第17話 キャンプ!キャンプ!キャンプ!
夕方になり、恵ちゃんが冬眠から目覚めた熊の如くのそのそと、テントから出てきた。
「ああ、お腹空いた~~さあ、ここからキャンプ本番だぜい!」
そう言って、再度火を起こし、バックから食材を取り出す。
保冷ケースの中には、既に串に刺さった肉や野菜がある。
「焼くだけで直ぐに食べられるからねーー、おにぎりもまだあるから、焼きおにぎりにして食べよう」
最初はどうなるかと思っていたが……恵ちゃんは全ての準備を整えていた。
昔からこういう段取りを組むのが上手い娘だったなあと、思い出す。
朝早く起きてやってくれたんだろうって……。
そして、この間の旅行の時は、はしゃぎ捲っていた妹は、物凄く大人しい……。
さっきも、あれから何も言わずに、ただただ川を眺めていた。
気になる……でも最近はいつもこうだ……やはり反抗期なのか? 俺は本当に力不足を感じる。
『じゅうじゅう』と音を立て焼けていく肉、ゆっくりと沈んで行く太陽、山間は夕日で赤く染まる。
そんな景色を見ていると、なんだか少し寂しい気分になってくる。
でも……それとは逆に、俺は、少し楽しくなっている自分がいた。
妹の事が少し気がかりではあるんだけど……それを踏まえても段々とこのキャンプが楽しくなってきていた。
俺の青春を取り戻せ作戦? 何だその作戦名は? 余計なお世話だとほんの少しだけ思っていたけど……でも、二人が俺に気を使ってくれている……そう思えば、素直に作戦に乗っかった方がいいかも……という気持ちが生まれ、そう思えば苦手なアウトドアも自然と楽しめてくる。
そして無理やりにでも俺を連れ出し、俺がめんどくさくならない様にと、全てを準備してくれた、恵ちゃんの気の使い方に感動してしまう。
改めて、また二人が成長しているって、実感できる。
「うま!」
焼けた牛串を頬張る。家で食べる肉よりも、少し高いステーキ屋なんかで食べる肉よりも遥かに美味しい。
トイレやテント、食事の場所、何もかもが面倒だけど、またそれもテイストになっているんだろう。
「ははは、面倒なのも青春ってわけか……」
大人になれば何でもお金で済ませてしまう。めんどくさい事はお金で解決できてしまう。
でも、子供はそうはいかない。少ないお金をやり繰りして、自分で色々しなければいけない。
デートにしたってそうだ。旅行なんてそうそういけない……だから公園で語り合う。漫画喫茶やカラオケなんかで手軽に遊ぶ。
それが青春って奴なのかもしれない。
不便な中で、楽しみを見つける……それが青春の一つなのかも知れない。
「恵ちゃん……ありがとうな」
「ん? へへへ」
トウモロコシをガリガリと小動物の様に食べながら、俺に向かって笑顔を見せる。
茶髪になって、ピアスをして、濃いめの化粧に、派手なマニキュア、でも笑顔は全く変わらない。
子供の頃から全く変わっていない。
その笑顔を見て、俺はホッとする。
何故かわからないけど、ホッとさせれる。
「──お兄ちゃん……はい……」
妹は俺に缶ビールを見せる。
「お!」
バーベキューには、やっぱりビール……でもいいのかなあ?
「さっき買ってきた……」
「えっと……良いのか?」
「うん……良いと思う」
「いいぞ、のめ~~~~」
妹にそっとビールを勧められ、酒なんてなくても盛り上がれる恵ちゃんがさらに追い打ちをかけ、俺にノリノリで勧めてくる。
「じゃ、じゃあちょっとだけ」
俺がそう言うと、妹は紙コップにビールをついでくれる。
俺は「いただきます」と、言ってビールを煽った。
少し温くはなっていたが、のど越しを爽快感が走る。
「う、うめえええええ!」
「いえ~~~~い」
恵ちゃんがそう言って盛り上げ、妹が微笑んだ。
青春って言うにはちょっと親父くさいけど……でも、美人二人を目の前にして、ビールとバーベキューだなんて……今まで考えられないくらい幸せを感じる。
本当に二人に感謝だな……。
俺は嬉しくなって、次々に注がれるビールを飲み、そして肉をくらい……そして……。
気が付くと、俺は一人でテントに寝ていた。
「ん? あれ? あたたたた」
酷い頭痛がする……今何時だ? 二人は?
俺はフラフラする身体をなんとか起こして、テントの外に出た。
そして、二人の姿を探す。
「──あ、いた」
少し離れた場所で、二人は並んで座り、川を眺めながら何か話をしているようだった。
良かった、いくら整備されたキャンプ場で、周りは家族連ればかりとはいえ、年頃の女の子が暗い中で……なんて危ない。
おれはよろよろとしながらも、慎重に歩き、二人の側に近づいた。
「私……お兄ちゃんと……」
「あはは……に、……出来るの?」
「出来る……ううん、する……」
「じゃあ、まあ……譲るけど……は、譲らないから」
「わたしだって……」
なにか二人で話をしている、途切れ途切れなので、何を話しているかわからない。
俺は二人の背後にさらに近づく。
「私の昔からの夢なんだから……絶対に負けない」
「私もそうよ、でも、まあ、私の方が有利だからねえ」
「そうかも……でも私だって一緒に住んでるんだから」
一緒に住んでる? って二人は俺の事を話してる?
「私はお兄ちゃんと、絶対に……」
絶対に? なんだ? 何をする気だ?
『バキッ!』
その時まるでお約束の様に、誰かが仕組んだ様に、俺は枝を踏んでしまう。
「きゃ!」
「……賢にいちゃん!」
二人が俺の方に振り向く。
「あ、ああ、えっとこんな夜に二人でなんて危ないと思って……」
「おおおお、お兄ちゃん! 今の話聞いてた?!」
妹は必死の形相で俺にそう聞いてくる。
「いや、途切れ途切れで何を言ってるのかわからんかったけど?」
「ほ、本当に?!」
「ああ、ほんと、ほんと」
「…………そか」
妹はホッとした顔で俺を見る。
本当に何を話していたかわからんかった……と、思う……。
「よし! じゃあ、皆で寝よう、川の字で~~」
恵ちゃんが何かを誤魔化す様に立ち上がると、俺の腕にしがみつく。
「や、やっぱり……本当に寝るのか?」
「何? エッチな事でもしたいの?」
「しね~~よ」
「別にしてもいいよ~~そんじゃ、やっぱりお医者さんごっこを!」
「だからしね~~よ!」
恵ちゃんとまたいつものように冗談を言いながらテントに戻る。そしてまたいつものように怒られる……あれ? 何も言わない? 俺がそう思い、テントの前で振り向き妹を見ると、妹は……怒りもせず、少し思い詰めた表情で何か考え事しているかのように、俺の方をジッと見つめていた。
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