第135話「最悪の再会」


「どうなってんだよ……あんたは俺が……」


「殺したのにと?」


 俺が頷くと頭をかきながら実はなと言ってネミラークいやカーマイン元侯爵は当時のことを話し出した。


「お前との最後の戦いで斬られて重傷を負ったタイミングで俺は直前に自ら仮死化魔法をかけたんだよ」


「仮死化魔法……なんだそれ? 那結果知ってるか!?」


 そんな魔法初めて聞いたんだが、ここは知識そのものだった奴に聞くしかない。困った時の那結果頼みだ。


「……該当データが有りません」


「私も初耳ですそんな魔法……」


 那結果が答えた後にモニカまで言っている。知識の魔法の情報生命体で知識は無限に近いと言われていた少女と片や邪神キュレイアにあらゆる知識を無理やり習得させられた元邪神の使徒の二人が知らないなら未知の魔法に違いない。


「いや、これは気絶系魔法の最上位だ、刹那の子守歌すぐにおやすみの最終発展型の魔法でな、お前はこの魔法を使ってないだろうな最弱だし」


「ああ、うん……てか、あれに最終系とか有ったんだ」


 実は向こうの世界では割とお世話になりました。主に義理の姉とかを気絶させる時に使ったりしたんですよね。


「あっ、有りました!? 習得条件が英雄化の次の次に難しい癖にクソ雑魚認定されているデバフ魔法で使い勝手が悪過ぎる魔法としてブロックリストに名前が有りましたよ快利!!」


 これからは全ての魔法を網羅もうらしてくれと那結果に言うと俺はコホンと咳払いして向き直った。ちなみにモニカは教えられてすらいなかったらしい。


「仮死化魔法などという御大層な名前だが実際は死んだフリだ、騙されたな!! 魔力や神気も全て封じられ三日は生命活動が停止したように見せるんだ」


「え~、じゃあ待てよ新生魔王とか七竜の騒動の時は何してたんだよ!!」


 ドヤ顔で髭を撫でるオッサンを俺は睨みつけてガチギレする。そもそも目の前の人がいれば新生魔王戦も楽になった。なんせ転移魔術と時空魔術がこの人も使えるから戦況が泥沼化する前に色々出来たはずだ。


「そ、そうだぞカーマイン侯!! 仮にも世界の危機が二回も有ったのに貴方はどこで何をしていたのだ!!」


 思わず茫然としていた慧花も俺達の言い合いに参加した。周りの近衛兵ですら動きを止めてカーマインの旦那の次の言葉を待っていた。


「実はこの魔法、使うと意識が回復した後も数ヵ月は体が自由に動かせんのだ、そこから体の完治に一年以上かかってな……歳は取りたくない」


「じ、事実のようです快利、約半年の間動けなくなるデバフがかかり、その間は体の回復のために神気と魔力を全て回すため意識もあやふやだそうです」


 生命活動を一時的に三日も止めたように見せかけるため体の過負荷は凄まじく、それがデバフとして処理されるらしい。しかし俺には別の疑問が有った。


「ならセリカの『鑑定』をどうやってかわしたんだよ!!」


「そ、そうです!! セリカ様は貧乳ですが鑑定のスキルは確かです!!」


「モニカぁ!! どさくさに紛れて何言ってやがりますの!?」


 掴み合いになって喧嘩している主人とメイドを見ながら俺は考えた。そして那結果と慧花を見たが首を横に振った。だがそこで声を上げたのは意外な人物で俺の元パーティーメンバーの一人のノアケール師だった。




「その仮面……まさかを勝手に使ったかカルスターヴ侯爵!!」


「さすがはノア師、その通り、これはスキル対策専用魔術具『仮初めの人生』だ……カイ坊、スキル寄せは知ってるか?」


 そんなの初耳なんですけど……でもノア師は知っているようだから振り向くと彼は語り出した。


「そもそもスキルとは対象を設定し効果を発動するもので現象に対して効果を及ぼす魔法、道具などに魔法的効果を付与し運用するのが魔術、その二つと違う第三の力で神が与えた人のみが使用出来るものだと言われている」


