変身さん
黄丸
変身さん
吾輩は女子高生である。名前はまだない。
正確には「今は」女子高生なのだ。そう、私は自身の姿をこの世にあるものなら何にでも変身することが出来るのだ。鳥になって空を飛ぶことも出来るし、魚になって海を泳ぐことも出来る。
私のなかに意識というものが生まれた時には、私は一つの観葉植物の姿をしていた。そのときからすでに自分には変身能力があることは知っていた。
観葉植物の私は一人暮らしの女性に世話をされていた。地味な見た目だったけれど決して卑屈ではなくて、日々の小さな幸せをかみしめることが出来る、そんな女性だった。
私はいつしかその女性に恋をしていた。そう気づいてからは、いてもたってもいられず変身をして彼女と心を通わせようとした。観葉植物としての生活はそこで捨てることにした。
彼女の仕事の帰り道にそれはそれは見目麗しい姿に変身した私が声をかけた。
「お姉さん、この後ご飯でもいかがですか?」
彼女は少し困った風に微笑みながら
「ごめんなさい、明日も早いので。」
と口にした。彼女の手にはビニール袋に入ったサボテンがあった。なんだよ、多肉植物の分際で。
結局、私はその後色々なものに変身をして楽しいことや危ないことをたくさんした。そうして現在の女子高生の姿にいたる。不思議なことに、普通の生徒として高校に通っているのだが、誰も私の存在に対して疑問を持っていない。世界は私の都合の良いように回っているのだろうか。
朝のチャイムが鳴った。前の扉から担任の教師が入ってくる。地味な見た目だが生徒に安心感を与えるいつもの笑顔だった。
変身さん 黄丸 @takayan0626
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