魔人ベリアルとの邂逅
紅蓮獅王との交戦が中断された白銀竜王の面々は廃墟となった教会へと急いだ。
「うっ、ううっ……お母さん」
「……うっ、ううっ。カレン」
廃墟に入った時、まず目に入ったのは母と子と思しき親子の二人だった。その他にも数名ほどの人が捕らえられていた。親子は写真に映っていた親子とみて間違いなかった。その他数名はそれよりも後の犠牲者だと思われる。
魔法をかけられているのか、あるいは生気を吸われすぎているのか、皆ぐったりとして動かなかった。逃げ出す気配もない。
紅蓮獅王の連中の中心に少年がいた。美少年ではあるが、この光景を前にして表情ひとつ変えない事から、間違いなく彼が主犯格であろう。そして恐らくは人間ではない。こんな事を平気でやる存在を同じ人間だとは認めたくなかった。
「お前が誘拐事件の犯人か!」
クラインは言い放つ。
「そうだ」
少年は表情ひとつ変えずに答える。
「お前は誰だ。人間ではないな?」
クラインは問う。
「ああ。そうだ。僕は人間ではない。魔王様に使える魔人の一人、魔人ベリアルだ」
少年はそう答える。
「魔人……ベリアル」
「僕達魔族は人の魂を喰らう。その為に人間をさらわせてきたんだ、この連中にね。こいつ等は力を得る代わりに魂を僕に売り渡したんだ」
ベリアルは平然と語る。
「なぜ罪もない人間を襲う! 彼等が何をした!」
クラインは叫ぶ。
「おかしな事を言うな。君たちも豚や牛を喰らうだろう? 豚や牛が何かをしたか? 豚や牛が何か罪を犯したか? そうではないだろう。豚や牛は餌として存在しているが為に人に食される。そして人間は魔族の餌として存在している。それだけの事だよ」
ベリアルは語る。
「そうか……」
話してすぐにわかった。やはり魔族と人は相容れない存在だ。少なくとも目の前にいる少年とは理解しあえない。そうとしか思わなかった。
交戦は必至だ。白銀竜王の四人は身構える。
「勘違いしているようだね。今日のところは僕は戦う気はないよ。君達の顔を見たかった。特にそこの男を。確か名をクラインというそうだね?」
「……だったら何だって言うんだ?」
「君の力に僕は見覚えがある。だから恐らく、その名は間違いだ。仮初めのものだ。本当の名は別にある。そして君は君が思っているような存在ではない。もっと別の存在だ」
「何か知っているのか! 俺の事を!」
「多くは知らない。だが、君の知らない事を僕は知っている。それだけの事だ。どうやら君は記憶を失っているようだね」
ベリアルは語る。
「今日のところはここでおいとまするよ。次に会った時は本気で殺し合あおう」
ベリアルは姿を消す。転移魔法を使ったようだ。
「じゃあねっ。ちゅっ」そしてイザベラが転移魔法を使う。
「まただ。次は本気でぶっ潰す」アレルヤはそう言った。
紅蓮獅王の連中は姿を消した。
「ま、待て! こっちはまだ聞きたい事が!」
「クラインさん! 彼らを追いかけるのは諦めてください! 犠牲者の救助が先です!」
シアはクラインにそう言った。そうだ。大体もう連中は行方をくらましている。どうやったって追いかけるのは不可能だ。諦めるより他にない。
それに犠牲者をこのまま放っておくわけにはいかない。魂を吸われているようだ。放っておけば死ぬかもしれない。
四人は犠牲者の救助を行った。
不幸中の幸いだった。犠牲者達は一命を取り留めた。多くが病院の入院しなければならなかったが、時間はかかるが皆退院できる様子だった。
「……ありがとうございます。このお礼、何と言葉にすればいいやら。本当にありがとうございます」
誘拐された母子の父親はそう涙ながらに感謝する。
「いえ。当然のことをしたまでです」
「当然のことなんかではありません。あなた達がいなければ妻も娘もこの世にはいなかったでしょう。感謝しても仕切れないくらいです。本当にありがとうございます」
男性はそう言う。クラインはあの魔族の少年、ベリアル。それから魔族の手下となった紅蓮獅王の行方を考えていた。
四人はその後、冒険者ギルドに紅蓮獅王が魔族に寝返った事を報告した。冒険者ギルドからのリストからは紅蓮獅王が末梢された。
現役のSランクパーティーがリストから末梢された事に多くの冒険者は驚いたが、それと同時に魔族から力を得た事が落ちぶれた彼らの復活の理由だったと知る事になり、ある意味腑に落ちる結果となった。
いつかまたあの魔人ベリアルと再会する事になるだろう。そして紅蓮獅王の連中とも。
先ほどの戦闘とは比べ物にならないような激しい戦闘が繰り広げられる事となる。
そうとしか、クライン達は思えなかった。
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