正義の味方支援機構
赤糸マト
正義の味方の裏方業
「ハッハッハッハ!! これにて事件解決!!」
周辺に集まった人々が息をのむ中、煙の上がる銀行から、筋骨隆々な身体が分かるようなぴっちりとしたスーツにマスクで身を包んでいる一人の男が出てくる。男は目出し帽をかぶった、一目で強盗とわかる格好をした3人の男たちを道路へと投げ捨て、高らかに宣言した。そしてそれを皮切りにして、周辺に集まった人々は黄色い歓声を上げた。
「では、僕は次の悪を取り締まることとするよ! ピンチの時には私を呼ぶんだ! いつでもどこでも駆けつける!! さらばっ!!!」
男はそう声をあげると、その体はふわりと宙に上がり、突き出した手の方向へ男の体は空へと一直線に消えていった。
「すみませーん! 通してくださーい、正義の味方支援機構でーす! 回収に参りましたー」
人々が空へと突き進む男を見送る中、黒いスーツに身を包んだ一人の女性が、黒塗りのバンから顔を出しながら人込みに呼びかける。人々は女性の存在を知覚すると、人込みに車が通行できる程度の道が開かれた。
「ありがとうございまーす。危ないので犯人から離れてくださーい」
女性は開けた道から強盗の元までバンを走らせると、後部座席に乗っていた男と共に車から降りて強盗達に手錠をかける。そして、勢いよく後部座席の扉を開け、手際よく、荒っぽく強盗達を車へと積んでゆく。そして、周辺に散らばっている拳銃や薬莢などをあらかたかき集めビニール袋に突っ込んでゆく。
「ご協力ありがとうございましたー」
女性はぺこりと頭を下げると、すぐさま車に乗り、来た道を引き返した。
「さて、ここからはあたしらの仕事だ。カラク、急いで情報を聞き出して」
「あいよベティ」
カラクと呼ばれた男は腰からナイフを取り出すと、バンに転がされた強盗の一人の足にそれを突き刺した。
「いだぁぁあぁぁあぁぁあ!!」
「おはよう屑ども、騒いだって誰も来やしないよ」
カラクにベティと呼ばれた女性は、いつの間にか咥えられた煙草を左手に持ち変えると、煙と共に大きく息を吐き出した。
「な……なんだテメ――ごふっ」
揺れる車内で騒ぐ強盗は、カラクから顔面へと振るわれた拳によりその言葉を中断させられる。
「だから騒いだって無駄だって。命が惜しかったらお仲間の次のターゲットをさっさと吐くんだね」
「いっつ……てめ、何しやがる! おいクソババァ、車を止めろ!」
突き刺されたナイフからの痛みからか、強盗は大粒の脂汗を搔きながら、それでも震える声で虚勢を張る。そんな強盗に対し、ベティは大きくため息をつくと、腰から1丁の拳銃を取りだす。
「さっさとしろ! 先に乗り込まれちまうだろうが!!」
ベティは後ろを振りむことなく、バックミラーで強盗の位置を確認しながら躊躇なくその引き金を引いた。
「っぅ――!!! な……なんなんだよぉ」
「おい、車の中で拳銃はやめろ、また車が壊れるぞ」
強盗は小さな穴の開いた左肩から血を流しながら悲痛な声を上げる。そんな強盗を他所に、カラクはベティに向かって呆れた声をかけた。
「仕方ねぇだろ、こいつがあたしんことババァ呼ばわりしたんだぜ?」
ベティは灰皿に煙草を突っ込みながら、大きくため息を吐き出す。そんなベティに呆れた表情を向けていたカラムは、ゴホンと咳ばらいをしたのちに強盗へと向き直る。
「おい、最初に言ったがもう一度だけ言ってやる。お仲間の次のターゲットはどこだ?」
「い、言うわけね――」
強盗は再び虚勢を張るが、その言葉はカラクから首元に向けられたナイフにより、止まってしまった。
「こっちは殺したっていいんだぜ? お前も噂くらい聞いたことあんだろ? ヒーローが犯人殺しても、正当防衛として取り扱われるって。お前が死んでもあと二人いるしなぁ?」
カラクは強盗へ、低くドスの効いた冷たい声で耳元で囁く。カラクの言葉を聞いたためか、それとも出血が止まらないためか、強盗の顔色はみるみる青くなっていった。
「それで、どうするんだ? 情報を吐くか、ここで死ぬか。情報をくれれば止血してやってもいいぜ?」
「あっ……それは……」
ガタガタと歯を鳴らす強盗に対して、カラクは喉元へとあてがっていたナイフを強盗の鼻の下へと持っていく。
「まぁ、ベティはせっかちだけど、俺は拷問を楽しむたちでな、次は耳か? それとも鼻——」
「と、
強盗の叫ぶが、カラクはさらにナイフを鼻へとめり込ませる。
「な、なんでっ!?」
「真偽が不明だ。証拠は? 武装は?? 時間は!?」
「しょ、証拠……証拠は俺の胸ポケットの地図だ! そこに赤丸を、つ、つけてる。武装は拳銃5丁、手榴弾10個、防弾ベストだ!! 襲撃時間は12時だ!! これも全部地図に書いてある!!!」
強盗は鼻から垂れ堕ちる血液を飲みながら、口早に情報を吐いてゆく。カラムはナイフを強盗の鼻から離し、強盗の胸ポケットを漁ると、一枚の地図を広げた。
「な、な? 書いてあるだろ?」
「……ベティ! ガラムに連絡を!!
カラムは地図を見て強盗の言うことを真実と確信したのか、ベティへとそれを伝える。ベティはカラムの言葉が始まると同時に、運転席中央部に備え付けられた無線機を引っ掴む。
「ガラム、次の襲撃は
『イェッサー! そこから助けの声が上がるんだね! 僕もすぐ向かうよ!!』
ベティはつぎの目的地へ向かうべく、大きくハンドルを切りながら、無線へと情報を伝える。無線からは先ほど強盗の元から空へと飛び立った男と同じ声が、ベティの言葉に同意の意を示した。
「はぁー、なーにが『助けの声が上がるんだね』、だ。情報提供してんのはあたしらだろ」
「まぁそういうな。そういう”役作り”もヒーローの仕事だ」
「ッチ、わーってるよ」
ベティはもう何本目かもわからない煙草を思いっきり吸い上げると、アクセルを深くまで踏み込んだ。
正義の味方支援機構。表向きでは超常の力を持ち、正義を執行する”ヒーロー”達に徹底したサポートをする組織ではある。今日もまた、そんなヒーローをサポートすべく、二人は車を走らせる。
正義の味方支援機構 赤糸マト @akaitomato
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