 この世界では常識的な事で俺も知っている内容だ。だが次からが違って今の説明だけでバリ爺は何かに気付いたようにハッとした顔をしている。


「つまり、どういう事ですかノア師?」


「カイリ、そこで魔術からスキルに対するアプローチが有った、それは魔術の支配下にスキルを置けないかという研究で私が完成させた理論の一つだ……それはスキルの対象を魔術道具に限定するというものだ」


「なるほど……そういうことですか」


 那結果が理解したように頷いているが俺達はチンプンカンプンだ。勇者コールで分かりやすく説明しろと脳内で言うと那結果が返信して分かったと頷いて話し出す。


「恐らく『スキル寄せ』とはその名の通りスキルの効果を魔術道具に吸い寄せるような効果で、それ以外を対象に出来ないような魔術が付与されているのでは?」


「正解だ、博識だなお嬢ちゃん?」


「お褒め頂き光栄です、つまりカーマイン様はスキル効果を逆手に取り鑑定をわざと受け偽情報をセリカさんに鑑定させて別の人間に成りすましたのです!!」


「なっ!? じゃあ鑑定が破られたのか!?」


 喧嘩していたセリカとモニカもこれには固まった。スキルは現在までの研究では防ぐのは不可能だと言われていて、千堂グループでも感知するのが限界で干渉は難しいと言われていた。


「ああ、だがお前が帰って来た時は焦ったぞカイ坊、お前の勇者系スキルだけは効かないと言われていたから使われたらバレていた」


 その言葉に女性陣七人や元パーティーメンバーを含めた会議室の全員が俺を一斉に見た。え? 俺が悪いんですか皆の視線が怖いんですけど……。


「何で使わなかった?」


「確かにのう……なぜじゃ?」


 ライとバリ爺の問いかけに目を逸らすとセリカとモニカは俺を睨んでいた。慧花は不思議そうにしていて他の皆も似たり寄ったりのリアクションだ。だから俺は絞り出すように声を出す。


「そ、それは……」


「それは?」


「あの時は面倒事を片付けて早く元の世界に帰りたいって思ってて、それにセリーナとの修行や世界樹の迷宮攻略とか色々あったから気がそぞろでさ……」


 本当は急いで元の世界に帰ってエリ姉さんと一緒にお風呂とか、ユリ姉さんの膝枕とか、ルリとデートしたいという思いの方が強かったが秘密だ。


「そうだよな那結果!!」


「は? 少しは気にしてましたが大部分の脳内ピンク色でお姉ちゃんに甘えたい、最近いい感じの同級生とワンチャン有るかもとかいう童貞根性垂れ流しでしたが? な・に・か!?」


 なんか那結果までキレてらっしゃるんですけど思い出し笑いならぬ思い出し怒りだそうで周囲の女性陣の視線が二種類に別れて大部分の男性陣はジト目だった。


「そうかそうか早く家に帰りたかったんだな快利!!」


「快利は甘えん坊だからね~」


「ふっ……何も言い返せません!!」


 姉さん達に何を言われても言い返せないし、ルリなんか満面の笑みを浮かべてる。こうなったら奥の手の勇者式土下座だ。取り合えず謝っておこうの精神は大事だ。


「土下座で何でも解決するとは思ってませんわよね快利?」


「快利兄さん……私達を見捨てて他の女とイチャイチャしたかっただけなんて、ある程度の予想はついてましたが」


「当時は男だったが見捨てられた時の私は絶望したものだ、うんうん」


 セリカを筆頭に三人の美女の気配が頭上に有るのが良く分かる。周りからは困惑の声と同時に呆れた気配も伝わって来た。


「久しぶりに見たな勇者の土下座」


「じゃのう、腰が低いどころか頭が低すぎる勇者として有名だった」


 止めてギュルンストのオッサンとバリ爺、一応は身内だけとはいえ恥ずかしいことは恥ずかしいんだからね!!


「男のツンデレは気持ち悪いと以前にも言いましたよね、反省が足りませんか?」


 那結果、頼むから当たり前のように俺の思考を読むのを止めてくれ。姉さん達やルリには知られたくなかったんだ。


「カイ坊も相変わらず女難の相か、安心したが進歩がねえな」


 苦笑して腕組して俺を見ているが俺は土下座を解いて立ち上がって我に返る。そもそも悪いのは誰かを忘れる所だった。


「うるせえ!! そもそもあんたが死んだフリしたのが悪いんだろ!!」


「そ、そうですわ!! お父様!! サラッと生き返るのは心臓に悪いですわ!!」


 ほんとそれな、セリカもっと言ってやれ親に恨みがある同士、気持ちはよく分かるからな。


「だが、あそこで俺が死んでなきゃ収まらなかった、実際、俺は死ぬ気だった」


「じゃあ何で?」


「エイスいや陛下に頼まれてな、ちょうど今のカイリみたいに土下座されてカーマインという男を殺してでもお前を生き残らせたいって言われて断れなかった」


 貴族戦争を裏で仕組んでいた二人なら極秘に連絡を取り合い、そのようなやり取りが有ったのも頷けるものだ。


「で? ここまで話したのなら俺と戦うのは止めてくれるのか?」


「そうもいかん……俺はあいつの友だからな」


 そういうと二刀流にした二対のソードを構えた。臨戦態勢で今度はスキルも使う気で完全に本気だ。


「そこで娘と感動の再会だけしててくれ……この世界に居ずらいなら向こうの世界に連れて行ってもいい、そうすりゃセリカだって」


「お前は本当に……あいつに、陛下に似ている……ならば戦わねばならん、それになカイ坊よ他に言いたい事も有る」


 王様もだいぶ過激だが基本は正義のためだ。暴走した正義で独りよがりな思いは少し分かるし俺も一時はそれに酔った。でも、その俺を止めてくれたのが目の前の男と今、暴走している王様の言葉だ。だから今度は……。


「なんだ?」


「娘は簡単に渡さん!! 俺を倒さねば嫁にはやらんぞ!!」


 またえらく明後日の方に舵を切りやがったなこの不良侯爵め。だがセリカは珍しく動揺していた。


「なっ!? お、お父様!?」


「そうか、じゃあ倒すしかねえなセリカ貰う予定だからな!!」


 今の言葉は俺の本心だ。昔は後ろをチョロチョロしてただけの幼く危なっかしいだけの少女も成長し気付けば一人の立派な女性に成長していた。そして気になる異性になっていた。


「えっ!? ええええええええ!!」


「ま、そういうわけだ……本気で行くぞカーマインの旦那!!」


 セリカの悲鳴をバックに聞きながら俺は神刀を構えた。そして後ろのルリとモニカに目配せし最後に脳内で那結果に呼びかけると王国随一の魔法剣士と対峙した。




「お、お前……本当に本気出しやがったな……」


「ああ、当然だろ?」


 俺は青く輝く髪が黒髪に戻るのを確認しながら地に伏した相手を見る。初手から英雄化を使った上にカップリングスキルを二つも同時に使用しカーマインの旦那を文字通り瞬殺した。


