人の子ら、神の末たち − 猫又の独白 −

みなはら

第1話 人の子ら、神の末たち − 猫又の独白 −

星々と蒼い月のもと

その猫は佇む。


眼差しは優しく、月牙を映す瞳は憂いを帯びる。


その身はもう一人のものでないことを、

ふっくらしたその身体がしめすようだ。



猫は何を思うのだろう。


生まれゆく命のことか、

それとも、月と星、世界のことか………。



−◇−


あたしはね、人というものが気になるんだ。


あたしらあやかしを作り出したものたち。


親子ではないんだ。


でも、人とあやかし。

あたしらは親が知らずに作った、子どものようでもあるからね。

その愛情や憎悪を、解らずに身に秘めていることもあるから。


あたしたちと人には血のつながりはない。普通はね(笑)

でも、縁でつながっているのかな。


想いというえにしでお互いが結びつけられている。


あやかしはそんなもの。

そうやって人の近くに生まれて居るから、

かたわらなんて呼ばれ方をすることもあるんだよ。




神は……。

神もそうなんだろうね。

やっぱり人の傍らにあったりするものなんだけど、

でも、あやかしのように、子のような扱いではないのかな?



想いを受け生まれてくる、そのための人の想いが生まれに関わってはいても、

あやかしより受けとる想いが多いし、それに強いから、

持つ力も、与える影響も桁がちがうほど大きく、そして強いんだ。


神さまは、人の願いや救いを、

たくさん叶えて欲しい、助けて欲しいって要求や願望を強く受けているんだから。



そうした強い想いをもって作り上げられて、補強されていったものたち。神と同一視されるもの。


やっぱり、子というよりは、人らから庇護を求められる人の親という関係を押しつけられたというイメージが近いんだね。


願いや祈りを受ける神の一部の存在は、

そのことに、人の望みや願いに縛られているような存在ものへと、成ってしまっているようにも思えるね。



うやまわれてこその神、

おそれられてこその神、

そんな風に言った人が居たけどね。


そういう想いで組み上げられ、

存在を強化されてがんじがらめにされてしまった神は怖い。


人の望み通りに神は踊り、

そして人を踊らせて、

神と人、人と神との円舞曲ワルツは果てしなく続く。


人の望む、果てなき楽園という地獄へと堕ちるまで………。




神って、あやかしって何だろう?


あたしたちは何者なのか?

あたしたちはどこにゆくのか?


大昔の人間の言ったことだけど、

人間もたまには良いこと言うよね。

昔の人間が言ったことをこうしてパクるときに、あたしはそう思うよ(笑)



人の子であり、時に神の末でもある、あたしたち、あやかしなるものら。


たとえ、忌み子や荒ぶる悪神であったとしても、

あたしらはひとの傍らに集いしものゆえに、

人からは離れがたく、

そうして、かたわらをそっと歩くものらは、

静かに、人と寄り添いながら歩いてゆくんだろうね。


人の想いに応えたり、逆らったりを繰り返しながら……。




あやかしの行く末は、人の行く末と共に、変わらずに歩むことになる。

そんな道行きを繰り返すものとなる。



人が人でなくなり、

傍らのあやかしらを必要としなくなる日まで、

その道はずっと続くように感じるよ……。




−◇−


「少し寒くなってきたかな……」

あたしはそんなことをつぶやく。


中から出てきて、

心配そうに黙ってあたしを見ていた稲荷ちゃん。

あたしはいま、彼女の社の神域に身を寄せている。


「猫又ちゃん、冷えるから家に入ったら?

冷えると赤ちゃんにも悪いし」


「いつもすまないねぇ、稲荷ちゃん。大好き〜❤️

大丈夫、大丈夫♪ あたし猫だから(笑)」

野良猫は寒々とした軒下でだって丈夫な子を産むんだ。

あたしだってそんな経験をしたこともある(笑)


「強がるんだから!

今度は猫じゃないでしょ?

人の子どもわ強くないんだから、ダメっ!!」


「はいはい(笑)」

情けが心に沁みる。

稲荷ちゃん、あたしより若いんだけどね。

お姉さんかお母さんみたいだ(笑)


あの子も苦労してるから……。

人を好きなあやかしは大抵そうだ。要らぬ苦労を背負い込む。



人が好きだから…。

人と居たいから。

そうして傷ついて、歪んでゆくこともある。


荒ぶる悪神や御魂みたまのように、人相手に超然と振る舞えるといいんだけどね。



あやかしは人の写し身だ。

人を映し出し、写し取り、

憧憬と孤独と、いろんなものを胸に抱いて、

人のそばを歩いているんだ。



あたしは稲荷ちゃんへと話しかける。

「もうすぐ生まれてくるよ。そんなにはかからない」


「何人できそうなの?」


「二、三匹、いや二、三人かな?」

稲荷ちゃん、やっぱり心配そうだ。

あたしは稲荷ちゃんほど(持っている力の寄りどころが)強くないからだ。


「名前は?」


「はる。もうひとりは、かぜ」


「三人めわ?」


「考えてない。この子はもし生まれてきても、あたしには名づけられない子なのかも…」


「…」


稲荷ちゃんも察したらしい。


代行者の勘は鋭い。神使で巫女でもある稲荷ちゃんなら尚のことだ。


名づけ親は人か…。それとも……。



「もうはいろう。早く!」

稲荷ちゃんに急かされて、冷たく澄んだ空気の中に居ることをとりやめる。

もうだいぶ身体が冷えてしまったようだった。


暖かい部屋に向かう前に、もういちど振り返って、月明かりの空を見上げる。


蒼い月。

あたしはそっとお腹をなでる。



あたしの子、

あいつの子。


早く出ておいで!


早く大きくなって、

そして、好きなところに行って、やりたいことをやりなさい。


あたしが出来るだけ、あなたたちがやりたいことの手助けをするから……。



−おわり−




蛇足です。


 猫又の生きて生まれなかった子の名前、かぜは、このお話を書きながら付けました。稲荷狐と猫又が、三人目の子供の話を始めてからです。


 生まれてきた二人目の子供。

名を持たず、生きることが難しい人の子に、

猫又が奔走して、竜神の加護とぱいろんの名を与えることになる出来事は、

それはまた別のお話です。





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