第83話「文化祭前の匂わせとざまぁと血の罠と」


 信じていたら次の日からも色々有りました。残り九日しか無いのにイベント盛りだくさんで三年に恥かかせてやろうぜ作戦を俺が発令してからクラスの連中が妙にやる気を出してしまった。


「真心をもって徹底的にもてなします!!」


「「「「真心をもって徹底的にもてなします!!」」」」


「主人の敵は全て敵!!」


「「「「主人の敵は全て敵!!」」」」


 こんな感じで今日も教室ではモニカとメイド隊が明後日の方向に暴走しているけど俺は止めなかった。モニカが楽しそうだし目が合うとウキウキしていて、止められる雰囲気じゃなかった。


「凄い光景だな、これ」


「お前の妹の仕業だろ」


「女は群れると強いからな……」


 これは異世界でもこちらでも変わらない事実だ。一番強く感じたのは勇者として認められた後の夜会だった。派閥の令嬢達のサポートを受けた伯爵位以上の令嬢の攻勢だ。あのコンビネーションには辟易した。


「あれ~? カイ、それって女性差別じゃな~い?」


「差別じゃない経験則さ。それよりどうしたルリ? メイド服じゃないけど」


 ルリは俺の答えを聞かずに教室の隅に引っ張ると今日は急遽仕事が入ったから連れて行って欲しいと言われ、スマホを確認するとエマさんから通知に今さら気付いた。





「じゃあカイ、行ってくるね!!」


「ああ頑張って来いよルリ!!」


「えっ? あっ、うんっ!!」


 事務所の例の部屋までルリを送ると入れ違いにエマさんが入って来た。何か紙袋を持っていてそれを渡された。


「瑠理香があなたに持って行って欲しいって、これを」


「これは……メイド服?」


 紙袋の中身はパッケージングされたメイド服が十着近く入っていて、それには見覚えがあった。


「ええ、あなたの作ったメイド服のデザインを真似たオーダーメイドよ。あの子のお小遣いでクラスの女子全員分を作ったの」


「でも俺が何着か作ったのを渡したはずなんですが……」


「サイズが合わなかったそうよ。うちの娘と貴方の妹二人分のは完璧だったらしいけどね」


「ルリのは公式で確認済みです!! それに魔法で完璧に調整をしました。あとは対魔法を始め完璧に守れるように――――「わ、分かったわ……色んな意味で順調そうで親としては安心したわ……」


 どうしてだろうかエマさんに若干引かれている気がしたのだが……。


「あと時間が取れたら文化祭、私達も見に行くから頑張ってね」


「お忙しいのに大丈夫なんすか? それと今日の帰りはどうしますか」


「今日は事務所まで車で送迎の後に私も一緒に帰るから大丈夫よ」


 それを聞くと俺は転移してメイド服を渡すと試着するからと女子たちに追い出されてしまった。そして調理実習室に行こうとした時に廊下で声をかけられていた。


「工藤先生どうしたんすか? 俺これからタコ焼きを極めなきゃいけないんですが」


「ああ、済まない。ただ少し気になる事が有ってね。風美さんを送って来たのに帰りが早かった。彼女の家はそこまで近くなかった筈だが」


 何か目を付けられたのか俺。やっぱルリとの関係を疑われたのだろうか……そりゃ元被害者、加害者の関係には見えないから不審がられるのも当然か。


「ああ、校門前で彼女のお母さん来てたんすよ。そこでメイド服も渡されました」


「そうか、なるほど……今度は私も挨拶しないとな。君達が親密なのは聞いたが担任として今回の件はお礼を言わないとな」


 義務感ではない。この人は確実に俺を疑っている。実は俺がルリをイジメているとでも勘違いしているのだろうか。だが金田の説明で納得していたし一体何が目的なんだこの人。


「ああ、大丈夫です。個人的に向こうの両親とも仲良いので問題有りません」


「それは両家が同意していると言う事なのか」(また、このパターンなのか?)


「さあ、ご想像にお任せしま~す」


「素直に口は割ってくれないみたいだな」


 なんか俺、尋問されてるみたいだな。向こうの尋問官を思い出す。日本なら取り調べ……警察かな。


「いえいえ照れてるだけです。それにしても工藤先生こそまるで刑事みたいっすね」


「おっと済まない。詰問口調になっていたか……いけないな、昔の癖が……いや、何でもない。とにかく不純異性交遊じゃないなら文句は無いが、程々にな?」


 癖って何だろうか工藤先生、最初はただの熱血漢拗らせた普通のいい先生だと思ったのだが謎な人だな。まさか残りの動きの無いブラッドドラゴンの眷属か?