「お前、そのスキル……聞いてた以上にエグいんだが」


「当たり前だ英雄化は圧倒的なんだ、じゃあ行かせてもらうぜ、それとセリカもついでに貰うから、いいよな?」


「ついでというのは気に入りませんが、これで私も遂に正妻に……今思えば出会った十歳の頃から――――」


「あ、正妻かは分からねえぞ候補あと六人いるから」


 俺が何気無いトーンで言うとセリカは元より他の六人の少女たちも気付いたようで全員が「え?」と声を上げていた。


「あ~、まあ、その……俺、七人全員が好きみたいだから向こうに戻ったら全員に告白する予定だから、そういう感じでよろしく!! じゃあ王様を追うぞ!!」


「「「「「「「えええええええええええ!!!!!」」」」」」」


 誰か一人を選ぶには俺達は絆が強く結ばれ近い存在になり過ぎた。だから誰か一人を選んで他の六人を切り捨てるなんて俺には出来ないから選択肢は一つだ。


「じゃあカーマインの旦那、案内してもらおうか?」


「ああ、いや……サラッと七股宣言しといて俺に話を振るのやめろ」


「七股じゃねえし!! 七人全員に好きだって言っただけだから!!」


 そこでまた後ろの七人がキャーキャー言ってる中で那結果と目が合った。こいつ余計な事を言う気じゃないだろうなと見ると口を開いていた。


「快利いえマイマスター、私のこの体にも妊娠用プラグインは搭載可能で妊活も大丈夫です!! お任せ下さい!!」


「オメーは火に油を注ぐな!!」


「今回は燃料大量投下したのは快利自身ですよね? それに言いました、私はこの体をあなたのために作ったと……最初から産む気満々です!!」


 そしてまた騒ぎ出すと思った瞬間、城内が激しく揺れた。巨大な地震のようにも感じる不気味な揺れだが違う。これは間違いなく自身などではない別な現象だ。


「時空震!?」


「あ~、カイ坊、マジでヤバいぞ王は世界を繋ぐ気なんだ」


「それってどういう――――「いいからエイスを、王を止めたいんだろ? 行くぞ」


「分かりましたよ、お義父さま?」


 まだ秘密にしてることが有りそうだから嫌味を込めて呼んでみる。すると走り出そうとしたカーマインの旦那はゲンナリした表情に変わったが無視して俺達は全員で玉座の間に向かった。そしてそこで王は待っていた。




「来たか、一足遅かったな快利」


「その悪役のテンプレ台詞は言うと負けフラグだぜ?」


「父上、どうかお考え直しを……」


 俺は神刀を構えて王に突きつけた。我ながら決まっていると思ったが隣に立って聖剣を構えている慧花の方がスタイリッシュな気がする。


「そうか、ほう仮面は取れたか我が友カーマイン」


「ああ、悪いエイス、瞬殺されたわ」


 そういうカーマインの旦那に苦笑すると仕方ないなと言って王は肩をすくめた。てか気になったけどさっきからエイスって何だ?


「古い名さ……王国が戦乱の最中にあった時の若い頃のあだ名のようなものだ」


「まあいいさ、それより最後の悪あがきは終わったか?」


 俺が挑発すると王様は玉座に座り直して鷹揚おうように頷くと語り始めた。


「先ほどの時空震が答えだ快利……その前に再度問いたい私と共に二つの世界の全ての人々に正義を示し理不尽を無くす……そのための秩序を共に築こうではないか、お前の力と、ここに集った人々がいれば不可能ではない、違うか?」


「違うな王様、あんたの治世は善政で常に民を考え行動していたのは知っている、無茶振りもするしブラックだったけど、それでも人々を守り導こうとしていた、でも今回は何だ? まるで自分のためのワガママじゃないか!!」


 これが俺の疑問だった。この人は無茶も無謀も無理なことも頼んで来たしブラックな事もやらせたがそれは私利私欲では無く、常に民の平和を願っての事だった。


「ワガママか……確かに今回はいささか強引だ、私欲が有ると言えば有る」


「あんたはさ……そんな人間じゃないだろ!!」


 私利私欲で動機が自分本位な暴君なら俺は全力で止める。しかし目の前の人は違う。いや違ったはずだった。


「私も所詮は人さ……ただ一人の孫を救ってやる事も出来なかった愚かで力も無い情けない男なのだよ快利」


 そんな事は無いと言おうとした時に強烈な違和感が俺を襲った。孫って……第一王子の息子は元気に育っていたし第二王子は未婚だ。当然ながら慧花は未婚で早く結婚しろと言われていた。


