誘拐事件
廃墟での出来事だった。そこは教会だった。かつてはである。今は人気のない廃墟となっている。
黒ずくめの美少年は教壇に腰をかけている。人間離れした美形。彼は人間ではない、魔族の少年であり、魔人であった。名をベリアルと言う。
そのベリアルの前に紅蓮獅王の四人は膝をついていた。完全にこの魔人に支配されているようだった。
「ベリアル様……ありがとうございます。あなた様から頂いた力により俺達は蘇りました。いえ、それどころか前を上回る力です。本当にありがとうございます。感謝しても仕切れない位です」
「気にするな。大した事ではない」
「いえいえ。ありがとうございます。私達は生まれ変わりました。素晴らしい力です」そう、イザベラは笑みを浮かべる。
「変わりといっては何だが、お前達に頼みがある」
「なんでしょうか? ベリアル様のお頼みとあれば、どんな事で聞きましょうぞ」アレルヤは人間とは思えない程の凄惨な笑みを浮かべた。心を悪魔に売り渡している為、もはや人間ではないと思った方がいいのかもしれない。
「簡単な事だよ。人間を数人さらって来て欲しい。僕はお腹が空いたんだ」
魔族は人間を喰らい、食物とする。彼らにとってその行いはパンを食べる事に等しい。故に罪悪感など微塵も感じてはいなかった。
「容易いご用です。すぐにでも人間を引っ捕らえてきましょうぞ」
アレルヤは笑みを浮かべた。もはや人間をやめたアレルヤ達にとって、誘拐や殺人など朝飯前だった。
夕暮れ時の街だった。小さい女の子と、それから若い母親の親子であった。
「ま、待って! 落ち着きなさい! 走ると転ぶわよ!」
「転ばないもん……い、いたっ」
小さい女の子は転んだ。膝をすりむく。
「ほら、言わんこっちゃない。見せてみなさい」
転んで膝をすりむいた娘を介抱する母親。なんて事のない日常だった。夕暮れ時の事。
そんな時の事だった。
女の子と母親の前に複数人の人影が現れる。
男と女の集団。一人は剣士風の男。そしてもう一人はスタッフとローブを着た魔法使い風の女。それから盾を持った戦士風の男。大きなリュックを背負ったサポーター。
明らかに冒険者パーティーと思しき冒険者の集団だった。
言うまでもなく紅蓮獅王の連中である。
「……あの、どなたですか? 私達に何かの用ですか?」
「スタン」
「うっ!」
母親の返答に答えず、イザベラはスタンの魔法で母親の意識を奪った。
「お、お母さん!」
「さあ、お嬢ちゃん。眠りなさい。ぐっすりと。私のスリープの呪文で」
イザベラは娘にはスリープの魔法をかけた。スタンは電気ショックを与えて気絶させる呪文だ。小さいと死んでしまうかもしれない。やはり人間の魂は生きたまま頂くのが美味しいのだ。死んでいたら鮮度が悪くなる。
「お母さん……ううっ……すー、すー」
女の子は呑気に眠り始めた。
「さて、いくか」
「ええ。私の転移魔法(テレポーテーション)で飛びましょう。ふふっ」
「そうするか。人目につくより前に」
「転移魔法(テレポーテーション)」
イザベラは転移魔法で母子を連れて廃墟へと転移していった。
受付嬢は苦難していた。最近、街で多発している誘拐事件の件だ。当然のように街の治安を維持し、護る為に自警団というものが存在する。言わば警察組織である。
その自警団を持ってしても、その誘拐事件を解決する事ができないでいた。
その為、その依頼は冒険者ギルドの方にもやってきたのだ。だが、モンスターの討伐などが主なクエストの為、冒険者ギルドはその問題をどうランキングし、どの程度の報酬を払えばいいのか苦慮していた。
結果として冒険者ギルドはフリーランクのクエストとした。誘拐事件の主犯格を暴いた場合、そして連れてきた場合には自警団、つまりは国により結成されている組織であり、言わば公務員。出所は税金である。その税金から支払われる依頼料、それから手数料を引いた金額を冒険者に支払うという事で決着した。
そのクエストをクエストボードに受付嬢が張っている時に、白銀竜王の四人が冒険者ギルドを訪れてきた。
「あなた達は」
「どうしたんですか? 受付嬢さん。随分と浮かない顔をしていますけど」
そう、シアが聞く。
「そうなんです。実は今、街で誘拐事件が起こっていて。犯人は多分人間だと思うんですけど。その依頼が冒険者ギルドの方にも来ているんです」
受付嬢はそう言って浮かない顔をした。
「誘拐事件、けどそれは普通自警団の仕事ではないんですか?」
「そうなんです。本来はその通りです。ですが、自警団では解決できなくて。このままではさらなる被害者が出るという事で、冒険者ギルドの方に依頼が来たんです。自警団も背に腹は代えられないみたいで。今は何よりも住民の安全を確保するのが先決だという事で。何としてもこの事件を解決してこれ以上の被害を防ぎたいそうなんです」
受付嬢はそう言った。
「クラインさん……どうしますか?」シアは聞いた。
クエストの受注は当然のように義務ではない。その為受注するかしないかの権利は冒険者パーティーに委ねられた。
「困っている人を放ってはおけないよ。俺達が力になれるなら迷うまでもないさ」
「だ、そうです。受付嬢さん。私達『白銀竜王』がその依頼お受けします」
そう、シアは言った。
「ありがとうございます。あなた達ならきっとこの依頼を解決できます。そして、大勢の住民の命を救う事ができます。頼みますよ。皆様方」
受付嬢はそう言った。冒険者ギルドでクエストの受注登録をした後、四人は街に出向く事になる。今回の事が起こっているのは街の中である。
始まったのは聞き込み調査と、状況の確認だった。まるで今回の依頼は探偵調査のようだった。四人はまるで探偵にでも成ったような気分だった。
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