第40話「えっ!?義理の姉でも責任取らなきゃいけないってマジですか!?」



 俺の発言で固まった室内でエリ姉さんの荒い息遣いだけが聞こえている。よく見ると軽く肩で息をしていて姉さんの着ているシャツに押し込められている胸も上下している。だけど俺は珍しくそっちよりもシャツ一枚の状態で俯いているせいで少しだけ見えた背中の方が気になった。姉さんが俺に見せたくないと言っていたその傷跡が少し見えていたからだ。


(あれか……向こう世界で見たのよりはマシ……なんて言ったらエリ姉さんが普通に卒倒しそうでマズいな。さて、どうするか)


『貴族戦争の時と同じく即座に、そして強引にでも傷跡を消すのが一番かと』


(それが最適解だとは思うんだけどね……でも二人は俺の大事な家族だから、どうすっかなぁ……やっぱサクッとやるしかないか……)


 改めて二人を見るとユリ姉さんはいつものダルそうな感じも、一ヵ月前の俺を敵視するような目でも無く純粋に怒っているような表情をしていた。盗み聞きとかも有るだろうけど一番は横で震えているエリ姉さんを気遣ってるんだろう。なんだ、ユリ姉さんもちゃ~んと、お姉ちゃんしてるんじゃん。


「か、快利……そのっ……わっ、私は」


「エリ姉さん怪しいとは思ってたけど……怪我、してたんだ。ユリ姉さんも?」


 電車の中での動きとか普段の制服とか真夏になっても常に黒のロングタイツとか言われるまで気付かなかった。ユリ姉さんも今思えばジーンズとかロングスカートしか履いてなかった。肩出しとか胸の谷間ばっか見てて全然気付かなかった。


「そう、よ……だって、こんな不快なもの見せたら……周り、引く……からね」


 ユリ姉さんはトラウマ程度、でもエリ姉さんの方は更に発展してPTSDレベルになった感じかな?前に無限書庫ウィキの魔法で調べた時に俺は、そのように理解した。専門家的には色々と違いが分かれるらしいけど俺はトラウマは原因があって一回限定、そしてPTSDはトラウマの発展系で何かの拍子に思い出す重症のようなものと勝手に思っていた。実際俺はその対処の仕方で異世界で戦争の被害者、そして加害者の心や体も魔法や魔術で癒していた。


『ちゃんと勉強すれば医者になれるかもしれませんね?』


(いや、実際は医療魔術だけでこっちの名医なんか余裕で越えられるからな?)


『向こうでは優秀な兵士が医者も兼任しているような事も多々ありましたから、兵士の究極系の勇者なら名医なのは間違いでは無いかと』


 そんな冗談を脳内でかわしながらも目の前のエリ姉さんは普段の自信に満ちた表情もキリッとした美貌も完全に見る影が無く、顔は真っ青で目は涙で濡れカタカタと歯を鳴らして震えている。


「あらら相当だな……これは思った以上――――「そう思うならっ!! なんで、盗み聞き……なんてしたのよっ!! 快利!! あんたはもっと優しい子だとっ!!」


「はぁ、勝手にそう思ったのはそっちだろ? 何度も同じ事言うけどさ……二人の傷さっさと見せて、治すから」


「い、嫌だ……見ないで……」


 やっぱり無理か……向こうの人は、こう言う時は割と協力的だった。理由としてはそもそも戦争でもっと酷い目に遭っていたのと、俺が勇者だったので無条件で信頼されてたから治療自体も簡単だった。いや、ほんと信頼度と評判って大事だよね。


「だからっ!! この傷は、女の子にとって――――「そう言えばさ、昔クズとかアホとか散々言われた中学生が居たんだよね~?」


「は? な、何を言ってるのよ。い、今はそんな事……」


「そんな事ぉ? その子は凄く、すごぉ~く傷付いたんだけどさ、てか俺の事なんだけどね? 思ったんだよね『何でお姉ちゃんは僕にこんなヒドイ事ばかり言うの?』ってさ、止めてって、どうしてって、何度も思ったんだよね~」


