第5話 逆におれの感性が間違ってる?






おれの妹が明らかにブラコンを拗らせすぎている。


ということで……



「少し、距離を取らないか?」



真面目な顔つきで発言するリョウに、ルンルンとお茶碗にご飯をよそっていたスズは目を見開いて固まった。


そして、



「そんなっ、スズに悪いところがあったなら今すぐなおすから! だからスズを捨てないでっ! 彼女のままでいさせて!」



胸に手を置いて、ノリノリで受け答えをした。



「うん、おれの言い方が悪かった。別れ際カップルの会話ごっこをしたいわけじゃないんだ」


「都合のいい女でいいの! あなたの邪魔にだけは絶対にならないよう約束する! たとえあなたがスズを愛さなくたっていい……スズはあなたのことだけをちゃんと愛し続けるから。だから、お願い!」


「……演技上手いな」


「えへ〜、スズこういう才能もあるのかも」



ちょっとした役に入り込んでの演技に満足した様子。


いつもの調子に戻ったスズは、少し遅めの二人分の夕食をテーブルへと配膳して箸を渡してくれた。



「いただきます」


「はい召し上がれ」



スズが用意してくれた夕食。


まずはアサリの味噌汁を啜ってホッと息をつく。



(あー、疲れた体にしみる……)



「おいし?」


「うん、おいしいよ」


「よかった♪」



にぱーっと嬉しそうな笑顔になるスズ。


そのまま次は鶏だしと醤油香る炊き込みご飯を一口……



「って、話が完全に逸れてる」


「? 話って?」


「おれとスズが距離を取るべきだって話……」


「あ、リョウにぃ。さわらの塩焼き、おろしポン酢も用意できるけどいる?」


「いる」



即答。


妹が手作りしてくれた春の味覚を感じられる健康的な食事に舌鼓を打ち、満腹になったところで温かい緑茶で一服。


まったりとした雰囲気でおもむろにテレビのリモコンへと手を伸ばし……



「あれ? おれ何か話そうとしてなかったっけ?」


「いや〜? 別に何もないんじゃない?」


「ん、そっか」



スズは使い終わった食器類をキッチンへと運び、戻ってくる。


そしてとても自然に、寛ぐリョウの股の間へと割り込んで座って背中を預け、テレビを観賞し始めた。


……。



「これだよっ!」


「わっ! リョウにぃ、どうしたの急に?」



突然立ち上がったリョウに驚くスズをちょいちょいと移動させ、その対面にリョウは正座で座る。



「三日前から薄々感じてたんだけどさ、」


「うん」


「スズ、距離感近すぎない?」


「……」


「……」


「そんなことないよ? 普通だよ?」


「……今の間は一体なんだ? そしてなぜ目を逸らす?」



挙動不審なスズにリョウのジト目が刺さる。



「〜〜〜っ……リョウにぃ! スズとリョウにぃは兄妹なんだよ! だから距離感が近くても何も問題なんてないんだよ! 合法なんだよ!」


「開き直った……っていうか、いかがわしい感じがするから合法って言い方やめて」


「それともリョウにぃは妹にやましい気持ちでも抱くの?! そういうことなのっ!?」


「いやっ、それはないけどさ……ないけど……」


「じゃあ何も問題ないじゃん! 距離感が近いのはむしろ仲の良い兄妹って証拠じゃん!」



確かに兄妹の仲が良いことに何も悪いことなどない。


スズはグッと握り拳を作って自身の正当性を主張してくるのだが……、リョウとしてはもう少し自重してほしいというか。



「まぁ、家に遊びに来るのはいいよ。こうしてご飯作ってくれたり、洗濯とかの家事までしてくれてるのはだいぶ助かってるんだけどさ」


「でしょ、でしょ。なら何も問題ないよ」


「そこは別にいいんだよ。ほんとにありがとう、助かってる」


「ふふんっ」


「でもな、一緒にお風呂とか入ろうとするのは正直どうかと思うんだ。小さい頃ならともかく、スズだってもう年頃の高校生だし、おれは二十六歳の大人だぞ」


「……あー、あー、聞こえな〜い」


「あとベッドに潜り込んで寝るのもちょっと自重してくれ」


「あ〜、い〜、う〜、え〜、お〜」



耳を塞いで人の話を聞こうとしないスズの様子に、ため息をついて確認のため締め括りを一つ。



「ったく、分かったか?」


「異議あり! お風呂はまだ一緒に入れてません!」


「入ろうとしたのをおれが鍵閉めて断固拒否したからな」


「夜だってまだ一緒に寝れてません!」


「スズがベッドを占拠した代わりに、おれが床で寝てるからな」


「そんなリョウにぃのためにスズのお布団もこっちに持ってきました! これで一緒に床で寝れるね!」


「だから一緒に寝ようとするんじゃない! 布団を持ってきたならそれで寝ればいいだろ!」


「はい! やってもいないことで怒られるのはおかしいと思います!」


「やろうとしてる現状に問題があるのっ!」


 

屁理屈をこねくり回すスズに、リョウはスズのほっぺたを両手で弄んだ。



「あひゃ〜、むぅ〜にぃ〜〜〜」



……若さって恐ろしいほどのモチモチ柔肌だ。



(生き別れをした過去が特殊とはいえ、この年頃のJKがここまでベッタリと兄に甘えるのはやり過ぎだと感じるおれの感性は間違ってないよな? 大丈夫だよな? うん、大丈夫)


はぁ……


あまりの堂々としたスズの態度に、リョウは自分の思考回路が正常に機能しているか不安になってしまうのだった。





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