聞き取り調査

クライン達四人はある一般家庭を訪れた。そこには一人の男性がいた。彼は失踪した妻エミルと娘カレンの夫であり、父親である。

 男性は最近の失踪事件の犠牲者の捜索をしているとクライン達が語るとあっさりと家の中に入れてくれて、その時の事を語り始めた。

「エミルとカレンは、あの日、出かけていたんです。特に理由はなかったと思います。カレンとはただの散歩をしていたんだと思います。夕飯前には戻ってくるとエミルは言っていたのですが、結局夕飯を過ぎても戻ってきませんでした。不安で眠れぬ夜を過ごした私は朝になっても妻達が戻らない事を確認し、自警団に捜索願を出したのです」

「そうですか、そんな事が」


 クラインは言った。


「はい。お願いします。冒険者の方々、妻エミルと娘、カレンを連れ戻してください。お礼ならいくらでもします。ううっ」


 男性人目も憚らずに泣き始めた。お礼の問題でもない。クラインは困っている人を放っておけなかったのだ。それに直感が語りかけてくる。

 あの紅蓮獅王の変わりよう。何かが関係しているはずだ。今のところは証拠はない。だが、何らかの理由により彼らが行ったと考える事もできた。クラインは三年間彼らと帯同したが、流石に犯罪行為をするような屑ではなかった。ただ合理的なだけだ。使えない奴を切る。それはある意味冒険者としては普通の行いだし、判断だ。だからクラインをクビにしたからといって、それが別段非人道的というわけでもない。よくある事だった。

 少なくとも彼らが誘拐事件を起こす程非人道的なはずがなかった。だが、最近の変貌ぶりは目に余った。その変貌の結果として、理性を無くしてしまっているとしたら可能性はあった。


「お父さん、泣き止んでください。私達が必ず何とかします」


 そう、シアが言った。


「お父さん、奥さんと娘さんが映っている写真などはありますか?」


 リアラは尋ねた。


「ええ。ここにあります」


 男性は写真を渡す。笑顔で笑っている女性と笑顔で抱きかかえられている少女。

 この二人が男性の妻子。エミルとカレンだった。


「わかるの?」


 シアは聞く。


「わからない。試してみないと。地図化と索敵スキルは本来はモンスターにしか使わない。ただ使わないというだけで、使えないという事ではないかもしれない」


 それに使えたとしても、対象が死亡している場合はどうなるのか、リアラにも知り得ない事ではあった。その点はあまり考えたくない。無事で生きている事を祈りたい。無論最悪の可能性は常に考えなければならないだろうが。


「わかった」


 リアラは答える。


「ほ、本当ですか?」

「西にある街から外れたところ、古びた教会だ。今のところ使われていないはず」


 リアラは答える。


「……そうか。行くか。お父さん、心配だとは思いますがここで待っていてください。付いてくると邪魔になる可能性があります。残念ながらこれが現実です。私達に任せてください」


 クラインは冷徹に告げる。


「ここで待ち続けなければならないのは歯がゆいですが、その通りです。皆様の助けを待つより他にないのは不甲斐なく思いますが、仕方がありません。私はただの一般市民。冒険者でも自警団員でもないのですから」


 男性は項垂れたが納得した。


 クライン達白銀竜王の面々は西にある廃墟となっている教会へと向かった。


 その教会での出来事だった。時系列としてはいくらか遡る事となる。


「お、お願いです。娘だけは。カレンだけはお助けください。私はどうなっても構いません」


 怪しげな冒険者達。そして目の前にいる人間離れした一人の美少年にエミルは懇願する。


「……ダメだよ。子供は子供でおいしいんだ。君たちは両方とも僕の大切な食事なんだから」

「お母さん……怖いよ」


 娘、カレンは振るえる。


「母親の方を連れて来い。食事の時間だ」

「はっ」


 もはや魔人ベリアルの手下となっている紅蓮獅王の連中は母親の方をベリアルの前に連れて行く。


「い、いやっ! やだっ! やめてっ! 殺さないでっ! いやっ!」

「心配しなくてもすぐには死なないよ。何日かかけて、ゆっくりとその霊魂を食べてあげるから」


 魔人ベリアルは母親エミルの心臓あたりに腕を入れる。そして、その魂。霊魂を切り取った。


「……い、いやっ、いやっ」

 

 そしてベリアルは霊魂。青白い光のエネルギー体を食べる。霊魂を切り離された結果、相当に疲弊したのだろう。エミルは崩れ落ちた。


「お母さん! お母さん! おかあさーーーーーーーーん!」


 娘カレンは泣き叫ぶ。


「……ふふふっ。旨かったよ。次は子供の方を頂こうか」

「ひいっ! い、いやっ。やだっ。やめて!」


 泣き叫ぶカレンの悲痛な顔を見てもベリアルは表情ひとつ変えないどころか、嬉しそうに笑みを浮かべるだけであった。

 その凶行を止める者が現れる気配は以前としてなかった。

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