諺 考えよう

佐藤アキ

第1話 会うは別れの始め

 中学に入学して二日目。

 A組の教室から出ると、一人の女子生徒に呼び止められた。

 ふんわりと洒落たおさげ髪に目がいく女子生徒。その他は諸々平均的。


「太郎くん!」

「………………なにさ」

「すごい間だね。まさか、……怒ってるの?」

「……その名前で呼ばないでくれ」

「太郎が嫌なの? それ、全国の太郎に謝った方がいいよ」

「なんでだよ。そもそも、誰だよお前」

「え!? 自己紹介聞いてなかったの? この前ちゃんと挨拶したのに」

「……悪い。多分聞いてたけど覚えてない」

「わー、もしや、人に興味ない感じ?」

「一度にクラス全員なんて覚えられない。席でも近くないと……」

「えーっと、佐藤太郎くん。私は、鈴木花子です! 覚えて損はないよ!」

「ん? 出席番号、俺の次は高橋だぞ」

「あ、一年B組の鈴木花子です!」

「……隣のクラスだろ!! 自己紹介なんて知るか!」

「ちがーう!」


 おさげが少し飛び跳ねた。


「なにが違うんだよ」

「〇〇区□□一の二の三の四ツ葉シティマンション五〇――」

「なんで俺の住所知ってんだよ!」

「父の仕事の関係でお隣に引っ越してきました、鈴木家長女の花子です! 二年間だけよろしく!」

「あ……隣の部屋の!?」

「思い出した? 二度目まして!」

「悪かった、です……」

「つきましては、太郎くん」

「……なんだよ」

「一緒に帰ろう。是非!」

「……その心は?」

「迷子になると困るんです……」

「今朝はどうやって来たんだよ」

「跡をつけました。えへ!」

「一応聞いとくけど、誰のだ?」

「……」

「俺のか!? 目線をそらしてもバレバレだからな!」

「お願い、家まで連れていってください! 明日からは絡まないから!」


 翌朝


「「あ」」

「えーと、おはよー」

「よお……」

「……ついて行くけどいいですか? あ、もちろん道はちゃんと覚えたからね! でも、これは仕方のないことなのです!」

「……跡をつけるとか変なことせずに、一緒に行けばいいだろ」


 「おはよう」から始まって、学校につけば「また帰り」、家の前で「さようなら」。

 毎日その繰り返し。


『会うは別れの始め』


 本格的な別れは二年後。

 出会ったときから始まったカウントダウン。その別れは必ずやってくる。

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