第19話 恋い焦がれて……


 お兄ちゃんに抱きついた……だって、ずっと我慢してたから……。

 悩みは何だって言われて、つい……。


 子供の頃は平気で出来たのに、今はずっと抑えていた、抑えて続けていた。

 もっと触れたい、もっとギュッとしたい、もっと抱きしめたい、もっと抱きしめて欲しい。

 子供の頃なら出来たのに、いつでも出来たのに……。


 お兄ちゃんの事を考えると、苦しくなる。


 恋い焦がれるって本当の事……お兄ちゃんの事を考えると、身体が熱くなる。

 身体が焦げていくように感じる。


 痛い、身体が痛い、心が痛い……泣きたくなるくらい、お兄ちゃんの事を考えると、全身に痛みが走る。


 でも、お兄ちゃんと手を繋ぐと痛みが和らぐ、お兄ちゃんにくっつくと、熱さが和らぐ、痛みが薄れる。


 だから抱きついた、痛みを和らげる為に……。


 でも、だけど……和らぐのは一時的……またそれ以上の痛みが走る。


 恵ちゃんと仲良く喋っているお兄ちゃんを見ると、息が詰まる、呼吸が出来なくなる。

 キャンプの時……窒息しちゃうんじゃないかって……思っていた。



 私は……お兄ちゃんとじゃれ合った後、何食わぬ顔をして部屋に駆け込んだ。

 

 そしてベッドに倒れ込み……枕を抱き締める。


 まだ身体にお兄ちゃんの感触が、まだ身体にお兄ちゃんの匂いが残っている。

 それを堪能する為に、痛みを和らげる為に、枕をギュっと抱き締める。


 日に日に好きになって行く、年を取れば取る程に……どんどん好きになっていく。

 感謝の気持ちは勿論あるけど、この気持ちは、お兄ちゃんを好きなこの気持ちは……決して同情なんかじゃない


 ずっと子供の頃のままでいられたら、お兄ちゃんがずっと私の元に居てくれたら。


 私だけのお兄ちゃんでいてくれたら……。


「はあぁ」

 私が小6恵さんが中1の時……二人で好きな人の事を言い合った。


 同じ人だった……。


 お兄ちゃんがずっと苦労していた事を私たちは見てきた。

 そして私がどれだけお兄ちゃんに感謝しているか……恵さんは知っている。


 だから恵さんは複雑だ……私のお姉ちゃんとしては応援する。

 でも一人の女の子としてはライバルだからって言われた。


 私も同じ……ううん……少し強がりだけど……。


 お兄ちゃんにとって恵さんは妹……そして私は娘……。

 だから恵さんは容姿を変えた……大人っぽく見せる為に……まあちょっと失敗してギャルになっちゃったけど。


 私もしたいけど、ううんギャルじゃなく大人っぽく……でも私は一緒に住んでる、急にそんな事をしたらお兄ちゃんが心配しちゃう。


 今だってそうだ……痛くても苦しくても……お兄ちゃんを見ていたい。大好きなお兄ちゃんに見とれていたい。

 でも……それだけでお兄ちゃんは心配しちゃう、それだけで不安になっちゃう。


 お兄ちゃんに心配させてしまう。

 それじゃ本末転倒だ。


 まだ時期じゃない……まだ私は……大人じゃない……お兄ちゃんにとって子供。

 お兄ちゃんが私を大人だって、子供じゃないって思った時、そう認めてくれた時、その時に私は告白する。


 恵さんも……それまで待ってくれるって……。

 私が大人になるまで……大人だってお兄ちゃんから認めてくれるまで……。


 その時が来るまで……私は痛みに耐える……熱さに耐える、焦がれる事に耐える。



「耐えられるかなあ……ふえええええぇぇん……お兄ちゃああああん……」

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