第73話「さらば毒親、三度目の正直は永遠の消滅への片道切符」


 そうは言ってもルリの支援無しには俺は全力を出せない。いや、出す方法は有るけど英雄化はリスクが高い。あと一手が欲しい、慧花に時空魔術で奇襲を頼む事も脳裏を掠めたが万が一、失敗したら慧花は間違いなく死ぬ。


「ジネエエエエエエエエ、ガァギィヤァマァアアアアア」


「しつこいな……本当に」


 神刀でブレスを別物に変換して奴に叩きつけるがコバルトのシールドで防がれた。コバルトのシールドもソードも毎回吹き飛ぶが再生が早い。いつもなら聖なる一撃で即消滅させるのだが今は難しい。


「情けないな勇者よ!! 滅せよ同胞を喰らいし化け物よ!!」


 何も無い空間からいきなり出現したのはフラッシュドラゴンだった。不可視の状態で今まで隙を伺っていたのだろう。スパークを伴う強力なブレスがコバルトの巨人に叩きつけられる。


「ガアアアアアアア、ギザバモジャマスガアアアアア」


 背後からの不意打ちで巨人の体が爆ぜ体の真ん中に風穴が空いた。そしてその中にタコ人間と三体の犬のようなモンスターがいた。即座に再生しようとする奴に俺は聖剣から聖なる一撃を放ち犬のようなモンスターを二体消滅させた。


「さすがだな勇者、不意打ちは得意か」


「ギュアアアアアア、ガギヤバァアアアア、イヅモジャバスルダアア!!」


 体をすぐに再生させたようだがコアのモンスター二体の喪失は割と効いているようで巨人の動きが鈍っている。


『勇者カイリ、敵の動きが大幅に鈍っています。しかし逆に再生速度が数倍に上がりました。それとコアのモンスターはやはり加藤喜好で間違いありません』


(作戦プランは? 英雄化を使う以外で何か無いか)


 即座に試算した作戦は二つ。一つは自爆覚悟で聖剣と神刀を同時に使用し巨人を切り裂き内部から破壊する方法。もう一つはユリ姉さんとのカップリングスキルの『偉大なる竜の乙女Great Drachen Mädchen』を使うという案だった。


(フラッシュ、頼みがある)


(なんだ勇者よ)


 俺は勇者コールでフラッシュと脳内でお互いに言葉を交わす。やはりドラゴンクラスの賢さにもなると念話も出来るようだ。


(ユリ姉さんの眷属になってくれないか)


(この期に私たち全員を支配下に置くのが狙いか)


 だがその後に俺が勇者コールで伝えた内容にフラッシュは一瞬だけ考えると了承したと言って頷いた。


「分かった!! しばし待て……」


 それだけ言うと再び不可視になって後ろの結界へ向かうのが分かった。だから俺は時間を稼ぐ必要がある。聖なる一撃を二回放ち巨人をけん制し俺はガイドに問いかける。先ほどの案は可能なのかと。


『はい。全ては由梨花さんの『偉大なる竜の乙女Great Drachen Mädchen』の2ndスキルにかかっています』


(分かった。じゃあ頼むぞガイド)


『勇者カイリ、この戦いが終わったらご相談したいことが……』


(ああ、了解だ)


