が仰っていた、私が彼等の正義の中に頷ける言葉、です。しかし彼等の言う武力の放棄は
ですので、と有土の祈りの言葉は続く。
「
一
「……そうか。眩しいな、君の正義は───」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます