Act - 2 「翼の色」
2 / ⅰ - 2つ目の翼 -
蒼歴 █████ 年 一の月
「ホットコーヒーを一つ。ブラックで」
襟元を崩す暇さえないと有土は深呼吸を小さくする。
「同じくブラックのホットコーヒーをお願いします」
隣に座る真紀奈は不安の表情が色濃く出ており、有土の横顔を心配そうに見つめている。
「わ、わたしはホットのアールグレイを、お願いします」
「承りました。少々お待ちください」
NLCディスプレイのメニューからそのまま注文を取る昨今の一般的な喫茶店とは異なり、この店ではウェイトレスを雇うクラシックスタイルで経営している。
店員の明るい声が店内にあたたかな雰囲気を作り出しているが、それでもその座席には張り詰めた空気が漂っていた。
高圧的で、最初からこちらを値踏みする視線を送る人。
そんな印象だった。
「この度はありがとう。知っているとは思うが、私の名前は
執政者として脂の乗った歳と表現するのが妥当か。
甘いも酸いも経験し清濁併せ呑んだ貫禄を見せる初老の男性、点糸と名乗るその人物は、有土や真紀奈がニュース番組などで画面越しに見た時のイメージ通り端的に要点のみを話す。
「お会い出来て光栄です、点糸先生。この度はお忙しい中、若輩者にお時間をいただきましたこと、深く感謝申し上げます」
「社交辞令は結構」
点糸は有土の言葉を一蹴し、運ばれてきたコーヒーを口にする。
「君は今日、光皆執政局長と会談をしたみたいだが、その内容を聞かせてもらいたい」
一投目を蔑ろにされた有土は少し眉を
「大変申し訳ございませんが、光皆代表との話し合いでは他言無用と強く念を押されましたので、返答につきましてはご理解を頂けますと幸いです」
「……結構。光皆“代表”ね」
失言だったと有土が後悔するも遅く、点糸の顔からは有土への興味があからさまになくなっていた。
溜息を吐くかのように明らかにつまらなそうな口調で彼は言葉を捨てる。
「我々の政党代表は光皆執政局長ではないんだがね……すると何かな、彼を代表と言うその口振りだと君は現与党の支持者ということかな」
嫌な言質を拾われたと有土は言葉に詰まるものの、咳払いを一つして言葉を探す。
「ぜ、絶対的に、という訳ではありません。あくまで現政策に納得をしているだけであって……」
「だから光皆執政局長の言葉に従い、人殺しの道具を作る職に進むのか」
「───ッ!」
それ以上は、何も言えなかった。
「現状、『アンゲロス』は世界大戦において中立などと豪語しておきながら、その実態は、あらゆる国に武器を輸出し戦争を嗾(けしか)けているだけの国家に過ぎない。軍需品を輸出する際に、価格変動の禁止、『アンゲロス』領域へのあらゆる国の不可侵を制定し、特定の国への肩入れを行なっていないと主張しているが、そんなものは仮初めの平和に過ぎないのは理解出来るだろう」
二人は言い方に含みはあるものの事実だと、こくりと小さく頷く。
「そして我が国は専守防衛軍として国防局を設けている。今は志願制で賄っているが、だからと言って今後も徴兵されない可能性なんてある筈がない」
法の下では絶対不可侵の『アンゲロス』とはいえ、軍事危機が皆無という訳でもない。
反社会団体の暴動や他国過激派組織の攻撃などから国を守る為に、迎撃部隊や衛兵部隊を中心とした国防局というものを設けているのだ。
「そしたらその時はどうだ? 『
真紀奈の怯えと惑いの表情を見て、彼女を隣に座らせたのはこの為かと有土は内心毒突く。
そんな彼の様子は歯牙にも掛けず、点糸はNLCディスプレイを取り出し、自政党のマニフェストを掲げた。
「我々はこの軍需ビジネスで成り立っている現状に断固反対している。『アンゲロス』建国以来の長きにわたる光皆政権に革命を起こし、彼等の行う武器製造による利潤取得の方針を廃止し、国防軍から民草を解放させ、平和を全世界に訴える時代を作る必要がある! 愚かな時代に終わりを告げる、それが我々の使命なのだよ」
決して声は荒げず、しかしながら魂の奥底にまで深く突き刺すような鋭い声。
点糸の主張は奇しくも整備科を、そしてその『
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