「では、俺はこれでタコ焼きが待ってますんで!!」


「ああ、じゃあな秋山」(聞いていた以上に厄介だ。会長代理に再度報告だ……秋山翁には恩が有るが……彼は何かが違う)


 この時の俺達は良い感じで、すれ違いコントをしていて事実を知るのはかなり後になるけどそれは未来の話。そして俺は調理実習室で焼きそばを焼いていた連中に混じってタコ焼きとお好み焼きの練習を始めた。


「どんどん焼き? なんだそれ秋山?」


「ああ、お好み焼きを割り箸に巻き付ける感じの物でな、祖父に昔教えてもらった山形の郷土料理みたいなもんだ。それも簡単だから作ってみたいんだ」


「ああ、つまり『広島風お好み焼き』みたいな亜種だな」


「おい川崎っ!! それを客の前で絶対に言うなよ……もし広島出身者でも居たら血を見るぞ。奴らは山形県民ほど大らかでは無いし、埼玉県民ほどディスっても怒らない人種ではない!!」


 俺の気迫でクレープ担当の川崎はコクコクと頷いていた。県民性は敵に回したら怖いもので俺も異世界時代では地方との民度の差に驚いたもんだ。怒るポイントが違うから当時は大変だった。


「秋山君、僕のお父さん広島出身だけどそんなこと無っ――――」


「田所……それはお前の親父さんが優しいからだ!! 本場の人間はキレ散らかすと書いてあった!! ネットにな!!」


 俺がそう言ってスマホを見せると、その場の全員が釘付けになった。


「「「な、なんだって~!?」」」


「ネットに載ってたなら本当だな……」


「マジだ、検索したら載ってるじゃねえか、危険だな広島風お好み焼き話題」


 バカなネット依存者共め。異世界では偽情報を掴まされた時は死に直結するんだからこんな誤情報に踊らされるとは……愚かな連中だ。


「おいおい快利、お前さぁ……」


「実際危ないのは一定数居るらしいし、嘘は言ってない」


 金田に言われたから俺は仕方なく一部誇張があったと言うが何人かは完全に信じていたようで苦情を言われた。


「分かったよ広島県民にそこまで過激派は居ない。ただカープファンが多く洗脳されているだけだ!!」


「いい加減にしろっ!!」


 そんなバカ話をして金田に怒られながら教室に戻るとモニカとセリカ、それにメイド隊に盛大に驚かれた。それよりも俺たち男性陣の目を引いたのは女子のメイド隊のメイド服姿だ。


「ふむ、問題無さそうだ、さすが俺のデザインだ」


「お前のデザインなのかよ……良い趣味してるな快利」


「だろ? 最近のトレンドを取り入れながらも俺の趣味を全面的に取り入れた完璧なメイド服なんだ」


 このブルーのパステルカラーのメイド服は前に作ったユリ姉さんのメイド服のマイナーチェンジ型だ。あえてコスプレっぽい作りにする事で集客力アップを狙った。ガチのメイド服はモニカだけなのだ。


「そう言えば瑠理香とわたくしのメイド服はピンクですわね」


「ああ、二人のは俺お手製だからな。モニカは自分で色々と機能を付与してるし」


 なおミニスカやらガーターベルトは俺の趣味で女子に色々と言われたが俺は直さなかった。そしてなぜか男子は全員が同意してくれた。意外とこいつら良い奴らなのかも知れない。





「また貧血で倒れた?」


 それから三日後、バレないように動く俺やクラス連中は妙に息が合って来てクラス内での軋轢は徐々に減っていた。どこかで俺もクラスの人間を許しそうになっていた時にルリから聞いた話に俺は驚いていた。


「うん。なんか部活棟の方らしいんだけど三人も倒れたらしいよ。ね?」


 ルリが促すとメイド隊の女子が詳細を話してくれた。何でも文化部の部室が集まっている区画らしく軽音楽部の人間が倒れたそうだ。


「私も一応は軽音部だから昨日聞かされたんだよね……」


「ふ~ん、そう言えばそっちの手伝いには行かなくていいのか」


 俺が言った瞬間ピシッと空気が固まったような気がした。いや固まってるようだ。これはどう言うことだ。俺が『ま~た何か言っちゃいましたぁ~?』とか言うとセリカとモニカに睨みつけられた。


