第115話「決戦前のフラグ立ては危険への第一歩?」


「なるほど向こうの世界はパーティーの意味はグループ的なカテゴライズの言葉で固定されていたんですか?」


「はい、向こうの世界で最初は『勇者パーティー』って言われてどんな豪勢な宴を開いてくれるのかと思ったら旅の仲間紹介されただけだったんで」


 七海さんの言葉に答えながら俺は勇者になって出発する時にも同じような流れが有ったことを思い出す。向こうの世界では『戦勝記念』や『王家の』などと無駄に日本語っぽい名前なのに何故か俺や旅の仲間を指して『勇者パーティー』だと言われてポカンとしたもんだ。俺にゲーム知識無ければ分からない単語だった。


「ならば今回は二つの意味で使えばいいでは有りませんか、英雄カイリ君とその仲間、黒龍という人類の脅威と対抗するための集いとか、いかがです?」


 そんな話をしていたら買い出し組や部屋の細部の片付け、そしてポロを迎えに行ったメンバーなどが全員帰って来て今の話を再度する。


「でもパーティーって三人とか多くても四人とかじゃないの?」


「それは……だけど俺は五人で旅したんだユリ姉さん」


 その言葉にセリカとモニカも頷いていた。ちなみに勇者パーティーという呼称は最初の魔王討伐の時のみの名称で、それ以外でも俺は別な人間とパーティーは組んでいたことも有る。例えば俺、モニカ、慧花(ケニー)の三人の貴族暗殺パーティーとか他にも色々と有った。


「とにかく特別な集まりの呼称がパーティーって言われてたんだ異世界では」


「なんか日本語と英語がごちゃ混ぜで現代日本みたいだな」


 エリ姉さんがポツリと言った一言は俺も向こうで思ったことで気になって調べようとしたら教会側に禁忌とか言って止められた。ま、何か有ったんだろうな宗教関係ってどこの世界も恐いもんよ。


「私はそういう言語体系で育ったから快利に言われるまで違和感は持たなかったよ」


「慧花さんに同じくですわ」


 慧花とセリカの言葉を聞いて頷くモニカを見て、やはりあの世界の微妙なチグハグ具合に気付いたのは俺くらいだったと思い知らされる。


「概念の逆輸入か……だが、案外と答えは単純かも知れないぞ英雄」


 不意に七海さんの隣の天才が顎に手を当てながらニヤリと笑った。明らかに何かを確信したような発言で旅の仲間の頭脳労働担当だった魔術師を思い出す。


「レポートで読んだが異世界からの客人、慧花くん達は転移や転生といった現象を任意に起こし、こちら側の世界に来た、そうだったな?」


 三人が頷いて俺も思い出していた。セリカとモニカは異世界転移、そして慧花は異世界転生をしてきたんだ。三人ともかなり危ない橋を渡ったし慧花は性別まで変わったが一応は俺以外で任意に世界を渡ったという事になる。


「ならば逆も考えられる、例えばこの世界から向こうの世界に行き概念や言葉を広げた……とかな?」


「ああ、確かに……可能性はゼロじゃない」


 信矢さんも納得しているし親父や義母さんも頷いていた。確かにセリカ達はまだしも慧花は異世界転生をリアルでしているのだから逆もあり得るのではないかという話は可能性としてゼロじゃない。


「そういうのもラノベには有るのよ!! 知識チートよ!!」


「ユリ姉ぇは静かにしててね~」


 ユリ姉さんがここぞとばかりに発言するがエリ姉さんに捕まっていた。義母さんにまで「ユリちゃん静かにね~」と言われてシュンとしていたが実はこれが間違っていなかった。そして、その事が判明するのは少しだけ先だった。