 そう言って俺はさり気なくユリ姉さんの方に近づく、そして俺が動いたと同時にエリ姉さんはベッドの隅の方に這って逃げるように隠れる。背中の火傷の痕が完全に見えてるけど、その事に気付かない程に動揺している。

 目の前で一人になったユリ姉さんの方は明らかに動揺していた。今さら俺がこの話題を口に出すとは思わなかったのだろうけど、俺は目的のためには手段を選ばないから覚悟してもらおう。


「そ、それは、ゴメン……ほんとよ? でも、今は絵梨花が……私は後で何でも聞いてあげるから……快利、今はお願い」


「はぁ、許してあげたのは事実なんだけどさ、ふ~ん……じゃあ今聞いてもらうね? 優しい優しいユリ姉さん?」


「えっ? 快利……あんた何言って――――「と、言う訳でさ……許して欲しければ俺にさっさと押し倒されろよっ!! 秋山由梨花!!」


 取り合えず傷跡、つまり患部に直接触れなきゃダメだから強引に行く。横を見るとエリ姉さんはベッドの隅でシーツを被って震えてるのを確認して俺はユリ姉さんの治療から開始する。


「えっ、いやっ、快利……何をっ……あんた、やめっ、そこ、ダメっ――――」


「悪いユリ姉さん。下着見るのだけは勘弁してね、これか……うん、これなら余裕だな……よっし、じゃあ行きますか」


 俺はユリ姉さんの両手首を片手で抑えて拘束系の魔法をかけると上半身を拘束する。目だけは動いて恐怖に歪んでいる。ごめん、後でいくらでも殴られて罵倒も浴びせて良いから今だけは怖い思いしてもらうねユリ姉さん。患部は太ももから臀部、つまりお尻にかけての火傷、確かにこれは人に見せられない。


「いやっ、やめて……快利、本当に怖いの……お願い、お願いだから……許して、お願っ――――「大丈夫だよ姉さん。すぐ終わらせるからね?」


「勇者系複合医療魔術……『全ての医療は過去になる癒せない傷など何も無い』威力は小で固定……ユリ姉さんをしっかり癒して治せ……今度こそ救う!!」


 俺の切り札の一つ、普段使ってる医療魔術とは違う勇者スキルの回復系をラーニングする事で初めて使えるようになる最強の医療魔術。傷跡、病気、更には隠れた疾病や遺伝病なども全てを癒す。ガイド音声の話では、怪我は完璧に直し病気も滅多にはかからなくなる勇者しか使えないチート魔術だ。

 これの唯一の欠点は狙いを確実にしなければ何でも治してしまうので遠くから打つことが出来ないと言う一点だ。つまり遠くから放つと患部以外も治してしまう。それこそ顔に当てた場合は整形並みに顔が変わる場合も有るのだ。ちなみに間違えて整形してしまった異世界人の女性は喜んでいた。


「いやああああ!! 離して!! 快利もう、こんな――――「はい、終了っと……拘束も解くね、それと一応は自分でも確認してね?」


「えっ? うっ、嘘……で、でも……」


 治療の終わった後は笑顔が基本、かなり強引にやっちゃったからな……この後もう一つ有ると思うと憂鬱だけど仕方ない。ユリ姉さんもう完全に泣いちゃってるし、やっぱりキチンと説得すべきだったかな……これじゃまるで無理やり襲ったみたいじゃないか……。


『乱れたシーツとベッド、泣き腫らす着衣の乱れたグラマラスな美少女、これは完全に事後で事件と言っても過言ではありませんね? 勇者カイリ』


(や~め~て~!! 俺じゃこれが限界だったんだよ……後でいくらでも謝るし、土下座もするから……はぁ、本当にもう一人エリ姉さんはどうしよう)


 俺がガイド音声に必死に弁明しているとベッドで押し倒されて荒い息を上げているユリ姉さんがこっちを涙目で見ながら落ち着いて来たのか呟くように喋り出した。


「か、快利? その……」


「ユリ姉さん。後でキチンと謝るから!! 本当に何でも聞くから俺の方がね!! だから今は風呂場で確認して来なよ。トイレでも良いけど。あ、これ鏡ね」


 こういう時は勢いが大事、相手が考える間もなく状況を動かして気付けば解決。意外とこれが効く事も世の中有るのです。実際に目の前のユリ姉さんは俺の態度の急変に困惑している。一見してサイコパスムーブに見えるけど演技力と行動力って意外と大事で上手くやれば丸め込めたりもする。そうしないと生きていけない場面があったのが俺の勇者生活だった。


