番外編「転移前日、元勇者の旅立ちと王の心の闇」
※前話135話との直接的な続きでは有りませんので悪しからず。
時系列的に132話の転移する前日の話です。
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Side――――秋山快利
「あ~学校行きたくないよぉ……」
「な~に休み明けの学生みたいなこと言ってんのよ快利」
実際その通りなんだから仕方ない。だって今日は俺の冬休み明けの初登校になるからだ。ちなみに那結果は明日の異世界転移に合わせて千堂グループで最終調整をしたいからと休みだ。
「でもユリ姉さ~ん」
昨日テレビデビューして大々的に元勇者である事が世間様にバレてしまったから学校に行き辛い。ちなみに昨日の始業式に出たエリ姉さんはもちろんクラスメイトの三人は大変だったらしい。
「こら快利、いつまでもユリ姉ぇに甘えるな今日は歩きだからそろそろ出るぞ」
「転移魔術でいいじゃ~ん」
ユリ姉さんの膝枕に顔を埋めながら抱き着いて離れないで最後の抵抗を示す。視線を上げると困ったような顔のユリ姉さんがいて視線を下げるとソファーの下でグラスドラゴンと我が家の愛犬ポロが餌を奪い合ういつもの光景が見れた。
「魔術や魔法なんて使ったらマスコミの格好の餌食だ、私達の登校風景ですらSNSにアップされているんだからな」
そう言ってスマホを見せるとエリ姉さん達ら四人が集まっている盗撮風景が堂々とアップされていてエリ姉さんは既に名前までバレていた。
「え~と、なになに……噂の勇者のお姉様マジ美人で一発ヤリてえ……鑑定、確認、
「こら快利、相手は一般人だぞ」
「俺のエリ姉さんに邪な視線をぶつけた時点でこれくらいは当然」
たぶん投稿主は五分以内にちょっとした不幸が起こるだろう。別に命に関わるような事は無いから大丈夫だ。
「はぁ、とにかく玄関先で皆が待っているから急ぐぞ!!」
「は~い、じゃあ後でねユリ姉さん、俺……この登校が終わったら異世界行くんだ」
「はいはい、私も一緒に行くから学校頑張って来てね元勇者さま」
こんな感じで俺は先に待っていたセリカやモニカそして遅れて来たルリと一緒に歩き出すと周囲には監視が少なくとも三十弱、制服の警官も居るが通行人のフリした諜報員が大量にいた。
「直接手を出すバカはいないか……」
「あ、でもカイ、昨日、私は気付かなかったけど何回かモニカが狙撃を何とかしてくれたみたいだよ」
「そうなのか? ちなみに犯人はこの中にいるのか?」
「さあ長距離からの狙撃でしたので……」
「ふ~ん、じゃあ遠慮はしないで良いよな? スキル
そして敵と味方を選別する。前にユリ姉さんの言ってた通りの事態が起きてる。CIAにロシアと中国の諜報機関の人間だらけだ。
(モニカ、セリカ少し脅かしてやんね?)
(絵梨花姉さんにバレたら怒られますわよ?)
(だから勇者コールで話してるんだ)
(私は賛成です、昨日の狙撃はイラっとしたので)
俺はそのまま二人に指示を出すと俺も
(では、行きますわ快利、モニカ!!)