「それで主に俺と狭霧さんの手料理を食べて雑談するのが今回の集まりの趣旨なんですか七海さん?」


「快利、七海会長が開いてくれた席なんだから少しは遠慮を!!」


 親父が控えるように言うが今は一分一秒でも時間が惜しい。那結果やフラッシュとの対策の話も聞いているはずだから俺は思わず強めに詰問していた。


「構いませんよ秋山社長、確かに世界の危機があと十二日と迫っている時に呑気に食事会は出来ませんからね」


「十二日……二週間無いんですか?」


 親父の言葉に俺も内心驚いていた。ただし逆の意味で正直なところ三日無いと俺は思っていた。十日以上もあるとは思っていなかった。


「その辺を詳しく話したいので那結果さん、それと由梨花さんのドラゴン達にもご出席してもらいたいのですが、良いですか?」


「はいはい呼びますよ~、三人とも来て!!」


 すると転移魔術で小型化したドラゴン達もやって来てユリ姉さんの周りに侍ってポーズを決めていた。あれが気に入ったようだなユリ姉さん。


「あらあらユリちゃんすっかり竜使いね~」


「ふふん、でしょ母さん?」


 ドヤ顔してるけど密かにグラスだけは触手で料理の野菜を食べようとしてマリンに叱られていた。そして解説のためにフラッシュだけは大型ディスプレイに乗り移り画面の中に現れた。


「では、私とフラッシュさんで状況説明をします」


 那結果がディスプレイ前に立つとフラッシュもディスプレイ内で何かをしたようで、この場の全員のスマホに何かのファイルが送り付けられる。


『そして今送ったのは今回の一連の戦いにおける事前情報です』


 そこには昨日それぞれが話し合った現在の状況など様々な情報が載せられていてルリの両親なんかは完全に置いてけぼりになっていた。


「改めて聞くと凄い事になって来たな、正直なことを言うと理解が追い付かない」


「工藤先生、仕方ないですよ色んな意味で今回は常識の外ですから」


 信矢さんと工藤先生もスマホを見て難しい顔をしている。二人は昨日も居たのだが俺の母さん、今は千堂グループの病院で入院している方の母さんの事情説明の方がメインで黒龍の件はノータッチだったから仕方ない。


「それで計画は決まってるのか?」


「はい、資料は今見た通りなので次はフラッシュさんの画面をご覧下さい」


 俺の言葉に那結果が答えると画面が切り替わる。どうやら俺が離れた後に仁人さんと二人が話し合った内容みたいで画面からフラッシュの声が聞こえた。


『まず推定される黒龍の能力はスマホに送った通りです。そして十二日という準備期間しか我々には残されていません、鍵はもちろん元勇者にして英雄カイリなのですが他にも必要不可欠な要素が大量にあります』


 そこでディスプレイには俺の能力以外にも、この場に居る七人の少女の顔が映され、そして一人一人の情報が表示される。ここから具体的な作戦会議の始まりだ。




「――――以上が作戦の全容です」


 最後に那結果が言うと集まった一同は一様に口を噤んでいた。今までは漠然と世界の危機だと分かっていたことが那結果とフラッシュによって具体的に説明され実感したようで表情は硬い。


(ま、実際のところ俺も同じ感想だしな)


 俺が黒龍と戦ったのは半年以上前、夏休みの戦いを除けば異世界最後の戦いだが当時は社畜状態で無心で戦っていたから詳しく覚えてないのは仁人さんにも話した通りだ。


「では問題点を整理しよう、ここからは俺も司会進行役に加わる英雄くんもいいか?」


 俺が頷くと「よろしい」と言って仁人さんが那結果と交代して話を続けフラッシュがディスプレイを切り替えた。


「作戦は第一から第三フェーズに別れているのは説明した通り、第一フェーズは準備段階で今日から十一日後の前日までの話だ。そして第二フェーズは作戦当日の行動、最後に第三フェーズは黒龍を倒した後の撤収の動きだ」


 そして前日までの第一フェーズの説明から入った。第一フェーズは主に大人達の出番で七海さんはもちろん仁人さんに親父たち、それにルリのご両親にも動いてもらう事になる。


『ですので関係各所には七海殿が、結界補助やバックアップには仁人殿、そして瑠理香さんやTwilight Diva黄昏色の歌姫のスケジュールに関してのF/Rへの繋ぎを風美さんのご両親にお願いいたします』


「その、いいかな……皆さん」


「何ですか? 風美さん?」


 そこで発言したのはF/Rの常務取締役でルリのお父さんの亮一さんだった。そして彼は重い口をゆっくりと開いて俺達を見て言った。


「世界の危機なのは分かる、だけど、それで家の娘が、あ、いや我が社のタレントまで動員されるのは、やはり……その」


「あなた……」


 エマさんも不安そうな顔をしていて俺を見た後に七海さんを見ていた。だが、そこで割り込んで来たのは仁人さんだった。


「だがF/Rのお二人にも説明したように十二日後のTwilight Diva通称『トワディー』のクリスマスライブの日に奴は出現します、しかも状況としてはライブが始まって数分と予測されてますのでライブ会場の上空で戦うのがベストなのです」