「か、快利?」


「大丈夫、ユリ姉さん戻ってくるまでエリ姉さんには治療しないから、ね?」


「あっ……うん」


 そして少しすると下着姿でユリ姉さんが勢いよく風呂場から出て来た。脱がしたのは俺なんだけどさ……服は着てから出て来て下さい。しかもユリ姉さん大きいから俺の目の前ですっごい揺れてるから!! 青少年には目に毒、いや眼福ですから!!


「快利!! すっごい!! 本当に治ってる!! すっごいよ!! ここのお尻のとことか太ももとかもプールの授業の時隠せなくて本当に辛くて……って、どうしたの?」


「あ、ああ。喜んでくれたのは嬉しいんだけど……その、お尻とか堂々と見せつけられたら流石に俺も嬉しいけど色々と……ね?」


「あっ、ご、ごめん……って、さっき私を散々押し倒したくせに何恥ずかしがってんのよ!! 体だってベタベタ触ってたくせに!!」


 あれは医療行為なんです!!健全な行為だったんですから問題無いはず、偶然にも腕が少しだけ姉さんの胸に触れて柔らかいとか思ったけど不埒な気持ちは頑張って抑えたんでセーフです!!


「ごめんって、いくら説得しても水掛け論になるから。強引に行くしか無かったんだよ……ユリ姉さんの方が軽いってステータスで出てたし……」


「ステータス? そう言えば快利って私たちのステータスとか見れるんだっけ? え? じゃあ、もしかして私たちの体重とか知ってるの!?」


「見てません!! 見ないようにしてます!! 状態異常はデカデカと名前の横に出るんだよ!! 気にならない方がおかしいの、今までスルーしてたのは触れなきゃ再発しないって注釈あったからだし……」


 俺がステータス画面で見ているのは体力や状態とスキルなどで個人情報の欄は見ていない。もし見てたら瑠理香=RUKAなんて一瞬で分かってたし、もっと早く家にサインを貰いに行っていたはずだと断言しよう。

 でも実は一つ言って無い事が有って、それはユリ姉さんだけは体重及び身長と3サイズを知ってたりする。これには事情が有って姉さんの家で着ているメイド服だ。俺のスキル全品再利用もったいない精神で服を作る際にはある程度の大きさの目安が必要になる。そこで仕方なく数値を見たんだ。それにしてもユリ姉さん凄い大きかったです。


「ま、今回は信用してあげるわ……でさ、問題は絵梨花の方なのよね……この子、この話題になると本当にダメなのよ。私のせいなんだけどね」


「うん、何か庇ったとか言ってたよね? ユリ姉さんをエリ姉さんが庇ってあの火傷になったの?」


「ユリ姉ぇ!! ダメ!! 言わないでぇ……」


 シーツを被ったまま震えてるエリ姉さんは、いつもと違って可愛いけど今はそれどころじゃない。いい加減ここまで騒いでると異世界組は気付いてしまうかもしれない、この部屋に結界が張られている事にだ。防音結界は基本だけど逆に言えば結界が張られている事はバレるのだ。今は異世界組が居るから魔力の流れでバレるかもしれない。つまり何が言いたいか、それは時間が無いって事だ。


「もう大体ネタは上がってんだからさ、エリ姉さん……覚悟を決めてね? 後で俺の事いくらでも殴っても叩いてもいいからさ、じゃあ取るよ」


「うっ……こんな姿見ないで……快利、頼む」


「うん。じゃあそんな傷跡すぐに治してあげるからね? こっち向いて」


 こっち向いてと言いながらシーツを無理やり取って強引にこっちに向かせると俺は涙でボロボロのエリ姉さんをしっかり見ると手早く背中に手を回す。意外と抵抗して来ないから、ある意味ユリ姉さんより安心と思った瞬間にいきなり表情が変わって頭突きをしてきた。


