50円オバケ
あかりんりん
第1話
僕の会社には「50円オバケ」が暮らしている。
そう呼んでいるのは僕だけなので、もしかしたら誰も「50円オバケ」の存在を知らないのかもしれない。
「50円オバケ」の見た目は、人間の50代くらいのおっさんで、薄毛で顔の面積が大きい。
そして両目は細く、口がいつも半開きなのだ。
そしてボソッと
「ラーメン・・・」
とか
「カレーライス・・・」
とか、
「うどん・・・」
と、マスクをしていたら絶対に聞こえないぐらいの小声で注文するのだ。
なのでいつも食堂のおばちゃんに
「えぇ!?何!?」
と怒られている。
そういえば先に、僕の会社の社員食堂について簡単に説明しておこう。
先ほど並べたラーメン、カレーライス、うどんは200円で食べられるのでかなり安い。
定食はメイン料理に加えて小鉢の総菜が2つ、もちろんご飯と汁物がついていて、300円だ。
これで毎日お腹いっぱい食べられる。
コンビニで昼食を済ませようとすると500円近くになってしまい、さらに、好きなものばかり食べてしまうため、栄養も偏る。
そう思えばありがたいので、利用する社員も多い。
そして、小鉢の総菜や生卵は50円で買うこともできる。
さて、説明が済んだところで「50円オバケ」の話に戻そう。
それはある日のことだった。
僕がいつものように社員食堂で、トレイを持って並んでいたら、「50円オバケ」が目の前にいて、50円の小鉢を取ったにもかかわらず、お金をいれずに、あろうことかそのまま次のラーメンの方へ歩いて行ったのだ。
もしかしたら小鉢とラーメンのお金をまとめて、ラーメンの支払い場所で払っていたかもしれないが、
基本的には、小鉢なら小鉢を受け取った場所で、ラーメンならラーメンを受け取った場所でお金を支払うこととなっている。
それを、別の日にも2回見たので僕は確信した。
「あのオバケみたいな人は、50円の小鉢をタダで食べている・・・!」
「50円オバケだ・・・!!」
それが「50円オバケ」の誕生だった。
でも、よくよく考えてみて欲しい。
仮に、50円の小鉢を毎日タダで食べたとする。
一か月に約20日、それを一年間。
さらに50代となれば30年近く勤務しているだろう。
たかが「50円」だが、タダで食べた合計金額は「360,000」円となる・・・!
まさに「塵も積もれば山となる」し、これは立派な犯罪だ!
「50円犯罪オバケだ・・・!」
そこで僕は、食堂を管理している部署の中に、仲の良いおばちゃんがいたので、打ち明けてみることにした。
おばちゃん「え、それホント?絶対ダメよね」
僕「もしかしたら小鉢じゃないとこで払っているかもですが。でも他の人は小鉢のとこで払っているので、一回だけでも注意はしといた方が良いと思います」
おばちゃん「そうね、ありがと。それで、その人の名前を教えてちょうだい」
僕「名前・・・」
そういえば、「50円オバケ」は名札をしていなかった。
僕「名前は分かりませんが、薄毛で顔が大きくて、両目が細くて口が半開きで、千と千尋の神隠しに出てくる「カオナシ」みたいな人です!」
おばちゃん「え~(笑)そんな人いないよ~?(笑)」
どれだけ説明しても、とうとう信じてもらえなかった。
やはり本物のオバケが人間にバケて、僕たちの制服を盗み、50円の小鉢も盗んでいるのかもしれない。
僕は悔しい思いをしながら、翌月に他県へ転勤となってしまった。
そして、3年後に、またこの場所、この食堂へ帰ってきたのだ。
僕はずっと気になっていたので、食堂で3年ぶりにいろんな人と話をしつつ、「50円オバケ」が来るのをずっと待っていた。
今度こそ、50円の小鉢を支払っているかを確認し、名前も突き止めてやる!
そう意気込んだが、何日待っても、「50円オバケ」は現れなかった。
僕が転勤している間に退職したのか、あるいは転勤したのか。
もしくは、本当にオバケだったのか。
もはや知るすべは無い。
もし、あなたの会社の食堂に、50円の小鉢をタダで食べているオバケみたいな人が現れたら、ぜひ、突き止めていただき、僕にも正体を教えてもらいたい。
僕の会社には「50円オバケ」が暮らしていた。
そう呼んでいるのは僕だけなので、もしかしたら誰もそのオバケの存在を知らないのかもしれない。
以上です。
読んでいただきどうもありがとうございました。
一人で勝手にあだ名をつけて楽しむことが好きな、性格悪い作者です(笑)
50円オバケ あかりんりん @akarin9080
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