第16話 キャンプ!キャンプ!


 昼食を弁当で済ませた俺たち……。

 

「じゃあ夜にはちゃんとバーベキューやるから、後はフリーで!」

 そう言うと、ごそごそと寝袋を取り出しテントの中に入って行く。


「は?」

 まさかここまで引っ張って来てこいつ寝る気か? 


「朝から準備で眠くて、賢にいちゃんも一緒に寝る?」

 赤色の寝袋を降りつつ俺に向かってそう言い放つ……。


「……お休み」

 俺はそう言ってテントの入口を閉めた。

 さあどうするか……スマホの中に入ってる電子書籍でも読むか? 

 でもそれじゃここに来た意味ねえなあ……なんて思っていると……。


「お兄ちゃん……散歩付き合って?」

 俺の腕を掴みニッコリ笑う妹……。


「そうだな」

 せっかくここまで来て、テントで寝たり、スマホを見るんじゃ勿体ない。

 そう思い直し、妹と散策する事にした。


 ゴールデンウィーク初日、天気は快晴、気温は太陽の下にいると少し暑いと感じるくらい。

 川下から吹く風が心地よく感じる。

 キャンプ場から出て、鮭の様に川を登って行く。

 ゴロゴロとした石を転ばない様に歩いて行くので、そんなにペースは上がらない。

「きゃ!」

 俺が前を歩いていると、妹の小さな悲鳴が、慌てて振り向くと、動く石に足を取られ俺の方につんのめる。


 俺は素早く前に出て妹を抱き止めた。


「あ、ありがと……お兄ちゃん」

 俺に抱き止められ、胸の辺りで顔を上げ俺に微笑む妹……。


「危ないから……手を繋ぐか?」


「うん!」

 河原にあるのはゴロゴロとした丸い石だけど、転んだら怪我をするかも知れないと、俺は妹の手をしっかりと握る。


「へへへ……」

 楽しそうに笑う妹を見て俺も自然と笑顔になる。

 俺たちはそのまま川を登り、キャンプ場から少し離れた誰もいない岩場に到着した。


「ん……良い風」

 岩場に二人で腰かけて、ゆっくりと流れる川を眺める。

 妹は座ったまま、岩場に落ちている小石を川に投げ入れた。


「お魚いるのかなあ?」


「まあいるだろ?」


「そっか……お兄ちゃん釣りとかしないの?」


「うーーん、なんかめんどくさいなあ、手とか魚臭くなるって言うし」


「ふーーん」

 他愛も無い会話……所謂雑談……でも俺が自然に雑談出来るのは妹だけ……何かそれがとても心地よく感じる。


「そう言えばさ……雪と恵ちゃんて、仲良かったんだな?」


「え?」


「あ、いや、おばさんの家に行くといつも何かギスギスしてるからさ」

 小学生の時は結構仲良く遊んでいたのに、思春期になって突然ギスギスし始めた気がする。

 何があったかはいくら聞いても教えてくれなかった。


「……」

 妹は川を見つめ黙っている。


「雪と恵ちゃんには仲良くして貰いたいんだよね」

 俺がそう言うと、妹は川から俺に目線を移して少し強い口調で言った。


「……どうして?!」

 

「そりゃ二人は……俺にとって妹みたいなもんだし」


「……ふーーん」


「ふーーんって……」

 妹はそう言ってまた視線を川に戻し、今度は少し大きめの石を投げ入れる。

 最近妹の考えている事がわからない……赤ん坊の頃の方が、子供の頃の方が、わかっていた……ミルクなのか? オムツなのか? お腹が空いたから? 遊びたいから、妹の事は何でもわかった、何でも理解出来た。


 でも今は、最近は……雪が、妹の事が俺にはわからなくなっていた。

 何を考え、何を求めているのか俺には……わからなくなっていた。

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