私の1番大切な……

猫之丞

私の1番大切な

私には最愛の人がいる。


いや、厳密に言うと居たになるのかな。


彼とはもう1年の付き合いになる。


高校1年生の6月に彼から告白され、私も彼の事が好きだったから即座に


「こちらこそ宜しくお願いします」


と返事を返した。


彼も私も中学生の頃からお互いを好きだったみたいだ。


それからは毎日何処に行くのも一緒。何をするのも一緒だった。


彼は私と趣味も思考も似ていて、一緒に居てとても居心地の良い存在だった。


多分、高校・大学と一緒に過ごしてそのまま結婚して、幸せな家庭を築くんだろうなと思っていた。


しかし、高校2年生になって直ぐ位にある事が起こった。


ある朝、私は目が覚めると強い頭痛・吐き気・倦怠感・関節の痛みに襲われた。


おかしいと思った私は、母に病状を告げて病院で検査を行ってもらった。


そして医師から告げられた病名は


" 急性白血病 " だった。




治療方法は抗がん剤治療と移植手術しか無いらしい。


私は目の前が真っ暗になった。


何で私が! まだまだしたい事が沢山あるのに! 彼との結婚の夢は!?


医師からは


「治る可能性は十分にあります。気長に治療していきましょう」


と言われるが、私は絶望に襲われていた。


それから医師と家族(父と母)は入院の日にち決めと今後の治療過程の話し合いをする事になった。


病名を聞いた時から私は


" 私は死ぬんだ……。後どの位生きられるんだろう? " 


と考える様になった。


そして、ふと彼の事が気になった。


" 私が死んだら彼はどう思うかな? "


" 私の事を思って泣いてくれるかな? "



……いや駄目だ。彼には辛い思いはさせたくない。


彼が辛い思いをする前に、私の事を忘れてもらわなくては。


私はそう決断する。


どんなに辛くても、悲しくても別れを告げなくてはならない。


彼に幸せになって欲しいから。








医師との話し合いが終わった両親に


「いつ入院するの?」


と訪ねる。


「1週間後に入院して治療する事になったよ。 大丈夫だ! 必ず治る!

