4 / ⅸ - 消えない虹色の思い出 -
───暗転。
そして、虹。
思い出はセピア色に
その掛け替えのない思い出は、彼女の中で今も色濃く鮮明に輝いている。
「こざと、ゆうと、君」
『アンゲロス』の教育機関は、幼稚園から大学部までが一貫した附属学校が一つあるだけである。
編入生というのは漫画や物語などでしか知らないクラスの彼等にとって、真紀奈の存在はとても希有なものだった。
故に、彼女に沢山の事を聞いてみたい気持ちは山々なのだが、何よりも初めて幼少期を共に過ごさなかった人を目の前にした際の接し方がわからないでいるので、好奇心よりも戸惑いを抱いている人の方が多かったのだ。
真紀奈自身も尻込んでしまい、あまり自分から積極的に話す人ではなかったのだが、そんな彼女の背中を押してあげるように、隣の席に座っていた少年が自分から話し掛けてくれた。
「うん、よろしくね」
勿論、それは大層驚いたものだったが、彼の言葉をゆっくりと
とても可愛らしいく、それでいて幼くも勇気が感じられるような少年の声。
その声は自分の背中を押してくれたばかりでなく、手を差し伸べて輪の中に入れてくれたのだ。
「キミのことさ、まきちゃんって呼んでもいいかな?」
……あぁ。
「うんっ!」
その男の子はなんて優しい子なのだろうか。
「───わたし達も、まきちゃんって呼んでいい?」
「ねえねえ、まきちゃんってさ───」
それから真紀奈がクラスに馴染めるには、さほどの時間も必要なかった。
編入生なんていきなり来られてもクラスのみんなを困らせちゃうかな、なんて思ったりもしたけれど、彼は何一つ嫌な顔も困った顔もせず、あたたかく迎え入れてくれた。
そればかりではない。
彼は他の皆と同じように、自分のことを「ゆうくん」と呼んでも良いと優しく笑ってくれた。
彼が力を貸してくれたこのクラスでこのまま皆と仲良くなれたらと思うと、これからの毎日が光り輝いているように思えた。
「ねぇ、ゆうくん」
だからこそ、恐かった。
本当のことを、話すのが。
だからこそ、聞きたかった。
「なに? まきちゃん」
本当の自分も、彼は受け入れてくれるのかと。
「みんなと違う人って、嫌だよね?」
思い返せば、唐突に支離滅裂なことを聞いてしまったかもしれない。
意味のわからないことを言って、戸惑わせてしまったかもしれない。
「みんなと一緒じゃない人なんて、いない方がいいよね?」
だって、
だって、わたしは。
「大丈夫だよ、まきちゃん」
泣きじゃくっていたわたしを、小さな手が優しく包み込む。
その手は何よりも大きく感じ、幼少期は高体温だからという理屈を抜きにしても、とてもあたたかかったのを覚えている。
そして彼は、笑いながら言ってくれたのだ。
「 」
───恋に、落ちる音がした───
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