追放者によるパーティーに加入
クラインとシアは酒場に入った。まだ昼間の時間帯という事もあり、酒場はがらんどうとしていた。故にすぐそのパーティーメンバーを発見する事になる。
「あそこの二人です」
シアはそう言った。
「ああ。あの二人」
残るパーティーメンバー二人は両方女性だった。シアと同じくらいの年だったか。10代の半ばといったところである。
一人は戦士タイプの職業についていた。鎧を着ている。そして帯剣をしていた。金髪をした美少女である。
そしてもう一人は盗賊のような恰好をしていた。ラフで動きやすい恰好だ。こちらも栗色のショートカットをした美少女である。
おかしかった。
なぜ、こんな美少女揃いのパーティーが人手不足なのか、理解ができなかった。何か絶対に理由があるに違いない、クラインはそう考えた。
「二人とも、サポーターの人を連れてきました」と、シアは言う。
「ああ。そうか」
「……ふーん」
二人は興味なさそうに言う。
「紹介します。こちらの戦士職についているのが、セシル。それから、盗賊がリアラです」
そう紹介をされる。
「私の名は戦士。セシル・アーカルムと申します」
「セシルさんは有名な騎士の家系で、お嬢様なんですよ。それはもう凄い剣の腕の持ち主で、凄い攻撃をするんです」
「はぁ……」
シアに説明される。
「リアラ・トルストイ。盗賊(シーフ)」
「リアラさんのお父様は有名な大泥棒で、盗賊一族なんです。それで凄い色々スキルを持っていて、クエストで役立つ事間違いなしの逸材なんです」
「はぁ……」
シアに説明される。
「シアも有名な魔法使いの家の魔法使いなの」
と、リアラは説明する。
「そ、そんな事ないですよっ。私なんてまだまだのひよっこです。えへへ」
シアは謙遜なのか照れ臭そうに笑う。
「ひとつ聞いていいですか」
「はい。なんでしょう?」と、シアは聞く。
「どうして、そんな有能そうな方々のところに、人材が集まらないんですか?」
と、クラインは質問した。
「それは……ですね」シアは言い淀む。
「私達は全員、ある理由により、パーティーを追放されてきたんだ。そして追放された者同士でパーティーを組んだ。しかしある理由により、なかなかパーティーに人が集まらない」
セシルは説明する。
「ある理由? なんですか? それは」
「口にするより、体験した方が分かりやすい。表に出よう」
セシルは立ち上がる。そして、酒場の外へと四人で向かった。
セシルはクラインと立ち向かう。
「ひとつ質問がある。パーティーにおける前衛の役割とは何だ?」
セシルは聞く。
「敵に物理ダメージを与えるのは勿論ですが、敵を引き付け、後衛の盾になる事です」
「正解だ。前衛に求められるのは高い物理攻撃力、そして高い防御力、高いHP。所謂脳筋タイプが求められる。何にせよ中々倒れないのは必須だ。前衛が倒れるとすぐに後衛の魔法使いや補助職が窮地に陥るからな」
「はぁ……」
クラインはセシルから剣を渡される。
「斬ってみろ」
「はぁ……でも、俺はサポーターなんで」
クラインはサポーターである。剣を握った事もなければ、筋力ステータスも高くない。故に斬ったとしても大したダメージは与えられなかった。
「いいから斬れ」
セシルに促され、仕方なくクラインは剣を握った。
「では」
仕方なしにクラインから受け取った剣を振りかぶる。そして振り下ろした。
「てやっ!」
「ぐっ、ぐああああああああああああああああああああああっ!」
セシルは断末魔のような悲鳴をあげた。クラインの振るった攻撃などスライムすら倒せなさそうな脆弱な攻撃に過ぎないというのに。
「ぐ、ぐはっ!」
セシルは血反吐を吐いて膝をついた。
「……私は生まれつきの虚弱体質でね。HPが異様な程低いんだ。ちょっとしたダメージでもすぐに戦闘不能になってしまうんだ」
なぜ彼女は冒険者になろうと思ったのか、色々と個人の理由はあるだろうが、クラインは疑問を抱いた。
だが、それと同時になぜなかなか人員が集まらないのか、その理由が理解できた。
こんな前衛のパーティーでは前衛として心持たなすぎる。
「では、彼女は」
次はリアラへと話題が移る。
「私は多くの盗賊系スキルを所有している。盗む、罠探知、索敵スキル、などなどだ……だが」
リアラは腕を構える。
「貴様にこれより、私は盗む(スティール)のスキルを発動する。くらえ!」
リアラは念じて叫ぶ。
「盗む(スティール)!」
シーン。しかし、いつまで経っても何も起こらない。
「盗む(スティール)! 盗む(スティール)! 盗む(スティール)! はぁ……はぁ……はぁ」
終いには叫び疲れたのか肩で息をし始める。
「このように成功率は異様なほど低い。大体成功率1%以下だ」
「はぁ……」
クラインは呆然とする。すぐに倒れる前衛戦士に盗めない盗賊(シーフ)。つまりはポンコツという事だった。
「もしかしてシアもこんなポンコツなんですか?」
「……失礼な。彼女は強烈な魔法を放つぞ」
リアラは言う。
「シア! お前の魔法を見せてやれ!」と、セシルは言う。
「い、いいんですか?」
「か、構わん! このまま私達が馬鹿にされたまま終われるか!」
「はっ、はいっ! エクスプロージョン!」
発動したのは爆裂魔法だ。広範囲に爆発が起こる。
味方を巻き添えにしつつ、大規模な破壊が起きた。
「……げほっ……ごほっ」
「がはっ……」
瓦礫をかきわけ、四人が姿を現す。
「難点は敵味方関係なく魔法の巻き添えになる事……そして強力故にすぐにMPが切れる事だ」
セシルは説明する。
「……ダメダメなのは同じじゃないですか」
クラインはけほけほと吐きながら言う。
「ダ、ダメダメ言うな!」
リアラは顔を真っ赤にして言う。
「……と、いうわけで私達のパーティーにはなかなか人が集まらないのです。そういう理由があったから私達、前いたパーティーをクビになったってわけなんです」
と、シアは説明する。ただ理由は理解できた。腑に落ちた理由だった。彼女たちは致命的な欠点を抱えているのである。だから人が集まらないのだ。
「そういうわけなのです。嫌になりました? 今だったらまだ引き返せますよ」と、シアは言う。
クラインは考える。確かに難点のあるパーティーだが、過剰供給のサポーター職が加わるには他に手がなかった。この機会を逃せば当分機会はないだろう。そう考えた。
それに、何となく見捨てておけなかったのだ。彼女たちは自分達と同じだ。そういう理由でパーティーをクビになり、自分と同じで身よりがなくなった。
だから三人で身を寄せているのだ。サポーターをクビになったクラインと同じである。
「いや、このパーティーに入ろう」
そう、クラインは言った。
「ふぇ? 本当ですか?」そう、シアは目を丸くする。大層驚いたようだ。
「俺も最近パーティーをクビになったばかりだ。だから除け者にされる辛さは痛い程知っている。だから見捨ててはおけない。それに俺だって一緒なんだ。他に行く宛もない、このパーティーに加わる以外の選択肢がないんだ」
そう、クラインは言った。
「では、よろしくお願いします。クラインさん」
そう、シアは頭を下げた。
「ああ。よろしくな。シア」
こうしてクラインはパーティーを追放された、追放者パーティーに正式に加わる事となった。
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