「ええ、快利が言ってしまいましたわ。そう言う気持ち悪い言動は控えて下さる」


「そうです快利兄さん。そういう発言は最近な〇う作家ですらしないんですよ」


 二人がマジトーンなので俺も姿勢を正して聞くとルリが曖昧な笑みを浮かべて答えてくれた。


「それは……私がカイをイジメてたのが学校中に広まってクラス全体が悪い事になってからクラスの皆、部活とかで嫌がらせとか受けて皆行けなくなったんだ」


 なんだと……だがそう言われてみればエリ姉さんが糾弾してからそんな事態になっていたな。ポイズンドラゴンの件ですっかり忘れてた。


「いや、風美さんいいよ、自業自得だし。今さらだけど秋山くん……ごめんなさい。ハブられるのこんなにキツいなんて思わなかった」


「あ、ああ……」


「便乗しちゃうけど私もごめん。ほんと自分だけ良ければいいって思ってたからさ、やられるのは嫌なの分かってたけどリアルだとキツ過ぎ……」


「いや、そうか……」


 それだけ言うと二人は行ってしまいモニカ達もメイド修行に戻ると言って教室の隅に行ってしまった。その後も部活の事を聞くと男子の方は帰宅部も三人居たが基本的には部活で同じような扱いだそうだ。


「ま、俺らは三年の先輩だけにハブられてる感じで去年同じクラスの奴とかは、こっそりスマホで連絡くれたんだけどな」


「スマホで……連絡?」


「どうしたんだ快利?」


「いや、俺って姉さん達とルリ以外スマホで連絡取った事が無いんだ……」


 基本的にモニカやセリカ、慧花とは勇者コールだし親父や母さんには連絡を取るよりも転移して直接聞きに行く事が多く、すっかり忘れていたが異世界あるあるだ。


「快利……お、お前、そこまで……」


「秋山くん、僕も中学の頃は友達三人しか居なかったから、大丈夫だよ!!」


 何が大丈夫なんだ安達よ。それに金田が俺を見る目が残念な人間を見ている感じで他の男子にもなぜか生温かい目で見られた。


「快利、今さらだけどアプリのID交換しないか」


「あ、俺も俺も!!」


「あ、ああ……ところでIDってどうやって交換すればいいんだ」


 俺のスマホは基本的に家族しか登録されていない。中学の頃からエリ姉さんに管理されてルリと交換したのも高校に上がってからだ。その時はルリに奪われて無理やり登録された。仕事用の方もRUKAに登録されたし今思えばあの手際の良さはルリだったんだ。


「お、俺達に任せとけ、教えてやる!!」


「あ、ああ。ありがと……」


 その後にアプリの正しい使い方も色々と教えてもらった俺は若干押され気味になっていた。そして気付けばクラス全員とIDを交換させられていた。しかもグループにまで入れられた。





 そんな事が有ってグループから頻繁に連絡が入るようになって更に四日後、この日が文化祭実行委員の集まりの最後だったが面倒な事になっていた。


「だから何で俺らのクラスだけケーキとジュースしか出せないんだ」


「それは保健所から許可が下りたのがそれだけだからです」


 黒幕会長と問題を起こした三年のクラスの実行委員が揉めているのだ。すし屋をやろうとした例のクラスだ。


「何で俺らだけ!!」


「他のクラスは期日に出して許可が通りましたが、あなた達は提出期限後で最低限の確認だけな上に申請物が生物が多かったので許可が下りませんでした」


 何を頼んだのかと聞けばメイド喫茶なのにオムライス、カレー、ラーメンなど喫茶店なのか海の家なのか分からないメニューで当然却下され、サイドメニューとして用意されていたケーキや紅茶とジュースだけが通ったらしい。


「ねえカイ、これっていつまで続くの?」


「さあ、通知来てる。たこ焼き上手くなったな遠藤の奴」


「あっ、本当だ。女子の方も全員が心得の四十八まで無事マスターしたって」


 俺が写真付きの内容を確認しているとルリもスマホを見せて来て謎のポーズを取っているメイド隊が写っていた。メイドの心得っていくつまで有るんだモニカ。そしてその言い方だとルリは既にマスターしてるような口ぶりなんだが。


「このままじゃ三年で俺達のクラスだけがっ!!」


「規則は規則ですよ。そもそも――――」


 そんな事を話していると実行委員の担当の教員の一人が手を挙げると注目されていた。顔色が悪い感じの白衣を着ている一目見て理系の教師だろうと見て分かる。


「なんですか白井先生」


「ああ、面倒だからどこかのクラスと許可申請を交換してもらえば良いんじゃないか二年とか模擬店有るだろ」


 その場がシーンとなった流石にそれは無いだろうと皆が白井教諭を見たが本人は方法論の一つだと言って不健康そうな顔のまま座った。


「そうだよ、秋山!! 今度も助けてくれよ!!」


「え? いや先輩、さすがに無理が……」


 ルリが言うが無視して三年の先輩は俺の方に近寄って叫んでいた。雑魚だからいいけど今はガイドが制御してないから聖なる防壁何でもガードで俺が敵と判断したら分子分解されるから気を付けろよ。