 作戦当日は偶然にもトワディーのクリスマスライブの日でイブ当日だった。普通ならライブは中止にしてルリには俺の後ろで歌ってもらいたいが仁人さんの考えは違った。ライブ会場は都内とは言え周囲には会場以外は一部施設しかない郊外で街中では無かったから都合がいいと考えたのだ。


「つまりライブ会場と周囲数キロだけを英雄くんの結界で守れば周囲を気にしないでも済む……と説明しましたよね?」


「そうだが……もし、彼が負けたら娘は……瑠理香は……」


「黒龍が彼の言う通り本当の化け物なら日本はおしまいです、そして過大評価されているなら彼が倒すでしょう」


「理屈ではそうだが……」


 俺の両親と違ってルリの両親はまだ一般人に近い考えだ。そりゃ芸能界の裏とか危ない橋を渡って来たのだろうが今回はレベルも規模も方向性も全てが違うのだから二人が及び腰なのは当然だろう。


「お父さん、母さん、私……やるから」


「瑠理香、だが……」


「だって、カイなら絶対に私を守ってくれるって信じてるから、ね?」


 ルリが席から立ち上がって俺を見た。その目は強くアイドルの時の目と同じで俺も無言で頷いてルリの両親を見て口を開いた。


「誓って……誰一人として犠牲を出さずにこの作戦を遂行します」


「あなた……ルリが選んだひとなんだから大丈夫、任せましょう」


 そう、俺はルリに選ばれた歌姫の騎士……ん? なんか今ニュアンスが少し違った気がしたのは気のせいだろうかと思ってエマさんを見たら微笑んでいた。そして亮一さんも親父に肩を叩かれ頷いた後に口を開いて言った。


「娘を……よろしく頼むよ快利くん、ううっ……」


「はい……ん? やっぱり何か違う気が……」


 俺がルリの両親と向かい合ってルリやトワディーの作戦参加の許可を貰っている状況の中で俺の後ろでは別な戦いが始まっていた。




「よっし、どさくさに紛れて既成事実で 一歩リード!!」


「やはり狙いはそっちでしたのね瑠理香さん!! 作戦にかこつけて両親に認めさせるとは……卑怯ですわ!!」


 ルリとセリカが何か言い合いを始め出して、さらに横ではモニカが掴みかかって半泣きで叫んでいた。


「卑怯です、昨日はキスまでしてズルいです!!」


「瑠理香、やはり一番の障害は君か!! お姉ちゃんは認めないぞ!!」


 そこにエリ姉さんまで入って来て場が混沌としてくる。俺はたまらずユリ姉さんと慧花の方を見た。


「ほら由梨花、快利が助けを求めているよ?」


「いいのよハーレム野郎は少し痛い目見ればいいの……まあ、助けて欲しければ止めなくも無いけど」


 チラっとこっちを見た後にユリ姉さんの下で人参をポリポリしているグラスと目が合って頷いていた。あれは押せば行けるの合図だ。そして俺は一瞬で答えを導き出して即座に動いた。


「由梨花お姉ちゃん助けて~!!」


 勇者式土下座をしてユリ姉さんに頼む。これは過去にエリ姉さんにもしたが効果は抜群だった。そして姉妹だから当然のように姉の方にも効果は有った。


「仕方ないわね!! ケイ、私の弟の後始末を付けるわよ!!」


「はいはい、お嬢様、快利……あとで私にもご褒美が欲しいかな」


 そして六人でのバトルロワイアルが始まっていた。仲裁してねユリ姉さん、慧花も頼むぞ……ただ騒ぎが余計酷くなった気がしないでもない。


「快利くんも大変だ」


「信矢さん……」


 ルリの両親とうちの両親も乱入して大変なことになってる騒動を尻目に俺がため息を付いていると不意に声をかけて来たのは信矢さん達、春日井夫婦だった。


「でも僕としては誰か一人に決めた方が良いと思うよ」


「それは私も賛成、浮気はダメ絶対、だよ」


「狭霧さんも……そりゃ、俺も決めるべきだとは思うんですけど」


 実は俺もさすがに皆に告白されて既に数ヵ月も経過し放置している現状はダメだとは思っている。それでも思わず二の足を踏んでいた。


「今の居心地のいい空間を壊したくないのかな~?」


「はい……」


 狭霧さんが苦笑しながら答えを言った。バレバレなようだ。そもそもリア充になったことも無ければ異世界転移するまでは陰キャ街道まっしぐらだったから今の皆と仲良く過ごしている時間、この生活は本当に楽しくて壊したくなかった。