いや、治してみせるから! 心配は要らないよ」


と父に言われた。


でも……何となくだが、私は治らないんだと思っていた。 そんな予感がしているんだ。


「そう……なんだ。分かったよ。治るんだよね」


「絶対だ!大丈夫だから!」


そう強く言った父の隣で母は顔を隠して泣いていた。


「後1週間あるんだよね? じゃあさ、色々準備しないとね」


私は両親に心配掛けないように明るく振る舞った。





次の日、私は両親と学校に行き職員室で自分の病気と入院の話を担任の先生に告げた。


「そう……ですか。 分かりました。治療が終わって学校に復帰するのを待っています。頑張って下さい」


担任の先生に励まされ私達は職員室を後にした。


「お父さん、お母さん、今日は学校に居ても良いんだよね?」


と両親に訪ねると


「今日は大丈夫だよ。明日からは入院するまで自宅療養になるけどね」


と告げられる。


「じゃあ私、教室に行くね」


と両親に告げて教室に向かった。





教室に入ると、私の姿を見つけた彼がすぐに私の元に駆け寄ってきた。


「美月! 大丈夫なのか! 昨日は体調不良で休んでいたから心配で心配で堪らなかったんだ!」


ああ、彼は本当に優しいなぁ……。


「猛。大丈夫だよ。心配は要らないから。 猛……後で話があるの。放課後屋上に来てくれる?」



「ああ、分かったよ。大事な話なのか?」


「うん。とっても大事な話」


そこまで言うと、授業が始まるチャイムが鳴る。


私達は自分の席に戻って授業を受けた。





そして放課後。私は先に屋上で彼を待っていた。


すぐに彼は息を切らしてやって来た。 走って来てくれたんだろうな。汗だくになっている。


「み、美月、お待たせ。で、話ってなんだ?」


「うん……。あのね、私は猛の事が大好きだよ。世界で1番好き」


「俺も美月が大好きだよ。世界で1番好きだ。どうしたんだ?今日は何か変だぞ?」


「猛……私とお別れして下さい」


「!? どうしたんだ美月!? 何故別れ話を!?」


「……もう駄目なの……私達。どんなに好きでも……もう駄目なの……」


「嫌だ! 何故別れないといけないんだ!! 絶対に "はい" なんて言わないぞ!」


「ご、ごめんなさい猛……お願いします。私と別れて下さい」


私は彼に別れを告げた。


私は呆然と立ち尽くす彼を置いて、走ってその場を後にした。


……涙が止まらない。


彼への思いが募って涙が止まらない。


私だって彼の事が大好きで、お別れなんてしたくたい! でも、私はいずれ彼の前から居なくなる運命なんだ。


彼には辛い思いはさせたくない。だったら、辛い思いをさせる前に私は彼の前から消えるべきなんだ。






家に帰ってから私は自分の部屋に籠った。


彼から電話やSNSの通知が何件も届いたが、ひたすら無視した。


彼の声を今聞いたら心が折れそうだったから。




それから1週間後……入院先は学校にだけ告げて病院に入院した。



毎日抗がん剤治療を受ける。


……食欲が全く無い。 吐き気も凄い。 身体も物凄くだるい。


入院してから数日後、私の頭の髪の毛が抜けてきた。


朝起きたら枕元に大量の抜けた私の髪の毛が落ちていた。


焦った私は自分の頭に手をやり、手櫛で髪の毛を鋤いてみた。


パラパラ………。


掛け布団に大量の髪の毛。掌にも大量の髪の毛……。


私はその場で大声で泣いてしまった。


その声を聞いた両親が慌てて病室に駆け込んできた。


私の様子を見た母が涙を流しながら私を強く抱き締めてくれた。



……彼には入院先を教えなくて良かった。


こんな姿は絶対に彼には見られたくないから。



それから数日後、私の頭の髪の毛はほぼ無い位に抜け落ちていた。


それに、身体にも力が入らない。


吐き気も凄い。



ある日、両親と医師の話している内容を聞いてしまった。


" ドナーが見つからない " 


と。



そして、私の余命は良くて後1カ月だと言う事も……。


ああ、やっぱり私は死ぬんだな。


彼にあの時別れを告げて良かった。







それから半月が過ぎた。


私は今滅菌室にいる。


抵抗力が低下して、一般の病棟には居られなくなっていた。



私はそこで信じられない物を見た。



ドアから入ってきた人が……彼だったから。


何故!? 何故猛が此処に!? 


私はパニックになる。


彼は部屋に備え付けてある受話器を取り


「美月……やっと見つけたよ」


と私に向かって微笑んだ。



「猛……何で!? 何で此処に居るの!?」


「あれから美月が学校に来なくなって、おかしいと思ったから、俺は色々な人に話を聞きまくった。そうしたら、美月が入院したって話を聞いたんだ。何処に入院したかを聞いたんだけど、皆知らないって言うんだ。 だから俺は担任の先生に土下座して聞いたんだ。始めは知らないの一点張りだったんだ。だけど、そこで俺は確信した。担任の先生の態度と表情があからさまにおかしかったからな。 そこで俺は毎日職員室に行き担任の先生の前で土下座をし続けた。そうしたらついに根負けした先生が教えてくれたんだ。お前がこの病院に入院しているって」


「……猛には今の私の姿を見られたく無かったよ……。お願いだから帰ってくれるかな」


「嫌だ!俺はずっと美月の側に居る!」


「私達別れた筈だよね!」


「俺は了承していない!」


「…何で!? 何でなの!? 私はもうすぐ死ぬんだよ!?」


「そんな事は絶対あり得ない! 俺は信じない! 美月はきっと元気になって俺の元に帰ってくるんだ!」


泣きながら彼が受話器に向かって叫ぶ。


私はベッドの上で泣き崩れてしまった。


猛! 猛! やっぱり駄目だ! 私は猛の元に帰りたい! 


死にたくないよ!!


泣き崩れている私に彼が


「元気になったらまた一緒に遊びに行こう。夏になったら海に泳ぎに行こう。秋は紅葉を見に行こう。冬には一緒にクリスマスだ。そして、は…春…に…は一緒に……桜を見るんだ。俺はずっとずっと美月と一緒……だ」


泣きながら彼が受話器越しに私に語り掛ける。


私も泣きながら頷き返す。


「もう良いでしょうか? そろそろ疲れが見えていらっしゃるみたいなので」


彼の近くにいた看護師が彼に言葉を掛けた。


彼も頷き


「毎日来るよ。早く一緒に帰ろう」


受話器越しに私に声を掛けてくれた。


その声を聞いただけで私はもう満足だ。


「分かったよ。早く一緒に帰ろうね猛……」


精一杯の笑顔で私は彼に答えた。


私に笑顔を見せた彼は部屋を出ていった。







それから本当に彼は毎日私の元に来てくれた。


しかし現実は残酷で、彼が来てくれだしてから5日後、私は彼の姿を見る事は無くなった。



そう。早朝に私の容体が急変し、私は意識不明の状態になったんだ。


何故私に私の状態が分かるのか?


それは……


私の身体を私が隣で見ているから。



確かこれは幽体離脱と言うやつだったかな?



すぐに医師と看護師が部屋に入ってきた。 近くには両親が抱き合って泣いている。


ごめんなさいね。お父さん、お母さん。私は多分もう目が覚める事は無いよ。悲しませてしまってごめんなさい。



すると、連絡を受けた彼が飛んで来て、滅菌室の壁に張り付いて何かを叫んでいる。


私は彼の近くに行くと、彼は


「約束したじゃないか! 遊びに行こうって! 元気になって俺の元に帰ってくるんだって! 酷いじゃないか!約束したじゃ……ないか……帰って……来てくれよ」


……約束破ってごめんね猛。


……猛、どうか私の事は忘れて幸せになって下さい。


私はずっとずっと貴方の幸せを願っています。


私は最後に最愛の人の頬にkissをした。


もうこれでいい。


私の後から暖かな光が差し込んできた。


私は皆に頭を深々と下げて、暖かな光が差し込んできた方に歩き出した。









心電図のモニターが止まる。


AM8:00 私の死亡が確認された。


これからはずっと彼方で皆の幸せを祈っています。


また会うことがあれば笑顔で声を掛けて下さいね。


























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私の1番大切な…… 猫之丞 @Nekonozyo

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