 俺は聖なる一撃や神刀で地形を変えたりして時間稼ぎをする。ルリの歌のお陰でスキルも何回でも使えるが一向に埒が明かない。そんな状況だ。





「つまりフラッシュと契約すれば私のスキル『偉大なる竜の乙女Great Drachen Mädchen』が使えるようになるのね」


「ああ……勇者の話では別のスキルが発動出来るそうだ」


 結界内で待機していた私たちの所に戻って来たフラッシュはすぐに私と契約を結ぶと言い出した。


「フラッシュ、大丈夫よ快利が物騒なこと言い出したら私が説得するから」


「それは心配していない、あれは私達と同類でグラスが心を読み取ったのなら間違いないからな」


「あの、由梨花さん……カイってドラゴンと似てるんですか?」


 それを言われると私は弱い、たぶん話したら目の前の瑠理香もダメージが入る話だ。私とこの子は快利の心の傷という意味では同じくらいの戦犯だ。


「それだけ強いってことよ。それより歌ってなくていいの?」


「はい、一定時間歌ったら私のスキルは発動状態になるんで、威力を増やしたい時とか別の2ndや3rdスキルを使う時だけ別な曲を歌えばいいんですよ」


 そんな仕組みになっていたのかアイドルと噛み合ったスキルだ。本当に勇者に最適化されていて、まるでRPGの世界みたいだと感心する。


「なるほど、つまり由梨花にも有るはずの2ndと3rdスキルを解放するのか」


「でしょうね。でもフラッシュが居なくてもG・D・Mは発動出来るのよね?」


 慧花の言う通り瑠理香や絵梨花にあって私に無いわけがない。だけど私の言い分はあっさりと目の前のドラゴンに否定された。


「いいや無理だ。主のスキル発動条件は二つ、勇者と共にあること、これは戦場にいればいいが、もう一つは眷属のドラゴンを三体以上率いるというものらしい」


「なんで私だけ二つも条件があるのよ。瑠理香は歌って、絵梨花に至っては傍に居るだけでいいんでしょう。なんでよ~」


 理由がさっぱり分からない上に私だけ条件が厳し過ぎる。もしかしたら快利の勇者のスキルはこの辺りを調べたら何か分かるかもしれない。


「いいじゃないか由梨花。とにかくフラッシュと契約すれば君のスキルが完全に解放されるのだから早く済ませた方がいい、快利も面倒そうにしている」


 見ると快利にしては珍しく苦戦しているように見えた。そもそも快利の戦闘らしい戦闘は一度しか見た事がない。瑠理香を助ける時の魔王との戦いくらいだ。

 本人もたまに言っているが、そもそもチート過ぎて剣を一振りすれば大概の敵は消滅し、さらに魔法は独自に演算までしてくれるらしい。攻防において隙が無く見方によっては完璧超人だ。


「そんなピンチの弟を助けるのもお姉ちゃんの役目ね、フラッシュいいのね?」


「構わん。今日より世話になる主よ」


「ええ、では竜を統べる乙女が命じる。三竜とも私の下に集いなさい!!」


 決まった。なんて思った瞬間、私の体が緑色の光に包まれた。グラスを眷属にした時と同じようだが今回はいつもより多く光っている気がする。そして同時に遠くの快利も光り出していた。




『勇者カイリ、『偉大なる竜の乙女Great Drachen Mädchen』発動と同時に新スキルが発現しました『竜騎士』シンプルですね』


(効果は何だよ)


 俺が心でガイドに問いかけた瞬間、俺の体から青以外の緑の光が溢れる。そして俺の中で何かに繋がったような不思議な感覚が伝わった。


「ジネエエエエエエ、ガギヤバァアアアア!!」


「しつこいんだよ!!」


 聖剣で奴を弾き飛ばし上空を見上げた。フラッシュドラゴンが戻って来て巨人にブレスを叩きつけると俺の近くに舞い降りる。驚いたのは、その背には小型化した二体の竜とユリ姉さんがいた。


「なんで最前線に来たんだユリ姉さん」


『いえ、正解です。2ndスキルのためには由梨花さんが必須です』


 ユリ姉さん達を降ろしているとコバルトの巨人は動きが止まっていた。まさかユリ姉さんを見ているのか?


「快利、行くわよ!! 三竜と契約した瞬間に何となく分かったの手を繋いで」


 頷いてユリ姉さんと手を繋いだ瞬間、俺の中の魔力がゴソッと吸い取られた。しかしルリの歌ですぐに回復、それを三回繰り返した。俺じゃなければ普通に干からびていたはずだ。


「ぐっ、なんだこれっ……凄い勢いで魔力がっ、ぐっ……」


「さあ、あんた達、その化け物をやっちゃいなさいっ!! さっきから見て来てキモいのよっ!!」


 ユリ姉さんの宣言が聞こえた瞬間、巨大な三体のドラゴンが俺達を守るように降り立った。


「さて、マスターからの指示が入りました。やりますよフラッシュ、グラス」

マリンドラゴン――――海を統べるために作り出された最も巨大なドラゴン。


「分かりました姉さん、まずは私から」

フラッシュドラゴン――――魔力の流れを操るために作られた中型ドラゴン。


「やっちゃいますよ~、ご主人様、報酬はモロヘイヤとかいうのでお願いします」

グラスドラゴン――――不毛の大地に緑を蘇らせることも可能な中型ドラゴン。


 マリンドラゴンを中心にフラッシュとグラスが展開すると三体とも同じ大きさになっていた。コバルトの巨人も大きかったが三体は優にその十倍は越えていた。マリンドラゴンは全盛期に及ばないがそれでも巨大で軽く100mは越えていた。