まずは初手でセリカが生活魔法の魔法『フレア』を最大威力で発動する。夏の旅行の時の花火に使った『フレイム』の弱体化版だ。もちろん指定したのは各国の諜報員のみで千堂グループの護衛や警官は対象外だ。
「What!?」
「不会吧!!」
「Разве!!」
釣れた釣れた大量に、そして間髪入れずにモニカが特製の爆竹を対象に転移させる。これも花火程度の威力のものだ。さらに阿鼻叫喚の悲鳴が上がる中でエリ姉さんとルリも気付いて俺達を見た。
「こら、快利!!」
「えっ!? カイだけじゃないよね、これ?」
「セリカ、モニカ逃げるぞ!!」
「「りょ~かい!!」」
俺たち三人は学校に走り出す。それを追って来るエリ姉さんとルリを見ながら後ろで国際色豊かなって連行されたり喧嘩をしている連中を見ながら俺は既に世界に見られているのを改めて実感した。
◇
教室に入ると既に半分以上はクラスメイトが居た。リアクションは分かっている、さあ俺を盛大に奇異の目で見るがいい馴れっこだ。
「お、快利やっと来たか」
「秋山くんおはよう」
まず近付いて来たのは亥助と安達だった。昨日の始業式の話などを聞いたが普段通りで女子にも何人か挨拶されたけど普通で俺の予想と何か違って拍子抜けだった。
「あ、あのさ、その~俺って元勇者なんだけど、昨日テレビとか出ちゃってさ~」
結局、我慢出来ずに自分から言い出すとクラスメイトが一気に集まって来て一斉に喋り出していた。
「あ~、やっと自分から言ったか!!」
「それを待ってたぜ秋山!!」
「ねえねえ、もしかしてイジメとか撃退してたのも魔法なの!?」
「学園祭の時とかのも、そうだったの!?」
ここ最近のクラスでの異変を変だとは思っていたクラスメイト達は次々と話しかけて来た。こんなに話しかけられたのは魔王を倒した時の凱旋パーティー以来だ。
「あ、いや……まあ」
「落ち着いて皆、カイは凄く強くてかっこいい私の勇者様だけど基本は陰キャのままだから質問は一人ずつだって昨日お願いしたでしょ!!」
ルリが最後の最後に刺して来た泣きたい。その後クラスの皆が落ち着いたから俺は今までの経緯を話せる範囲で話していく。
「じゃあ、やっぱGW明けまでは陰キャだったのか」
「まあな、そんで急に向こうの世界に跳ばされて色々あって、こっちに戻ったんだ」
本当に色々あった。むしろ有り過ぎたから俺は戻って来たけど戻った先のこちらの世界でも色々有ったんだ。
「僕のぜん息、お医者さんが治る事は無いって言ってたのを治してくれたのも秋山くんなの?」
「ああ、回復魔法でな、てか癌とか重い病気以外は大体これで治る」
「マジかよ、じゃあ昨日の部活で出来た掠り傷有るから見せてくれよ」
上手く使われてる気もするけど折角だからと遠藤の怪我を診てやろうと思ったが病気じゃなくて怪我だと回復魔法の出番じゃない。
「ああ、でも回復魔法じゃなくて医療魔術の方だな、ちょい待ち、聖剣」
「快利、聖剣をそんな簡単に!!」
「良いんだよ普段から使ってるし」
セリカが咎めるがバレた以上は隠す必要も無いから出し惜しみは無しだ。ついでに全員を
「聖剣ってあれか伝説の剣みたいな感じか?」
「ああ、これでモンスターとか魔族とか斬りまくったんだ」
軽くビュンと振るったら床が吹き飛んで教室のガラスまで割れてしまい慌てて修復魔術で直すハメになってしまった。
「ご覧の様に快利兄さんは力加減が出来ませんのでお気を付け下さい」
「うっせ、お前だって俺起こす時に爆弾で部屋爆破するじゃねえか!!」
そんな話をしている内に工藤先生が入って来ると一応は朝のHRが始まった。そしてそのまま自分の授業だからとLHRの時間にしてくれた。
「良いんですか先生?」
「明日は向こうに行くんだから少しの間クラスの皆とはお別れだろ、君の正体も分かったのだから話していくといい」
そして生まれて初めての俺への質問大会になった。幼稚園とかの誕生会で本日の主役になって以来じゃなかろうか。そして俺への質問はこうだった。
『勇者って何してたの?』
『私も魔法とか使えるの?』
『ケモ耳っ娘やエルフはいる?』
『カイの好きなアイドルは?』
最後の一名は論外として最初の三名の質問に答えたり、途中で魔法や魔術を見せたり暇な時に作ったアイテムをクラス全員に渡したりしている内に気付けば時間はあっという間に過ぎていた。
◇
その後は昼休みまで何も無かったけどルリに突然パシられて懐かしいケーキ屋に行かされ転移魔術で一瞬で戻ると皆に驚かれた。そして帰って来た俺に亥助と安達がクラスを代表して何かを渡してきた。
「これって……なんだ?」
「まあ定番だけど寄せ書きってやつだ、昨日から急いで書いたんだぜ」
