Sランク冒険者パーティ-のサポーターをクビになった俺が世界最強の精霊術士だった~追放者によるパーティーを組んだから俺はこっちで最強を目指す~

つくも/九十九弐式

Sランク冒険者パーティーをクビになる

「クライン! お前はクビだ!」


 Sランク冒険者パーティー「紅蓮獅王」のリーダーであるアレルヤはそう宣告をした。

 宣告されたのはクライン・カーネリアスという名の少年である。年齢は18歳。15歳の時からこのSランク冒険者パーティー「紅蓮師王」でサポーターをしている。サポーター、要するに雑用係であり、主な仕事はクエストの荷物持ちである。今もまた、こうして大きな荷物をクラインは背負っているのであった。


「なんでですか! 俺が何をしたっていうんですか!」


 クラインはそう言って批難をする。


「何もしてなかったからだよ。お前、この前の戦闘で何をしていた? 俺達が闘っている中、突っ立って見てただけじゃねぇか」

「……そんな、だって俺はサポーターですよ。戦闘用のスキルを何も持っていないわけで。で、でも! 僕をクビにしたら誰をサポーターにするっていうんですか! クエストに荷物持ちは絶対必要じゃないですか!」

「あなたがクビになっても、代わりはいるのよね」


 そう、「紅蓮獅王」の魔法使いである魔女イザベラは言う。いかにもな帽子と杖、それからローブを羽織った魔法使い風の女性である。


「冒険者ギルドには勤続加算という報酬制度があるのよ。パーティーに勤続して務めているだけでそれだけ取り分を多く払わなければならないという報酬規定があるの。三年間務めているあなたには一回のクエストにつき、最低金貨三枚を払わなければならないの。それが新人サポーターに切り替えた場合、銀貨三枚で済むわ。おわかり? コストが10分の1になるのよ」


 イザベラはそう言う。冒険者ギルドの報酬規定。勤続年数が増えれば増える程、報酬を増やさなければならないという報酬規定が存在する。

 冒険者ギルドからすれば長年パーティーに務めているのに不当に報酬を低く抑えられる事を避ける為に作られた報酬規定なのであろう。

 だが、その報酬規定が逆に邪魔者、すぐに代わりが効く存在をクビにする事を促す、雇用の安定性を排除する欠陥制度へと成り下げていた。


「つーわけだ。クライン。悪いが荷物を纏めてどっかに出て行ってくれ。ほら。こいつは退職金だ。受け取れ」


 アレルヤはクラインに小袋を渡す。感触で理解した。銀貨10枚程度の報奨金だ。見せかけを多くする為にわざわざ銀貨にしたのだろう。だが銀貨10枚で金貨1枚程度の価値しかない。三年間この冒険者パーティーにサポーターとして務めた結果がこれなのか。クラインは虚しさとこんな情のないパーティーに三年間を捧げたのかと思うと激しい後悔の念が湧き上がってきた。

 他のパーティー二人も見て見ぬ振りだった。引き留める程の価値を単なるサポーターであるクラインに感じてはいない様子だった。

 つまりはこの決断はパーティー全体の総意であると見て間違いはなかった。


「くそっ!」


 クラインは抱えていた荷物を地面に叩きつける。クラインは逃げるようにして、その場から逃げていった。泣いていたかもしれない。あまりに酷いその扱いに。


「……あーあ。泣いちゃってたわね。可哀想に」


 イザベラは言う。だがその表情は厄介者がいるようで喜んでいるようにも見えた。言葉だけの同情であった。


「放っておけ。冒険者の世界は実力主義の世界だ。それにあいつ程度のサポーター代わりはいくらでもいるさ」


 アレルヤはそう言い捨てた。


 ちくしょう。俺を何だと思ってるんだ。クラインはぞんざいな扱いに激怒していたが、それと同時に自分の代わりがいくらでもいる事は理解していた。

 サポーターは特殊なスキルのいらない、言わば雑用係だ。その為、いつパーティーをクビになるかとクラインは内心怯えていた。

 そしてついにその不安が現実となったのだ。遅かれ早かれただのサポーターである自分がコストカットの為、パーティーをクビになるのは時間の問題だったのだ。

 ともかくパーティーをクビになったクラインはそのまま遊んでいるわけにもいかなかった。パーティーをクビになるという事はつまり無収入になるという事だった。今まで働いてきた末蓄えた貯蓄と形ばかりの退職金はあるが、それでもその場凌ぎにしかならない。いずれはなくなる金だった。

 その為、クラインは冒険者ギルドへ向かう。王国シルヴィリアの冒険者ギルド。王国シルヴァリアはかつて務めていた「紅蓮獅王」が主な活動拠点としていた王国の冒険者ギルドである。

 クラインはそのギルドで仕事を探す為、受付嬢に声をかけた。


「すみません、受付嬢さん」

「はい。どのようなご用件でしょうか?」

「今どこのパーティーにも所属していなくて、所属できるパーティーを探しているんです」

「ではこちらの用紙に履歴を書いてください」


 受付嬢にそう言われ、一枚の用紙を渡される。


「サポーターさんですね……今サポーターさんは過剰供給な為、なかなか見つからないかもしれません。少々お待ちください」


 受付嬢はそう言って難色を示す。Sランク冒険者パーティーに務めていたとはいえ、それは決して戦闘職での経歴ではない為、評価対象にはならないだろう。所詮はただの雑用係である。そこら辺のサポーターと同列の扱いにしかならない。


「そこの椅子におかけになってお待ちください」


 受付嬢にそう言われ、クラインは椅子に腰をかけてひたすら待った。

 それから数時間の事だった。


「クライン・カーネリアスさん」

「は、はい」


 あまりの退屈故にうたた寝をしていたクラインは受付嬢の言葉により目を覚ます。


「今、サポーターを探している冒険者パーティーが見つかりましたのでご紹介します」


 そう言って紹介される。少女だった。美しい少女である。それは良い。勿論。男だから美しい少女には弱い。年齢はまだ若い。10代の半ばと言ったところか。

 少しおどおどとした印象を受ける少女だった。典型的な魔法職であろう。ロッドを持ち、魔法使い用のローブを着ている事からその印象で間違いない。


「俺の名はクラインと言います」

「は、はい。シアと申します。シア・ラディールです」


 

 そう、シアは名乗った。


「そうか。シアっていうのか。けど俺でいいんですか? 言ってはなんですが、俺はSランク冒険者パーティーに参加していましたけど、言ってはなんですが、ただのサポーターなんですよ」

「はい……私達も人手不足なんで。誰でも歓迎といった感じなんです」


 シアはそう言った。とはいえ、割と誰でも良い過剰供給のサポーターでも人手に困っているパーティーというのは、なかなかに怪しいパーティーだった。

 どれだけ魅力のないパーティーなのか。ある意味逆にクラインは興味をそそった。


「……ただ、一度パーティーと顔合わせをしたいのでこの近くに酒場があるんです。そこでパーティーメンバーと会って頂けないでしょうか?」

「構わないが」

「ありがとうございます」


 こうして、クラインはシアと一緒に近くの酒場へと向かった。

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