第111話 オルセーヌ公への報告
エルフの村から戻って来たアダムたちは、そのまま王城を訪れ、プレゼ皇女に面談を申し入れた。
翌日王立学園で話しても良いとは思ったが、出来ればオルセーヌ公にアガタの事も報告して、マグダレナの居ないところで王家の霊廟に祀られていると言う剣聖オーディンの守り刀の事を相談したかったからだ。
エルフの村での滞在に時間を掛けなかったせいもあって、プレゼ皇女は女王一家で晩餐中だったが、終わるまでいつもの控室で待たせてもらい、オルセーヌ公も一緒に面談できることになった。
待っている間、アダム達にも王家の食堂から夕食が届けられ、お陰でアダムたちも控室で豪華な夕食を取ることが出来た。
「アダム、得したな、今日は寮の飯じゃなくて、豪華な夕食だった」
「意地汚い事を言うな、我が家で晩餐をすれば良かったじゃないか。母上も久し振りにみんなと会って喜んだと思うぞ」
「へへ、そうか、やっぱり俺は人気者だな、ビクトール」
「馬鹿、母上はドムトルじゃなくて、アンにアダムと一緒にいさせてやりたいと言ってるんだよ」
「ふーん、家族の団らんか。そう言えばテレジアはザクトで元気にしているかな。懐かしいな」
ドムトルの意識もザクトへ飛んだらしい。だがセト村の家族ではなくて、自分たちをキラキラする目で見ていたテレジアの方を思い出したらしい。
「そう言えば、テレジアと第一夫人のフランソワも上京を早めて、秋口には王都に出て来るらしいぞ」
ビクトールの話では、テレジアの入学準備を兼ねて、フランソワ達も早めに王都に出て来る事に成ったらしい。
しかもそれだけでは無く、ゴブリン騒ぎ以降のガストリュー子爵家の活躍も目立って来た。王権派としてもガストリュー子爵に王都で役職を与えようと言う話もあって、子爵が王都に滞在している時間がこれからもっと長くなりそうなことも原因の一つだった。これはアダムたち
「それでは、皆様の準備が整ったようでございます」
アダムたちは侍従の案内でオルセーヌ公の執務室に入り、会議デーブルに着いた。
正面にはオルセーヌ公が座り、その横にプレゼ皇女が座っている。
その場には警務総監であるパリス・ヒュウ伯爵も同席していた。ガストリュー子爵とアラン・ゾイターク伯爵は今日は間に合わなかったらしく、同席はしていなかった。
「アダム、今日は元リンデンブルグ辺境伯の下屋敷の事かい。グランド公爵は管理人に問い合わせたが、全くのデマ情報だと言っているらしいよ」
オルセーヌ公の話に同席しているパリス・ヒュウ伯爵が頷いていた。
「はい、その話に関わってエンドラシル帝国のアガタとマグダレナの話も報告しようと思います」
「ほう、エンドラシル帝国のアガタかね。彼女は皇帝の剣グルクスの妻にして、情報組織を束ねていると言われているんだ。情報があれば是非知りたい物ですぞ、オルセーヌ公」
エンドラシル帝国のアガタの話と聞いてパリス・ヒュウ伯爵も声を上げた。
アダムは、蜘蛛の鷹狩りの見物に行った際にエンドラシル帝国のアガタと知り合いに成り、アガタと賭け小屋の興行主であるハリオとの蜘蛛対決で、マグダレナが変身の指輪を使ったこと、その後で魔素蜘蛛のゲールを贈られたことを話した。
「そうか、彼女の情報はなかなか詳しくは分からなかったんだ。しかもあの怪盗騒ぎの犯人が娘のマグダレナだったとはな」
警務総監であるパリス・ヒュウ伯爵も王都へ入ったアガタの情報は集めていたらしい。
「はい、あれは『不実の指輪』と言って、やはり剣聖オーディンの竜殺しの伝承に出て来る変身の指輪だったようです」
エルフの村へアンを迎えに行く際にマグダレナと同行したことで、アガタが長命なハーフエルフの一族であることやその指輪の原理をエルフのスラーから聞いた話を伝えた。
「世界は広いというか、まだまだ我々には知らない事が多いようだね。それで貴族街の屋敷を特定した経緯を話してくれないか」
オルセーヌ公は話の意外な展開に驚きながらも、話の筋を本題に戻した。
アダムはその蜘蛛の鷹狩りを見学した後、蜘蛛を売りに来たシンとその兄貴分のガッツと知り合い、手渡したクロウ4号の情報から、闇の司祭が浮浪街の孤児院に潜伏していた事を知ったこと。そこで警務隊のオットーと乗り込むと、闇の司祭は逃げた後だったが、あの魔法陣を地下室で発見したこと。闇の司祭の荷物を運んだハリオの手下を誘い出し、雑木林の戦いで捕まえて白状させたことを報告した。
これまで暗殺ギルドの手先として何度も戦って来たガイが、その孤児院の出身で、リタという娘が闇の司祭に囚われていることも話した。この話にはプレゼ皇女が身を乗り出すように話を聞き、リタの事を思って憤慨して見せた。
「そうか、そこまで具体的だとすると、やはりその屋敷が怪しいな」
「はい、我々もそう考えています。今日は寮に戻ったらククロウとゲールを使って、その屋敷を探るつもりです」
「分かった。パリス・ヒュウ伯爵、グランド公爵の手前あからさまな捜索は出来ないが、周りを警務隊に巡回させてもしもに備えてくれ」
オルセーヌ公の指示にパリス・ヒュウ伯爵もはいと答えた。
「それで、実はオルセーヌ公にご相談があるのですが」
アダムはエルフの村のスラーから聖剣の話を聞き、『竜のたまご』に関わる情報を探していたが、剣聖オーディンを祀るトランスヴァール遺跡から、ヤーノ教授が剣聖オーディンの守り刀があることを見つけ、それが王家の霊廟にフランソワ1世の遺体を納める際に守り刀として安置されたと記されていることを話した。
「以前アンがゴブリンの母腹にされた女性を救った時、母腹の魂に混入した悪意(異物)を滅する手段が無くて、とても不安に感じました。これからの戦いに何かヒントがあるのではないかと思うのです」
「その守り刀が必要だと思うのかい」
「はい、竜殺しの伝承では悪魔を倒すのに『竜のたまご』に光魔法を込めて武器にするとありました。エルフの村のスラー村長の話では、竜のたまごは伝説の金属『ミスリル』のことで、それを使って剣を作ることで光属性の魔法剣になると言われているそうです」
エルフの村でアダムは、伝説の金属ミスリルは鉱山を掘れば出て来るという物では無く、長く生きた伝説級の魔物が、腹の中で時間をかけて溜めることで、魔力をたっぷり含んで出来上がると聞いたのだった。
「つまり、その守り刀には特別な力があると言うのだね」
「はい、剣聖オーディンはミスリルの剣に光属性の魔力を込めて悪魔を殺したのではないかと思うのです」
オルセーヌ公は俄然興味を持ったようで、好奇心が宿った輝く瞳でアダムを見た。暫く考えてからアダムに答えた。
「面白いね。それが本当ならば世紀の秘宝とも言える代物だ。私も見てみたい。明日アダムたちの学園が終わったら国教神殿の地下にある王家の霊廟に行こう。私も中に入った事はないが、一緒に探して見ようではないか」
「父上、私もご一緒していいですよね」
プレゼ皇女も興奮して口を挟んだ。
アダムたちは王家の霊廟に入ることになったのだった。
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