暗愚【15分】

ウゴカッタン

話? 話があるってのかい?

「まあリラックスしていきなよ、そんなに気張っても始まらねえよ?」

作業机はペンで描いた原稿を書き散らしてついでに周りの本棚に収まらなかった、

積読の類に開けられてない小封筒から包み箱なんかが、ギリギリ人が歩ける程度にその机を保ってるという具合、ただ異様であったのは銃口を向けてる黒マントである。


「暗愚」

「マイティ」


二人が口走った瞬間に火が吹いた、この人称視点を継続することは出来ないようだ。


 まあ、話を聞いてくれ、私は別にそこまで人類に悪を為す生き物であったわけではないんだ、もともとはちょっとした言葉遊びから始まった、暗愚と言ってマイティと答える、ただそれだけのこと、それがどうしたもんか、作家の先生に捕まるまでずっとこの遊びが続いちまったんだな、かれこれ三千年、この遊びが続いてる、いつから三千年だって? ああ、まあ、そんなに長くは知らないけれど、俺を暗愚だと呼んでる頃はまだまあマシだった、それがマイティと言っちまった時に問題が生じたって具合だ。


 暗愚、なんだか分からないが愚かで物が見えてないそんな感じがする、そりゃ無理もない、そう名付けられた瞬間、俺には何にも見えなかったんだからな、ただ、ひたすらに、俺は口走る口に宿ったり、文を書く手の中にいたりして、ちょっとずつ知性を得ていった、そういったこういっただから、事の発端は中国にあったって具合なんだ。


 中国で狐っ子といったら傾国の美女ともいえる、ゆうめいなキュウビキツネッコという女のことであるが、それは妖怪でもあってその女がまたたまたま俺を拾っちまったんだな。

「うふふ、暗愚、もっと広まりなさい、あなたのカラダは決まったも同然」

そうしてまあ、日本まで流れていくのに時間は掛からなかった、だがな、問題はマイティっていう体の方だよ、そいつは日本ってのが開国してアメリカにどでかい二発のパンチを喰らうまでまあ、続いてたんだが、まあ話はこれで終わりにしよう。


「おれの名前は暗愚マイティ、概念体の一つだ、肉体らしい肉体が無いから死ぬことは無いし、拡大する一方だ、かくいうアンタも俺の名を知っちまったから俺の一部みたいなもんさ、さああんたはどうする? 暗愚を口走ってマイティと答えられる運命を持つか? それとも俺の物語を紡ぐか? 俺の物語、俺の物語はな!?」


 壮大な話ってやつは人文に刻まれて永遠のごとく続く連綿の話ってもんだ、それを畏れるから人は話を切り上げちまう、かくいうアンタの興味もこれまでってところか、じゃ、終わりにしようか、暗愚。


「マイティ」


貴方の意識は薄れていった。

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