「バゲモノベエエエエエエエエエ」


「化け物はどっちだよ……それにしても俺の新スキルってただのエネルギータンクだったのかよ……」


 新スキル『竜騎士』の正体は『偉大なる竜の乙女』とセットでドラゴンを御するものだった。ドラゴンに指示を出せるのはユリ姉さんだけ、そして竜騎士の効果は乙女の竜への供物となると記されていた。


「普通さ、乙女が竜の供物になるんじゃないの、こういう場合ってさ。勇者が供物になるとか聞いてないんだけど」


「でも昔は女装して酒飲ませて竜退治してるんだし、時代は男でもレッツ生贄よ」


 嫌な時代が来たなと思いつつ八割は持ってかれた魔力が今度は急激に回復していくのを感じた。ルリの歌が五臓六腑に染み渡る。


「やっぱルリ、いやRUKAさんの歌は最高だ……」


「あのさ、快利はもう二人を一緒に見てんじゃないの?」


 本当に俺に対して鋭いとこ有るんだよなユリ姉さん。あの告白の後から少しずつルリとアイドルのRUKAのイメージが一つに重なって来ているのは事実だ。


「いや、それは……後で答える、今は奴にトドメを刺す」


「ハッキリしないとダメよ……ま、いいけどね。それと私と手を放すと魔力が供給出来なくなるから、まだダメ」


 そういう仕様だったのか……厄介だな竜騎士のスキルも。だが俺が手を下すまでもなく三竜が追い詰めていた。


「ギザマラアアアアアアアアアア!! オデノジャバズルダアアアアア!!」


 コバルトの弾丸とブレスを両腕から放つがそれが届く事は無かった。マリンドラゴンの水の障壁に全て防がれた。俺の魔力が乗ってる分だけあって障壁の硬さは俺の上位結界と同等かそれ以上だ。


「邪魔なのはあなたです。残念ですが同じドラゴンの私の防御の前にそのブレスは通用しません。グラスやりなさい」


「はいは~い姉さん。じゃあ無限の自然の恵みに貫かれ切り裂かれちゃえ!!」


 グラスが地面をノシノシと走りながら辺りを緑一面にしていく、その植物たちは意思を持ったかのように次々と伸び出し巨人を拘束し始めた。そしてトドメと言わんばかりに尻尾の赤い花から鱗粉をバラ撒いた。


『これは……勇者、退避して下さい。この鱗粉はコバルトドラゴンのブレス以上の毒素を含んでいます』


「マジかよ。お前、毒も使えるのかよ。とにかくユリ姉さん掴まって」


 俺はユリ姉さんを抱えて距離を取る。あのグラスにこんな奥の手が有ったなんて怖過ぎだろ。


「快利、グラスの攻撃ってまだまだあるみたいよ?」


「何で分かるんだよ俺ですら知らないのに」


「なんかアレよゲームで言うステータス画面みたいなのが見れるのよ私と三竜たちのだけ」


 ガイドに聞くと本当らしい。フラッシュと契約した瞬間にステータスが開けたらしい。そしてそれは三竜たちも同様だったらしく色々と教えてくれたそうだ。


『おそらく勇者カイリと同等の物が……ミレレ、見れるものかと……』


(おいおい大丈夫なのか、またバグったのか?)


 問題無いと言うとさらに距離を開けるように言われる。フラッシュドラゴンの強力な電磁フィールドとブレスで魔力が乱れると言うのだ。


「行くぞ、トドメは私だ。バラバラにしてやろう!!」


 ガイドの予測は正しく俺の魔力を受けたフラッシュがブレスを放つために放電し始めていた。その影響で辺り一帯の磁場がメチャクチャになっている。見るとマリンやグラスも既に退避していた。


「ビャメロオオオオオ、バナゼエエエエ!!」


 グラスの植物に完全に縛り付けられ身動きの取れない所にフラッシュのブレスが直撃し、バラバラに砕け散るコバルトの中から犬型のモンスターとタコ人間状態の加藤が露出する。


「再生はさせません」


 今度はマリンが防御に使っていた水をブレスに回し奴の体を構成するコバルトを洗い流した。一部で浄化作用も有るらしく犬型モンスターも浄化されて消滅していた。残りはタコ型人間のみだ。


「うっわ、きっしょい。グラスやっちゃって!!」


「ま、待て俺は――――「は~い、マスター。じゃあコバルトを悪用したから完全消滅させます。私のブレスは七竜の中で最弱だけど今はそこそこ強い!!」


 そして口を開けると白い光が溢れ、同時に尻尾の花からも同じ光が出て二連射する気のようだ。危険を感じ咄嗟に全てを拒絶する聖域引きこもりの味方を俺とユリ姉さん、さらに後ろにいる慧花とルリにかける。


