飛び立つまでに(15分間でカクヨムバトル)

春嵐

01

 もう少し。


 あと数分で。


 彼を乗せた飛行機が、飛び立つ。


 彼は、わたしなんかよりも。もっと才能があって。普通のわたしには。彼を追いかける力すら、ない。


 病室から眺める、窓の外。


 晴れている。


 別に、からだに異状があるわけでもない。入院してるわけでもない。ただ、病院にいて。病室でぼうっとしているたけ。


 こんなわたしよりも。もっといい人が彼にはいるはずで。彼の人生は、わたしなんかの及びもしないところにある。


 でも。きっと、わたしは。


 彼のことを、忘れられないんだろうな。


 数年たっても、夢で見たりして。


 初恋だったから。そしてたぶん、最後の恋だったから。この恋だけが、最期。これから先の人生に、そういう時期は、来ない。普通に生きていくだけの、日々。普通。そう。どこまでも、普通。


「はあ」


 大きなため息。呼吸してなかったのかな、わたし。


 彼の乗る飛行機は。ここからは見えない。


 もう、出発した頃、だろうか。

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