「それとこれは那結果さんの分だよ秋山くん、風美さんや他の二人には昨日のうちに渡したんだ」
そう言って寄せ書きの色紙を渡され俺は困惑した。人生で初過ぎて茫然として午後の授業は集中出来なかったくらいだ。そして気付けば帰りのHRで、これが終われば学校は終わり明日から異世界だ。
「じゃあ秋山、最後に何か有るか?」
「転校するわけじゃないんですよ先生?」
「ああ、だが実際少なくない時間を空けるからな」
そう言って教卓の横まで行かされ俺は先生と交代して中央に立った。
「なんつ~か今さら過ぎるけど俺は、このクラスが大っ嫌いで、イジメをしてくる奴も無視する奴も全て皆、地獄に落ちろ一生恨んでやるとか考えてた、正直こんな色紙貰っても嬉しくもなんともない!!」
そう言って俺は
「あっ!?」
「まあ、そうだよな」
ざわざわとするクラスメイトに難しい顔をする工藤先生、しかしルリやモニカとセリカの顔は違った。俺のやろうとしている事が分かっているようだった。
「なんて思ってたんだけど……俺って案外チョロいんだ」
俺は燃えカスに触れて一瞬で修復魔術で色紙を元に戻した。その光景に皆は驚いたり焦ったり悲喜こもごもな不思議な表情をしている。
「今の皆の表情とか嫌な気分で今度こそ全部チャラだ!! 俺は、俺はさ……気付けば皆のこと、とっくに許してた。文化祭とか皆で頑張ったり、初詣とかで俺の中では勝手に友達だって……そう、思ってた」
見るとルリはもう泣いていた。アイドルの癖に案外と涙もろくて演技出来てたのが不思議なくらいだ。セリカやモニカを見てみろ貴族とメイドだから……って思いっきり泣いてる。
「ううっ、カイ……良かったよぉ~」
「ええ、本当に後顧の憂いは有りませんね」
「快利兄さん、良かった……」
「昼にも話したけど、少し強引な方法で二人を誘拐したみたいな感じになってるから、その誤解を解くために俺は明日、異世界に行きます!!」
そう言って俺は
「じゃあ、こんな感じで異世界で勇者に戻って事件片付けて来るから、二月の修学旅行までには今ここに居ない那結果も連れて全員で戻るから忘れるなよ俺達を!!」
それを閉めの言葉にして俺達は帰宅する。明日の異世界転移に備えて少しだけ名残惜しかったが帰って来てから色々と話そうと思って俺達はその場で転移した。ちなみにすっかり忘れていたエリ姉さんは徒歩で帰って来て怒られた。
◇
Side――――フリードリヒ(秋山英輔)
「明日だなネミラークよ」
「ああ、やはり元の仲間には手出しが出来なかった上に正体がバレた以上カイ坊は戻って来ざるを得ない」
友のネミラークの言う通り私の作戦は完璧だ。これでやっと快利を本当の意味で私の手元に置く事が出来る。戻って来たら真相を話し本当の祖父として今度こそ快利の望む世界を用意してやることが出来る。
「ああ、今から楽しみだカーマイン」
「いくら二人だけとはいえ油断し過ぎだぞエイス」
そう言って私を窘める仮面の護衛も私の昔のエイスという幼名を言っているではないかと釘を刺す。だが友にすら話していないがこれは幼名では無い。私フリードリヒがこの世界で生を受けて記憶を完全に取り戻し秋山英輔として戻った七歳の時に自ら名乗った名だ。
「明日には快利が護送されて来る……お前の娘と一緒にな、祝言の日取りはどうする? ケニーも連れて来るように言った上に、あやつ向こうで女になっているらしいからな、あれも快利と結ばさせれば我が国は安泰だ」
「ふっ、違いない……では二人の王子はどうするのだ?」
残念ながら、この世界で血を分けたはずなのに私に逆らった愚かな子、やはりどの世界でも子供から期待を裏切られるのは運命か……だが、それでも私の大事な子に違いないから処刑などにはしない。
「あやつらも、もちろん開放する、ただし異世界を制圧した後でだ、快利を説得し私の後を継がせるが、それはあくまで裏での話だ表向きは二人に治世をさせる、その間快利に私が自ら帝王学を学ばせる」
「ふっ、実の子よりも大事そうだな」
当たり前だ友よ、あの子は私の力が足りないばかりに向こうの世界で守ってやれず不幸にした大事な孫だ。向こうでの最大の過ちだ。
「わざわざ異世界から呼び寄せたのだから当然だ」
「ふむ、そうか……どうした?」
何か含みが有るが我が友といえど私が異世界から生まれ変わり転生したとは思うまい。それにしても七年前は本当に驚いた。もう忘れ完全に過去と思っていた私の過去が王国の危機に合わせたように私の元に来たのだから。
「快利が来た頃を思い出してな……」
「ああ、最初は情けないガキだったな」
