6 / ⅵ - 天使からの啓示 -

 彼が吐露した感情は、戸惑いが一番に近いだろうか。


「真紀奈は、俺を責めたりしないの?」


 今の彼女は、ある種の興奮状態にあるだけなのではないかと、非日常を体験しているから何も弱音を吐いていないだけで、その本心では有土に対し少なからず思うことはあるのではないかと、それが彼には気掛かりで仕方がなかったのだ。


『ねぇ、ゆうくん』


 対する真紀奈は穏やかな声で、彼の背中を支える優しい笑みを浮かばせながら言った。


『私はね、後悔なんてしてないよ。いざ航空機と実際に演習した時に、もしかしたら恐いって思っちゃうかもしれないけど……でもね、今は嬉しいって気持ちが大きいんだ』


 有土の役に立てるのが嬉しいという気持ちは、今でも変わらないと彼女は言う。


『世界を変える力だよ、ゆうくん。きっと今が歴史の特異点で、ゆうくんがこれからの世界を作っていくんだよ』


 それだけの力が『機動装甲アルカディア』と『武装義躰エクスマキナ』にはある。


 自分が保証する、他でもない真紀奈だからこそ保証が出来るのだと言う彼女の言葉を、有土は黙って聞いていた。


『それにね、ゆうくんからこの翼をもらった時、一つだけ叶えたいことができたんだ』


「真紀奈の……願い?」


 コクリと小さく頷いた少女は、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。


『わたしはね、戦争の先にあるものがわからなかったの。戦争を終わらせたら何が変わるのか、ゆうくんが教えてくれるまでは思いもしなかったんだ』


 しかし有土は皆に指し示した。


 天使の骸に覆われた漆黒の曇天の向こうには、美しい世界が広がっていたことを。


『言葉だけじゃ足りないけど、この翼があれば世界中を飛べる。世界中に伝えることが出来る』


 天使を超越した存在なら、この戦争そのものすらも終焉に導ける抑止力に、牽制力に、平和の為になり得るのだと、真紀奈は語った。


『だから、これがわたしの願い』


 大剣の出力を上げるとビーム部分が縦に伸びる。


 それは『千紫万紅いぶさき』の大きさにまで迫ると、今度こそと真紀奈は迷うことなく漆黒の雲に向かって飛翔し、曇天の中にそのきっさきを突き刺しながら、祈りの声を張り上げる。


『お願い───『水月鏡花まりりん』!!』


 ざん、と大きく一閃、弧を描くように大きく振り翳すと、その太刀筋の軌道線上に大きな衝撃波が走る。


 それは重く暗い漆黒の雲を払い除け、そこから差し込める青い空の光芒が純白の翼を纏った少女に輝きと煌めきをもたらす。


 そして、神の国から舞い降りた天使は、天啓を少年に示すのだった。




『わたしはね、ゆうくんが見たこの青空を、世界中に届けたいんだ』




 ……嗚呼。




 それなら、自分の答えは───、

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