「僕は昔、暴走して大事な人を守ろうとして最期は傷付けて周りの人達に迷惑かけて全部ぶち壊したことが有るんだ」


「あっ、奇遇だねシン、それ私も覚えが有るよ~」


 そう言って狭霧さんが信矢さんの腕に抱き着いて顔をスリスリしている。なんというか新婚ってこんな感じなのだろうか。こっちまで照れて来ます。でも二人の言葉に疑問も出て来た。


「え? お二人が……おしどり夫婦にしか見えないのに」


「ま、俗に言う黒歴史ってやつだよ……その中で僕は、さぁーちゃんを選んだ」


「うん……私も、最後はシンを選んだの」


 二人がただのイチャイチャしているバカップルに見えていたから少し驚いた。てっきり信矢さんに守られているだけだと思っていたのに狭霧さんの顔を見ていると二人はキチンと支え合ってるように見えて意外だった。


「でも、これは僕達の選択だ……君が、快利くんが今を壊したくないのなら少しくらいは今の状態を維持しても良いんじゃないかな?」


「そう……ですね俺、この戦いが終わったら皆に俺の気持ちを――――」


 苦笑しながら言う信矢さんに俺は思わず応じていた。そして頭の中で思った事を言葉にしようとした瞬間だった。女性陣が一斉に俺の方にやって来ると全員で俺の口から出そうとした言葉を封じようと動いていた。


「そこまでですマイマスター英雄・快利!! それは非常に危険です口にしてはいけません!!」


「そうよ快利、今すぐ決める必要は無いわ!! みんな今は仲良しよ~!!」


 那結果とユリ姉さんが抱き合って仲良しアピールしてるしエリ姉さんとモニカも握手したりと謎の行動をしていた。


「危なかった……カイがフラグ立てる所だった、私達も少し反省だね」


「そう、ですわね……ここは一時休戦で」


 そしてルリとセリカも睨み合いながら互いに苦笑していた。慧花は後ろでやれやれと肩をすくめていた所でやっと俺は気付いた。今の俺の言葉は……。


「今の俺の死亡フラグか!?」




 そして俺の死亡フラグの話などをしている間に残りのフェーズの話も終わり最終確認へと話し合いは移っていた。


「では最後にトワディーは確実に参加です、快利くんのバックアップに瑠理香さんは必要不可欠ですし何より当日、警備がしやすいですからね秋山社長?」


「そうなんだ亮一、すまんな、その代わり客もライブ会場も俺の会社で全力で守る」


「分かりました……頼みます親衛隊長、そして快利くん!!」


 これでルリの件もトワディーの件も問題無し…で残りのクリスマスイブまでの間に準備が始まる。黒龍への対策は大人達に任せ俺達は直接戦闘まで日常を過ごす事になる。そして作戦は第一フェーズに入った。


「じゃあ当日は俺達八人で英雄パーティーって事かな?」


「それですが快利くん、パーティーの本来の意味は人の集まりや政党などのグループを指す場合も有るんです、つまり今回作戦に参加する全ての人員が英雄パーティーになると私は思っています」


 なるほど七海さんの言葉に妙に納得した向こうでは軍とかは俺のパーティーに含めなかったけど今回は入れるべきなのかもしれない。


「ま、その方が収まりが良さそうですね、七海さんにお任せします関係者が全員、英雄パーティーってことで」


「はい、なので当グループも法人として参加しますね」


「ええ、誰でも来いって感じですよ!! 皆で勝ちましょう!!」


 しかし、この時の俺はあまりにも迂闊過ぎた千堂グループと一緒に組んで戦い、成果を残すことの意味を欠片も理解してなかった。

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