11 炎があるだけで
もう夕方が近づいてきてるな。大分遅れたけど紐作りを始めよう。と言ってもぐだぐだやってる間に準備は進めてたんだけどな。
集めてもらったのは細く曲がりやすい蔓系の植物やイネっぽい植物数種類。編み物なんかやったことないんで適当に編んでみる。できた。
引っ張る。ちぎれた!
「はえーよ、おい」
もうちょっと工夫しよう。植物を裂いてから編んだり、いろいろ試して紐らしきものは完成した。
「よし。お前らもやってみろ」
今の作業を見ていた蟻達に声をかけて紐を複数作らせる。その間に武器作りっと。まず弓矢。普通は鏃だけ石や鉄、他は木や竹、獣の皮なんかで作られているけどオレは全部石製にするしかない。重いけど蟻の筋力なら何とかなるだろう。
なりませんでした。あきらめるな! なんていえない。弓は弦や弓のリムとか言う、反っている部分が元に戻る力を利用して矢を飛ばす武器だ。
石だとリムが反らないうえ、糸も弱いからエネルギーが溜まらない。そのくせ矢は石だからめちゃくちゃ重い。そりゃまともに飛ばないって! これはかなり改良が必要だな。最低でも木できちんと作らないと。
他にはスリングと呼ばれる投石器を作ってみた。紐を二つ作って石を乗せる布をつなげるシンプルな造りだ。石を乗せてぐるぐる回してから遠心力を利用して石を飛ばす歴史的に見ても古い武器だ。例によって布部分を石に変更。こいつはけっこう上手くできた。ただ、威力はあるが命中率は良くない。こればっかりは練習して、いやさせて上手くなることを期待するしかない。
作らせてた新しい紐もいくつかできたところで火を熾してみよう!
確か弓ぎり式だっけ? 素手で火を点けるより簡単なはず。
さっき作った弓に取っ手を作って、先端を尖らせた木に弦を一巻きしてから弓に張る。枯れた葉、日に当てておいた木の板、乾いた草、念の為にバケツいっぱいの水。準備OK。
「押したり、引いたりを繰り返せ!」
蟻達は何でこんなことしなきゃ何ねーんだよバーロー。とでも言いたげな瞳を向けてくるが無視する。火なんて実際に見てみなければわかんないだろうし。
何度か板を焦がしたりすぐに火が消えたりしてしまったが何とか成功。
「よっしゃー。これが人類の文明の原点、火だ!」
神話や古代の書物が示すように人類が発見した「燃焼」という現象が歴史に多大な影響を及ぼしたのは明らかだ。それをたった3日でゲットしてやったぞオラー!
「触るなよ! 熱いぞ! 痛いぞ!」
めちゃめちゃ興味深そうに見てくる蟻に一応警告しておく。しかしこいつら好奇心旺盛だなー。いやこれは警戒してるのか? 火に直接触れなきゃ大丈夫……てなんだ?何か忘れてるような……。そういえば火事の死亡原因って火に焼かれるよりも煙に巻かれるほうが多いんだっけ……煙?
今ここは蟻の巣。蟻の巣には優秀な換気システムがあるらしく酸欠にはならない。ただしそれは普通に暮らしていればの話。ただいま絶賛酸素消費&煙放出中。
「ぐはっ!? 煙たい!? 水もってこい! それから入口を大きめに開けろ!」
あたりまえだ! 地下で生木なんか燃やしたら煙だらけになるわそりゃ! あっぶねえ。自分が熾した火で死亡なんてそんな蟻いねえぞ。ネズミにすら大爆笑されかねん。あーよかった。水用意しておいて。
とりあえず今日はもう火を熾すのはやめよう。まずかまどがある小屋を建てよう。蟻の魔法ならそれくらい楽勝だ。そういえばもう筋肉痛はあんまり感じないな。治ったのか? うーん魔物だから傷の治りが早いのか? そのうちきちんと考えてみたほうがいいかもな。
そして夕食。なんとオレの手にはおにぎりがある。ありがとう名前も知らない人間よ。それじゃあいただきます。んぐんぐ。
「美味い。美味すぎる」
正直全部が白米なわけじゃない。雑穀みたいなものもまじってるし、ちょっと雑味っていうのかな。苦いというか固いものも混じってる。それでも美味い。現代文明がどれだけ食に恵まれてたかが良くわかる。久しぶりの白米おいしいです。
蟻達に物凄いガン見されたが、例え目の前に大魔王がいたとしてもこのおにぎりは譲れない。はー食った食った。うーんそれにしても。
オレ一体何してるんだろう。
いやつい正気になってしまったのでこう、ね?
ここは異世界だよな? オレっていわゆる転生者だよな?オレのやってきたことって何?
農業。狩猟。料理。挙句の果てにおにぎりに一喜一憂する始末。違うこれじゃない。憧れの異世界転生ってこうじゃないだろ。もっとこうすごい能力持ってたり強敵倒したりレアアイテムゲットしたり、せめて可愛い女の子がいれば!
「呼んだ?」
「呼んでねええええええええ!!!!! 蟻は! 女の子には! カウントできん!」
確かにお前らがいなかったらもうくたばってたかもしれないけど!それとこれとは別の問題だ!
「なんてこった」
「何処で覚えてくるんだそんな言葉!?」
もう台詞が完全に教育に失敗したお母さんじゃないか!
はあはあはあ。は――――。ほんと。何やってるんだろうなオレは。せめて強敵でも来ないかな。他は多分無理そうだし。こうサクッと倒したいな。
口は災いの元。その言葉の意味を理解するのはそう遠くない未来だった。
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