あの当時の快利は世界の全てに恐怖し怯えていた。本当はすぐに保護しようと思ったが世界はそれを許さなかった。魔王による滅びの未来を阻止するために呼び出した勇者としての快利を早く育てる必要があったのだ。
「快利は私の期待に応えてくれた……やはり異世界を越えた者は代償として何らかの才能を得る、あの子は成長速度がそれだった」
「ああ、数ヵ月かかって習得する魔法を数日で、数年かかる魔法は数ヵ月で覚えて気付けば国から選出された特別な英雄と大差無いまで成長するのに三ヶ月もかからなかった……あれには正直嫉妬した」
防衛戦を指揮し魔族と何度も戦ったカーマインをもってしても快利の成長速度は異常だった。しかし同時に私は分かっていた王家は代々勇者を輩出していたが実は少し違ったのだ。
「あれは紛れも無く勇者の力だ、魂の繋がりが感じさせてくれた」
「さすがは王位を継いだ男の言葉は違うな……快利にもそれを感じたか?」
そう、勇者に必要なのは王家の血筋などでは無く魂としての繋がりだったのだ。この世界での前々代の王に真実を話された私は驚いた。そして私はただの子爵の子息から当時王の娘、つまり姫を妻に貰い最終的に戦争を終結させ王位を継いだ。
「ああ、皮肉にも繋がりは一瞬で把握出来たさ」
分かってしまった、だって私の前世の孫なのだから。そして少し話を聞き出しただけで私が向こうの世界で死んで一年も経過してない事を知った。そんな中で私は決断を迫られた。
この子を安易に囲って守ってやれば滅びゆく国と運命を共にするだけで、また不幸にしてしまうと……だが逆に快利が勇者として活躍すれば私の後を継がせ救国の英雄として素晴らしい人生を歩ませる事が出来ると思ってしまった。
「あと一歩、あと一歩なのだ……」
「ああ、そうだな我が友よ」
快利が戻れば全てが解決する……そして、その時こそ私は快利のために祖父としての役目を果たす事が出来る。あの子に素晴らしいものをプレゼント出来る。この世界と、あちらの世界をまとめて渡し快利を存分に甘えさせてやれる。
「だからあと少し、頼むぞネミラークよ」
「分かっているさカイ坊もだがセリカも怒るだろうな俺が生きてたら」
友を死んだ者として側に置いたのは前代の王の膿を出し切り新たな王国を快利に渡すための第一歩だった。私の策は完璧だった快利は勇者として名実共に英雄として民を救う伝説となったのだから。
「そこは私も一緒に謝ってやる……快利が王となり立派になったら二人で隠居しようではないか」
「ああ、そうだな、お前が考案した全然流行らなかった将棋とかいうのを二人でやって過ごすのも悪くないな」
「うむ、なぜ将棋が流行らんのか未だに分からん」
これだけは謎だった。私は十歳になる頃には既に神童として動き出し色々と策を巡らせていた。識字率の向上もとい新しい文字としての日本語を普及させるため動き三十年以上の時をかけて王国の第一言語にしたのだ。
ただ、そのために作った物の一つが将棋だったが全然ダメだった。普通に絵本が一番流行ったのは誤算だった。
「ふっ、昔からお前は凄かった……カイ坊を王にするのも狙いがあるのだろう?」
「ああ、もちろんだ信じてくれ我が友よ、そのための
セリーナが見つけてくれた神をも殺す兵器、あれが見つかったから今回の異世界侵略遠征が叶ったといっても過言ではない。あの槍のような矛が全てを可能としてくれた正に天啓だった。
「だから、待っているぞ快利……」
◇
そして両者は同時にそれぞれの世界の空を見ていた。若き英雄は二つの世界を旅し幾度もの試練を乗り越え、望むと望まざるとにかかわらず、いつの間にか王の器へと成長を遂げていた。
「待ってろよ王様……何考えてるか分かんないけど止めてみせる!!」
一方で古き王は二つの世界を見て理不尽を許せなかった。一つ目の生を受けた時に果たせなかった宿願を彼は二つ目の人生で叶えようと動き気付けば全ての理想を捨ててでも目的を達成しようと動いていた。
「待っているぞ快利……そして私と共に今度こそ……」
全くの同じタイミングで二人は決意を固めていた。それは皮肉にも二つの世界をより強固に結びつけてしまう始まりとも知らずに……。
「俺が二つの世界の衝突を止めてみせるっ!!」
「私が全ての理不尽の連鎖を止めてみせる!!」
ここに両者の確執は決定的となった。未来を目指す若き英雄と過去に拘る古き王の二つの世界をまたにかけた壮大な孫と祖父の喧嘩は知らない内に幕を開けていた。奇しくもそれは転移前日の出来事だった。二人の激突は近い。
――――最終部『元勇者から王へ至るヌルゲー』へ続く
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