17 ミスター蟻っこ
とりあえず探索させていた蟻は戻らせた。時間がなかったし、橋から嫌なにおいがするらしいからだ。多分魔物除けの薬でも撒いてるんだろう。
ま、そんなことより今は料理だ。なんとかまどどころか料理小屋が完成したのだ! 早いなおい! 3日もかかってないな。ただ妙に熱が入っていたような……。ぶっちゃけ自分たちが旨いもの食べたいだけじゃないか? 食い意地はってんなあ。
でも料理はあまり軽々しくできない。邪魔者がいるからだ。
「あの馬鹿でかい鳥はいないよな?」
「いない」
昨日試しにかまどに火をつけているといきなりプテラノドンかと思うほどの巨鳥に襲われたからだ。あれがもし煙に誘われたものだとしたら火を使うのは危険だ。さらに集落も近くにある以上そいつらが味方と断定できない限り見つかることは避けたい。全く。火のない所に煙は立たないとはよく言ったもんだ。なので火を使うのは今のところ夜だけにしておこう。
「さあ気を取り直して本日の献立は……ネズミ肉、香りのある葉っぱ?、食べられそうな雑草? 等を使った肉団子です。?が多いのは気にするな」
渋リンだけよりはましだけど寂しいな。でもなんでドードーがいないんだよ。探索できる範囲にはどこにもいなかった。柵とか色々作ったのに。肝心の動物がいなければ畜産なんてできない。まさかとは思うけどオレが食べた連中が世界最後のドードーじゃないよな?絶滅することがやつらの魔法なんてオチいやだぞ?
いないやつのことを気にしてもしょうがないか。レッツクッキング!
まずネズミの肉をミンチになるまで叩く。骨がないから意外と料理しやすいかもしれない。なお、今回は血抜きをしてからその血を取っておいた。塩などの調味料がないから血で味付けしようという算段だ。
「できたよ紫水」
「よしよし。上手くできたな」
石で半球体の型抜きを作って、ミンチ肉を詰める。半球状になったミンチ肉をくっつければ肉団子の完成! 型抜きに詰めたまま煮込んでも構わないけどちょっと料理っぽくないから一工夫しよう。できた肉団子を香りのある葉っぱで巻いていく。あとは爪楊枝ならぬ石楊枝で巻き付けた葉がばらけないようにする。
うーん。これだと茹でるよりも蒸すほうがいい気がするけど……。今は時間と薪に余裕がないからささっと茹でよう。ちなみに今使っている水はほとんど井戸水だ。湧き水があるからか、地下水も豊富だったらしい。少し、と言っても蟻の魔法がなければかなり苦労しただろうけど、少し穴を掘れば水がしみだしてきた。料理小屋の近くに新しく井戸を掘って正解だった。料理って大量に水を使うからな。水道設備が整ってる日本だと意識すらしないことだ。
「ま、そんじゃ肉団子を鍋に投入♪」
うん見た目は悪くない。香りも腹の虫を気にする程度には食欲をそそる。そういえば今のオレって腹の虫が鳴るんだろうか。わからんな。灰汁をとりつつ、ぐつぐつ煮込むこと数分。穴あきお玉で肉団子をよそってクローバーを添えたら完成。
石楊枝が緩かったせいか葉っぱが解けたものもあるし、団子の形もいびつだ。それでも料理だ。まともな料理だ。まさしく文明的かつ知的な創作活動と言えよう。いやいや大事なのは味だ。早速食べようか。
「うん。まあまあ旨いかな」
点数にしたら60点くらいか。やっぱりちょっと生臭い。血をいれないほうがよかったか?いやそれだと塩気がないし……。葉っぱの香りも茹でるとほとんど飛んじゃうし。いっそニンニクとか入れるといいかも。後塩がないと味がまとまらない。
結論。足りないものが多すぎる。わかってたことだけど。雑草は蟻たちに勧められて食べてみたけど割と旨い。爽やかな酸っぱさが肉のくどさを和らげてくれる。意外と美味いなこれ。
「よし。お前らも食っていいぞ」
台所に待機させておいた蟻に声をかける。すぐに皿まで食わんばかりの勢いで食べ始めた。これでも美味いと感じるあたり食生活恵まれてないよな。ただし本番はここから。今回こいつらに御馳走したのはある実験をするためだ。
「感覚共有味覚バージョン!」
よっしゃ、さっきと同じ味だ! 実験成功! 今まで試したことはなかったが味覚も共有できないかと思い立ったが吉日。やってみるもんだな。今はそんなに美味い食事は作れないけどもっと料理のクオリティが上がれば、人類の夢の一つ、いくら食べても太らない食事法が完成する。
フハハハハ。フルコースを食べるためにわざわざ料理を吐き戻していたローマ貴族の皆様ご愁傷様です。オレならそんなことをする必要ありません。部下に美味い料理を振舞えばいい。オレも幸せ、部下も幸せ万事問題なし! 正直食べ物を粗末にするなんて気分悪いし。学食とかでご飯を残してる奴結構いたけどなんでそんなことするんだろうな。効率悪いしもったいないのに。
前世のことはさておき、明日は集落への偵察だ。英気を養っておこう。
そういう時に限ってちょっとした邪魔が入るものなんだよなあ。
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