§ØЯ∀ -ソラ-

灼霧ゴッカ

- Ⅰ -

Act - 0.9 「星の色」

0 / ⅰ - 堕ちる天使、堕とす天使 -


 蒼歴 █████ 年 █ の月




「なぁ神様、このソラは青くなんかないよ」




 天が在り、地が在り、人が在る。


 花が咲き、鳥が鳴き、風が吹き───然れど、月の灯を知る者は誰一人としていない。


 時を超えても太陽の光は変わらず空を照らし、昼と夜を教えてくれる。


 しかし天空には黒く濁った負の遺産が立ち籠めている為、昼夜の判別は灰色の濃淡の差だけとなってしまった。


 闇夜に鴉、雪に鷺。


 降り積もる雪に紛れる白鷺のように、星一つ瞬かない暗夜に羽搏はばたく鴉のように、深く黒い闇と一体化している二つの人影がある。


『───《主天使ロードシップ》J.L.21より《能天使エクスシア》M.Y.16へ』


 黒で塗り潰された一方の影では、ノイズと共に一つの男性の声が耳元に響く。


 返答する姿勢を見せないところから、それは交信ではなく傍受であると知れる。


『こちら《能天使エクスシア》M.Y.16応答。通信状態良好、機器も異常無し』


 先刻とは別の声、通信相手と予想される人の声が続く。


 空を切る音と共に聞こえることから、彼等は航空機に乗り空を飛動中であると想像が付く。


 その会話を盗聴している二つの影は、何も語らずにただ闇の奥を見詰めていた。


 一つの影の合図でもう一つの影が動き、それは身を伏せると冥暗めいあんの中に手を伸ばす。


 そして、耳から得られる聴覚的情報に加え視覚的情報を得る為に、目の調整をする。


 カチリ、カチリと小さな音が響いては夜に消え、やがてそのレンズは一つのくろがねを捉えた。


『こちら《能天使エクスシア》M.Y.16より、現在時刻マルヒトマルマルを確認。予定通りこれより任務の遂行へと移り、爆撃による攻撃を開始す───』


 刹那。


 その声は鋭い爆発音によって遮られ、その言葉が続くことはなかった。


『おい? どうした、何があったか報告せよ。……応答しろ!  おい!?  お───』


 残された声から焦りの色が見えた時には既に遅く、その声は得体の知れぬ恐怖を抱いたまま喉元を潰された。


「お見事、美事ね」


 耳から何も聞こえなくなったことを確認すると、その影はゆっくりと身を上げた。その手には闇黒から姿を見せた対物狙撃銃アンチマテリアルライフルが、重々しい空気と共に硝煙を吐き出している。


「貴方は、闇に堕ちたから、堕天使なのかしら?」


 二翼の天使が堕ちる様を見ながら、その二つの影は宵闇へと消えた。


「貴方は、闇へ堕とすから、堕天使なのかしら?」


 その声は暗夜に静かに響き、やがて虚空へと消える。




「ねぇ─── 【堕天使サリエル】」




 漆黒は何も語らない。

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