「っ!? やっぱり……」


「効かないのは分かってるよね? そんなに怖い? これ以上は無理やりになるけど……ユリ姉さんみたいになりたい?」


「ちょっと、なんで私が倒されてるみたいな扱いなのよ!!」


 ユリ姉さんのステータスを見るとトラウマレベルが”下”となっている。こんだけツッコミ出来るくらいに治ったのなら大丈夫だろう。空元気かもしれないけど後はユリ姉さん次第だな。


「ま、そう言うわけで少しだけ動かないでねエリ姉さん? これ狙いだけは正確にしなきゃダメだから……触るよ」


「ひっ!? いや、だ……お前に、快利にだけは……」


「だから見ないで触ってるだけ……ユリ姉さん? 確認して、俺が傷に触れているかだけで良いから」


「う、うん……ごめん絵梨花……ちゃんと触ってる。大丈夫だよ快利」


 それだけ聞くと俺は本日二度目の『全ての医療は過去になる癒せない傷など何も無い』を発動させる。これは本来は身体欠損や瀕死や重傷者に使うものだが通常の医療魔術だと火傷の痕が残る可能性があった。しかも医療魔術は何かを媒介してしか使えないが今の姉さんに聖剣を向けられない。


(だから勇者系の魔術なんだよね……)


『勇者系の派生形の複合魔術なら道具を介さないで直接触れるだけで発動できるのが最大の利点です。デメリットはそれぞれ有りますが基本は強力な反則技ばかりです』


 今ガイドが言ったように勇者系の複合術は凶悪な性能なものが多い、今の体では行使できるものがまだこれでも少なくなっている方だ。そして勇者が唯一出来ないのが死者の蘇生だ。


(ま、過去に戻って無かった事にする方が早いから必要無いんだけどな……)


『さすがに神もおいそれと蘇生の術は与えなかったと言う事でしょう』


 そんな脳内会話をしている内にエリ姉さんの背中の火傷痕は完全に消えた。ユリ姉さんに確認してもらったが確実に消えているとの事で一安心した。


「これでもう安心だな……ふう、よかっ、た……? あのエリ姉さん? そろそろ離してくれないかな?」


 脳内会話をしていて途中から気付いてなかったけど、いつの間にかエリ姉さんが正面から俺に抱き着いている状態になってた。おかしい、途中まで向き合っていただけなのに気付けばベッドの上で正面向いて抱き合ってるって……これマズくない?


「――――取って」


「え? なに? よく聞こえな――――「責任取って私を嫁に取れ!! 快利!!」


「ちょ!! 絵梨花あんた!?」


 幻聴が聞こえた気がする……うん、気のせい気のせいと思って俺に抱き着いているエリ姉さんを見ると明らかにさっきとまではとは違う理由で目が潤んでいる。心なしか顔も赤く……いや現実逃避はやめよう。これはどう見ても……。


「顔が真っ赤なのに……目が血走って……ルリと同じ顔してる」


「ふっ、私も自分がここまで弱いとは知らなかった……だけどお前に弱い自分を見られた以上もう構わない……快利、今ここで私を抱いてくれ!!」


「ええええええ!! ちょっとエリ姉さん!? 気を確かにぃ~!!」


「私は極めて正常だ。そもそも一ヵ月前にも私はお前との既成事実を狙っていた。お前が異世界から帰って来たとか言ってた時だ!!」


 あ、そう言えばスキルで姉さんを分子分解しそうな時もこんな感じで押し倒されてたな……え?俺って今まさに押し倒されてるじゃねえか!!


