4 / ⅲ - 3つのカード -
一つ、結盟───いずれかの一つの国を勝たせるよう援助して戦争を終結に導くということは、稚拙な言い方をすれば世界征服を目指すようなものである。
それを実現させることは、一を取る為に十と敵対するようなものだろう。
その中にどれだけの
一つ、合邦───軍門に降りることが“天使の涙を掬う”行為ですらないことなど、言うまでもない。
確かにいずれかの庇護下につくことによるメリットはあるだろう。
しかし、自主自立、自律自治の
『
かつてそう語っていた学友の背中を、有土は思考の片隅で想起する。
無数の夢を叶えているような現実味などない言葉を、例え他人は耳当たりの良い言葉ばかりと、聞こえの良い言葉を挙げ連ねているだけだと苛まれようと、けれども己を折らず信じ抜き意気揚々と壇上で説いていた朋友を思い浮かべる。
「先生、一つ質問をよろしいでしょうか」
有土の説明が終わり、彼は一礼して教壇を教師に返す。
何か質問はないかという言葉に挙手した手を見れば、それは真紀奈のものだった。
「平和な世界とは、なんでしょうか」
戦争を終わらせたい、平和な世界を実現させたい。
法経とその奥に属するあの派閥が高らかに掲げている理想は、
ならば、その考えが間違いかと問われれば、決してそんなことはないのだろう。
「この戦争を終わらせることは……あの青い光をもう一度見ることは出来ないのでしょうか」
有土が、そして恐らく真紀奈を含めたクラスの全員が思い浮かべるのは、模擬戦で『
そして───きっと歴々の亡骸が無ければ見えるのであろう、曇天のその先。
宝剣が切り裂いた先に見えた一筋の
「ふふっ、そうね」
教師の口から小さく漏れた笑みは、生徒の成長を見たからだろうか。
彼女は
「確かに、光皆社長の指揮よりもっと良い選択があったかもしれない。もっと良い歴史が作れたのかもしれないし、私が考えているものよりもっと良い未来もあるかもしれない」
けど───そう教師は言葉を続ける。
「それらはあくまでも、“かもしれない”に過ぎないのよ」
気が付けば教室の誰もが、教師の言葉に聞き入っていた。
「光皆社長の采配が違えば私達は戦争に巻き込まれた可能性も、死んでしまった可能性もある。それでも私達はここでこうして生きている事実は、社長の選択の結果だと思うのよ」
確かに現在は平和ではないのかもしれない。
世界全体で見れば平和とは程遠いものであり、国内を見ても国防局がなければ、どこかの国から攻め入られる可能性の方が高いかもしれない。
「でも……それでも、貴方達は楽しいことがあった時には笑えるでしょ? 私はその笑顔こそが平和の証だと思っているわ」
その言葉を最後に、授業の終わりを告げる鐘が教室に響いた。
「それじゃあ、これで今日の授業は終わりね。教育指導ってところに関しては世良さんに軍配が上がりそうかしら。小郷君の専業主婦以外の将来を考えてるんだったら、是非とも教師の道を勧めるわ」
「せ、先生っ!?」
耳まで真っ赤にしながら恥ずかしがる真紀奈の隣では、説明を強いておいて自分への扱いはあまりに理不尽だと有土が溜息を吐く。
こうして笑える日常というものこそが、教師の言っていた平和の象徴なのだと知識だけでなく心から理解出来たことだろう。
「では、君の輝かしい将来を見込んで頼みをしたい」
けれども……いや、だからこそ───その会談は、残酷な結果を迎えることとなる。
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