「先輩の頼みだ。それにあんなクラスなら失敗した方が君にも得じゃないか?」


「……カイ?」


「そう、ですね……あんなクラス、確かに……」


 ルリが俺の横でウルウルした目で見て来るが、今さらもう遅い。確かに救う価値も無い連中で今回の文化祭なんて失敗すれば良い。


「だろう? さすがだよ秋山、今こそクラスに『ざまぁ』すべきだ!!」


「良いんじゃないですか。うちの申請有りますよね会長、それに副会長も?」


 俺が言うと黒幕、百合賀の両名が不安そうな顔をしているが、特別席に座っているエリ姉さんはニヤッと笑っていた。毎回、なぜか自分用の席を用意して会議に参加しているんだこの人。


「あ、ああ……でも良いのか?」


「秋山くん、クラスは説得出来るの?」


「ええ、大丈夫ですよ。必ず聞いてくれますから……その代わり先輩にお願いがあります!!」


「な、なんだよ秋山……」


 わざと俺は勇者のオーラを一部だけ出す。実はガイドに調べてもらったら異世界では効果の無いオーラだが、こっちの世界では精神操作に近い効果が有ると言われた。分かりやすく言うと俺のカリスマ性を上げるらしい。


「最っ高の文化祭にして最高の思い出にして下さい。一生忘れられないくらいの最高の思い出に俺や俺のクラスを踏み台にして下さい!!」


 今の俺は舞台俳優並みに周りには見えるそうだ。ただし無防備な連中のみ限定だ。具体的な効果は俺の言動に何の疑いも無く流される。ちなみにエリ姉さんやルリには事前に俺が結界を張っているから問題無い。


「秋山ぁ……お前、いい奴だな!! ああ、誓うさ最高の文化祭にするよ!! お前達の応援は忘れない!!」


 そして最後の実行委員会は解散した。次は日程が終わり後夜祭の後と言われた。残ったのは俺とルリ以外は生徒会とエリ姉さんだけだった。


「カイ……いくらなんでも酷いよ……それにクラスの皆だって最近は……」


「あんな程度で俺が絆されるとでも?」


 俺が言うとルリはあからさまに悲しそうな顔をしていた。少しだけゾクゾクしたのは俺もエスッ気が覚醒したのかも知れない。


「快利そろそろネタバラシしたらどうだ? 瑠理香をイジメて楽しいのか」


「そんな事は無い。了解、黒幕会長。うちのクラスの届け出を出して下さい。それと秋山総合商事として出した方も出して下さい」


 トリックと呼べる事ですらない。こっちはクラスとして出した方と法人として参加する方の両方の許可を貰っているからクラスの方の許可証を渡しただけだ。そして生徒会の二人は先ほどの俺の茶番に付き合ってくれただけだ。


「それって、つまり……」


「渡したのはクラスの方だ。本命は無事だし明後日の本番から三日間は何の問題も無く出来るよ」


「瑠理香、つまり私の快利は優しくて自慢の弟だと言う事だ。お姉ちゃんは嬉しいぞ!!」


 エリ姉さんに抱き締められ頭も撫でられた。やめて良い匂いと柔らかい感触が勇者の思考能力を低下させちゃう。今カッコ付けてる最中だから止めて姉さん。


「ふぅ、力を使うかどうかの判断は俺がするし俺が決める。もうルリや姉さん達の時みたいに耐えるだけでも勇者の時みたいに流されるだけでも無い。それだけだ」


「カイ……本当にありがとう」


 結局、俺は絆されたんだ恥ずかしい。罪を懺悔する人間なんて間近で見せられたら嫌でも心は動く。本当はもっと言いたい事もあったのに最近のクラスの奴らとのグループでの会話も楽しかったんだよ。


「何より。あの三年をぎゃふんと言わせて逆にざまぁしてやろうと思ってな。クラスの奴らよりよっぽど腹立つから、それだけだ!!」


 だから楽しんでもらおう先輩、明後日からの文化祭を最高の思い出にしてやる。この世界で『ざまぁ』して良いのは元勇者だけなんだよ。ユリ姉さんが聞いたら怒りそうだけど今回は徹底的にやらせてもらう。


「だって、俺は元勇者なんだからな」


 そう言って俺はルリとエリ姉さんを連れてクラスに戻った。少し変な気配も感じてはいたが今は文化祭だから無視する事にした。これが慢心だったと気付かされるのは文化祭最終日だった。

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