「ふふふ……そうだ、最初から快利を私好みに育て、鍛え出した時から考えていた事じゃないか……何を今さら恐れる秋山絵梨花!! そう、この時のために、私は快利を鍛えて来たのだからな!! 私の夫とするために!!」


「え? な、何言ってんのっ!? エリ姉さん!?」


「あんた、それって小学生の時に言ってた……まさか、まだ計画が続いてたの!?」


 エリ姉さんがいよいよ恐ろしい事を言い出したと思ったら今度はユリ姉さんまで焦り出して何かを言っている。小学生の時?計画?何の話なんだと不思議に思っていたら目の前で俺に抱き着いて離れない張本人が話し出した。


「お前が私たちのパンツの匂いを嗅いでいた事件があったな? あれが始まりだ」


「あの、俺ほんとうに嗅いでないからね?」


 そう言うとエリ姉さんは無視してるけどユリ姉さんは「ちゃんと分かってるわよ」と言ってくれたので安心していたら目を血走らせたエリ姉さんがさらに抱き着いて来る。ガチ恋距離より近い距離で荒い息遣いが少し怖い。


「ああ、そんな事はどうでも良い。だが私はあの時から純真無垢なお前を私好みに育て上げる事を考えそして最終的にお前を鍛える事に決めたんだ!!」


「なんだそれ……まるで光源氏じゃねえか!? そんな事考えてたのかよ!!」


「そうだ……。義理の姉弟はちゃんと結婚も出来るからな、それもキチンと調べ私はあの夜、既成事実作りを実行しようとしたのだが……お前の魔法で邪魔された!! よく覚えてないがな!!」


 そうだろうね刹那の子守歌すぐにおやすみで気絶させたから、あれで前後不覚になったからね。俺の正体バレた時にその事も話したのが今さらながら効いてくるなんて……。黙っておけば良かった。


「ちょっと、絵梨花あんた落ち着きなさい。さすがに――――「既に瑠理香と言う最大のライバルが出て来たのだ!! 今さら恥も外聞もない!! 快利!! 義理の姉をこのように辱めたのだ!! 責任を取れ!!」


「結婚とか……ほら俺、高校生だし……それ以上に姉さんも落ち着いてね? ね? 今は怪我が治ったショックでおかしくなったんだよね?」


「確かにそうかもしれない!! だがっ、七年前から狙っていたものをトンビにかっさらわれる訳にはいかないっ!!」


 ちょっと待って下さい俺は油揚げ扱いですか!?なんて思いながらも俺は盛大に混乱していた。正直な事を言うとルリの告白の時よりも動揺していた。こんな事を言ってはあれだけどルリ相手ならワンチャン有るかもとか正体バレの前までは思ったりしていたのだ。だけどエリ姉さんは別だ、異次元からいきなり攻撃された感じだ。


「えっと、でも……その」


「快利? お前は私の胸が大好きだったな? 夫婦になればそれなりに応えてやるぞ? お前の好き放題になるぞ?」


 そう言ってムニムニと押し付けて来る。大きい……そして気持ちいい……あれ?よく考えたらこのまま流されても良いんじゃないか?だってエリ姉さんと結婚しても生活は特に変わらないし問題無いんじゃ?


「戻って来なさい!! 快利!! ある意味で瑠理香と付き合うのよりマズい事態よ!! 冷静になりなさい!!」


「ユリ姉ぇ……邪魔をするな!! これは私の最大のチャンスだ!!」


「さすがに止めるわよ!! 二人とも冷静になりなさい!! 快利!! 取り合えず絵梨花を落ち着かせなさい!!」


 その一言で俺はハッと我に返り今度こそ冷静になる。このままじゃ学生結婚で気付けば子持ちで高校中退になってしまう!?それだけは避けなくてはいけない。高校中退の元勇者なんてお先真っ暗じゃないか!!


「エリ姉さん分かったよ……俺、決めたよ」


「そうか!! よし!! すぐに――――「本当は凄い悩んだけど、刹那の子守歌すぐにおやすみ!! とにかく落ち着いてね? エリ姉さん!!」


「あっ……ひゃん……かい、り……このパターン、二度……目……」


 そして俺に抱き着いたまま気絶させたエリ姉さんの拘束から逃れて一息付くとユリ姉さんから「お疲れ」と声をかけられた。それを聞いて色んな意味で複雑になるけど取り合えずの危機は脱した……と思う。そしてユリ姉さんが持って来たお茶のペットボトルで一息付きながら旅行二日目はやっと終わりを告げたのだった。

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