「孫とは何を言ってるんですか父上? 兄上の、いや直系に何か不幸が?」


「いや、お前さんが死んだ後もルートリヒ様の第一子は元気だ、今は父が軟禁されたせいで謹慎中だがピンピンしてるはずだ一昨日様子を見た俺が保証する」


 慧花の疑問に答えたのは仮面の男として側近をしていたカーマインの旦那だ。じゃあ孫とは誰だ。


「ま、まさか隠し子!?」


「ですが陛下は愛妻家で生涯に愛す女性はお隠れになられた第一王妃様と今の第二王妃様だけと……」


 それは俺も知っている。だが、もしかしたら若い時の過ちとかで外に出来た子がいたのかもしれない。


「違うさ、私の言う孫とはな快利……お前のことだよ」


「は?」


 やはり王は乱心した可能性が有る。母さんも精神疾患だったことを思い出し本当に激務で乱心したのなら勇者三技で治療すべきかと思った時に王が口を開いた。


「あれは、お前が小学生の頃だったな、儂がカレーを作ってやったら美味しそうに食べてくれてな、その後に将棋を教えてやった、懐かしいな快利」


 時が止まった。俺の中で完全に周囲の時が止まったような不思議な感覚が広がっていた。恐ろしくも無いのに体と心が震えた。




「な、何を……言ってんだよ、俺、そんな話……カーマインの旦那、なあ? 俺、酔ってガキの頃の話をしたんだよな? な?」


「お前の子供の頃の話は俺は聞いてねえぞ、二人で話したんじゃないのか?」


「あの頃から昇一が、あのバカ息子はお前をないがろにし秋奈くんを犠牲にした、いくら夕子ちゃんが大事とはいえ親としては失格だ、だから儂がお前を育てようと決め週に何度もあの家に通った、覚えておらんか?」


 よく覚えてる、それは俺の大事な記憶で実の母さんや親父に見捨てられ姉さん達が家に来るまでの数年間は俺は爺ちゃんとお手伝いさんに育てられた。


「カイ、顔色が……大丈夫?」


「ああ、だ、大丈夫だ……」


 ルリと那結果がふら付いた俺を支えてくれたが脳がパンクしそうだ。イベドが正体を現した時より遥かに衝撃を受けて一人で立てなくなりそうだった。


「心配するな快利、今度こそ爺ちゃんがお前を理不尽から守ってやる、そして二つの世界をお前にプレゼントしよう、私が支配し、それをお前に継がせれば素晴らしい理想郷が完成するのだ!!」


「嘘だ……嘘だ嘘だ!! 優しかった爺ちゃんがそんな事を言うはずがない!!」


 絶対にこんな事を言う人じゃない。俺の事を最後まで案じて心配して唯一あの世界で守ってくれた人がこんな狂ったことを言うはずが無い。


「姉が出来て喜んでいたお前の笑顔は忘れんよ、それなのに裏切られた可哀想な儂の大事な大事な孫、初めて出来たガールフレンドにイジメを受けていると聞いた時は、はらわたが煮えくり返る思いだった……何より風美には貸しが有った!! あの空見澤で誰が助けたかも忘れ恩を仇で返しおって!!」


 腰の剣を抜くと一閃すると周囲の調度品がぐしゃりと潰れてペシャンコになっていた。今のは一度だけ見た事がある王様の重力魔法だ。


「S市動乱を知っている? それにルリの実家の事まで……まさか本当に!?」


「まだ信じられないか? なら改めて名乗ろう私の前世の名は秋山英輔、秋山グループを一代で築き上げ、妻の名は咲恵、一人息子は秋山昇一、そしてその子供がお前だ快利、儂の、私の、大事な孫がお前だ快利……」


 カランと音がして気付けば俺は神刀を落として力が抜けへたり込んでいた。場は完全に沈黙が支配している中で王はもう一度宣言した。


「私はこの世界の五十七年前に転生し記憶を残したまま生まれ変わったお前の祖父だ快利……久しぶりだな爺ちゃんだぞ」


「そ、んな……そんなの有りかよ……」


 絶望を越えた驚愕というものを俺はこの日初めて知った。ラスボスが爺ちゃんだなんてそんなクソゲーありかよ。



――――最終部へ続く

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