「発射~♪ 忌まわしきコバルトとの記憶、実験中に無理やり肉を食べさせられた恨み晴らさでおくべきか~!!」


「ま、待ってくれ俺は、たっ、助けてくれ、俺はっ、お前の――――」


 何か言う前にグラスのブレスで完全消滅していく加藤。ちなみに結界のお陰か声は俺と三竜たち以外には聞こえていない。今度こそ我が家の永遠の天敵だった男は人知れず完全消滅した。


「う~ん、私の植物の養分にもなりませんね……それにしても犬型と人型? 変なモンスターがいたものです」


「何か呆気なかったわね。でも、よくやったわ三人とも!! 快利でも苦戦した相手を倒しちゃうなんて今度から主役は私達ね!!」


 すっかり調子に乗ってるユリ姉さんを無視して手を放すとフラッシュの放電は止まり、マリンの大きさは元に、グラスも小型犬より少し大きいサイズにまで戻った。どうやら俺からの魔力供給が無くなると元に戻るようだ。俺は結界を解き皆と合流する。


「マスター、僭越ながらそれは少し違うかと」


「なんでよ~私たちが今回のMVPじゃない」


「そうですよマリン姉さん今回は我らの完全勝利ですよ~」


 グラスもユリ姉さんに抱っこされて同意しているがマリンはあくまで態度を変えずフラッシュも同意していた。


「元勇者、あなたはなぜ私やグラスを倒した時に使ったを使わなかったのですか?」


 そうだった。俺は向こうの世界でドラゴンを倒すのに英雄化を行っていた。あの時は制御が今以上に利かなかったから回復するのも大変だった。


「それは私も気になっていたよカイリ、君の最大の切札にして新生魔王を倒した究極のスキル英雄化を使用せず戦っていたね」


 合流した慧花も不思議そうにしていたが反対にルリやユリ姉さんはそれほど重要なスキルとは思って無かったようだ。あれの真価を理解してないし見せた事が無いから当然と言えば当然だ。


「いや……その、英雄化にはリスクが……」


 実は英雄化には凄いリスクがある。これは俺だけの秘密で、正確にはガイドも知っているから二人だけの秘密だ。こちらの世界でもモニカとセリカを助ける時に一度だけ使っているのだが、その時も実は使用した反動が大変だった。


「あの状態で私を消滅寸前まで追い詰め、グラスも同様に、さらにはブラッドやコバルトなどの攻撃的な固体も滅ぼしましたし、人間にとっては天敵のポイズンも体が一度は完全に消滅したほどです」


「待て、じゃあ何でポイズンが生きてんだ?」


「ブラッドの能力で復活したのです……それは後ほど説明いたします。それと元勇者、さすがにこの世界はダメです。一度戻るべきかと」


 マリンの言う通り、ついに最後に残っていたこの惑星自体も崩壊し始めていて、星の核も爆発寸前だ。枯れ果てたこの星でもそのくらいは起きるだろうから俺は全員で転移魔術で家まで戻る事になった。




 家に戻ってエリ姉さん達に事情を説明した俺たちは今度は全員でもう一つの異世界へ向かうことになった。そこで俺達はそこでマリンとグラスの二竜を置いて帰る事になった。理由としては単純で適していたからだ。


「異世界の草が私を待っている~」


「私もこの世界の水なら大丈夫です。この世界で失った魔力も回復できます」


 このように二竜にとっては良い環境だった。しかしここで待ったをかけた竜がいた。そう、フラッシュだ。


「私は主を守るために残ろうと思う」


「フラッシュ!! 信じてたわよ私は~」


 フラッシュの足元に抱き着くユリ姉さんだけど悲しいお知らせだ。恐らく、いや確実に理由は別だ。その後、明日の朝にもう一度迎えに来ると行って俺たちは家に戻った。ちなみにフラッシュは小型化して今はユリ姉さんの腕の中にいる。


「ちょっと静電気が有るけど他は大丈夫ね、よしよし今日から一緒に寝るわよ~」


 グラスは抱っこして寝ていたからフラッシュも抱っこして夜は寝たいようだ。


「主よ、それは困る。私が残ったのは魔力や体内の電力の供給のためだ夜は人間に気付かれないように供給ポイントを探す予定だ」


 やはりそうか、どう考えてもあの緑溢れるアマゾンのような世界で電気は皆無だ。その点こちらの世界には溢れているからな。


「そんな~、一緒に寝ようよフラッシュ~」

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