第36話「彼女たちの残念な夜這いウォーズと雑過ぎる水着回導入」



 勇者は寝不足だった。部屋には朝の直射日光がさんさんと降り注ぎ、朝なのに日焼けしそうだと思いながらため息を付いた。まず腰掛けたベッドのシーツは乱れ、そして着ている寝巻代わりのジャージやシャツも半脱ぎ状態、そして頭髪はボサボサだった。寝起きと言うには余りにも激しい何かの行為があったとしか見えない乱れっぷりだった。


「さて、言い訳を聞かせてもらおうか?」


「「「「「うっ!!」」」」」


 勇者は目の前で正座させた少女たち五人を見てため息を付く。彼女たちの今の恰好は色んな意味で部屋の外に叩き出すことが出来ず、仕方なく自分の部屋で説教する事になった。彼女ら五人は昨晩、元勇者カイリの寝所に忍び込もうとした、つまりは夜這いをかけて来たのだ。


「まあさ、俺だって健全な男子だし、なんなら悪ガキ二人は何となく来そうだとは思ったよ……でも何で一番最初に罠に引っかかったのがエリ姉さんなんだよ!!」


「まあ聞いてくれないか快利、私はそもそもユリ姉ぇ以外の三人を見張るためにここに来たんだ」


「はいはい絵梨花さんダウト!! カイの部屋見張るだけなら何でミニスカナース服なんて着ているんですかっ!?」


 そう指摘した瑠理香もだったがこの場に居る五人全員が、それぞれ際どい恰好、ハッキリ言うとエッロいコスプレ衣装だった。まず絵梨花は指摘された通りミニスカートでピンク色のナース服でおまけに胸元がハート型に開いて谷間がクッキリ見えてしまう仕様の着ていたら間違いなく痴女だし、そんな看護士など居ないと言わしめる本職の人間をバカにしたようなエロ特化の衣装を着ていた。


「そう言う瑠理香も、それは何着てんの?」


「こっ、これは、そのぉ――――「説明しよう!! ユリ姉さん!! これはRUKAの伝説の地下アイドル時代のデビュー時の衣装だよ!!」


「はい、そのとーりで~す。カイはこの時の私を見てファンになってくれたから……夜這いとか関係無く見て欲しいなって、思ったんだ……」


 この時から一貫してイメージカラーの濃いブルー、つまり瑠璃色の衣装なのだが、当時から事務所の方針でRUKAを含めた三人は清楚さで売っていたので露出度は少なかったのだが今の瑠理香の恰好はスカートは下着が見えるくらい短く、胸の部分は当社比二倍で大きく見えてボタンとリボンで無理やり抑えているように見える。


「しかし快利、瑠理香の今の衣装より明らかに過激なのだが? 確か彼女たちの所属のグループはそれこそ清楚売りしていたはずでは?」


「そうよ!! その衣装パッツンパッツンじゃない!! どう見てもセクシー売りの着エロアイドルにしか見えないわよ!!」


 二人の姉の言い分は、ごもっともで俺も三年前に見た初々しさよりも見た瞬間の感想が「うっわ、エッロ!!」って思ってしまったのは秘密だ。


「この衣装はもう着ないから自由に使って良いって母さんも言ってたからカイが喜んでくれると思って着たんだよ……でも、そのぉ、さすがに中学の頃のだから色々と小さくなっちゃって」


「確かにルリは色々と成長したからなぁ……衣装が小さくなったのか……だが、そこがそそると言うか……中々にレアと言うか」


 昔の中学の頃の小さくなった衣装だから体のラインが出ていて全体的にピッチリとした感じで感覚的に言えばピタT着ている感じにも見える。しかも普段は清楚売りしているアイドルが小さめの衣装を着る事で清純なエロスを漂わせると言うギャップが童貞勇者を全力で殺しに来ていた。


「カイ? 私は昔の恰好でお話しようと思っただけだよ? そりゃ、ちょっとは良い雰囲気になれれば嬉しいって思ってたけど……」


「わ、分かった。そうか……」


 そう言ってチラっと上目遣いをしてくるアイスブルーの瞳は少し濡れていて目線を逸らすと衣装で抑えきれない胸の谷間がガッツリ目に飛び込んで来る。そうだよなルリは心を入れ替えたんだし俺と少し話したかっただけなんだと思う快利に長女、由梨花が待ったをかけた。


「騙されちゃダメよ!! 快利!! その見た目だけ清楚アイドルのポケットをよ~く見なさい!!」


「えっ? 『極薄0.01ミリ』……なっ!? これは……初めて見た……近藤さん!? ルリおまえっ!!」


「ちっ、あと少しで私だけはバレ無いと思ったのに……さすが由梨花さんね……」


 瑠理香が大人しく白状した内容は母親であるエマさんに酔っ払ってコレを渡された上で『あんたが止まんなければ、その先は引退よ。だからね、止まるんじゃないわよ……』とか言う恐ろしい事を言って泥酔して寝てしまったそうで快利は戦慄した。よく見れば潤んだルリの瞳はむしろ俺を狙っている目だった。


「由梨花様の言う通りです!! 瑠理香さんは、ただの発情アイドルです!! あとマイマスター、なぜ私とセリカ様だけ正座だけじゃなくて縛られて罪人のような扱いなんですかっ!! 異世界人差別です!!」


「あぁ? 土下座じゃねえだけ感謝しろ……で? お前らは?」


「勇者カイリ!! 私は言いましたわ!! 夜這いを仕掛けるとっ!!」


 だから俺の罠に全力でかかったんだろと言って勇者はセリカを見た。今回はいつもと逆でセリカが先に罠に引っかかり、次にモニカが罠に形に掛かった。ちなみに尋問の順番は勇者の部屋に夜這いをかけた順となっている。


「最初にエリ姉さんが正面から来て時空落とし穴に引っかかって、その五分後にルリが窓を普通に開けて入ろうとして来たから窓に置いてた魔界の触手の植木鉢に捕まって確保した後にお前らか……」


「カイ~!! 反省するから、そろそろヌメヌメ取ってよ~」


「私は気絶していたが頭がグワングワンする……気持ち悪いぃ……」


「はいはい、ルリには浄化魔法を掛けるから、それとエリ姉さんはこの特製の時空酔い止めを飲んでね?」


 エリ姉さんに錠剤を渡して、次に浄化魔法でルリの体中に付いた触手の体液をきれいに落とす。そしてさり気なく極薄のアレは回収しておくのを忘れない。瑠理香に持たせておくのはマズイ気がしたからだと勇者は必死に言い訳をしているが実際は初めて見るそれが気になっていただけだった。





「で? お前らはだいぶ俺まで迫っていたな? だからより酷い目に遭ってたとこを回収したんだがな……」


「真っ先に回復魔法と医療魔術をかけて下さったので愛を感じましたわ。さすがは私の未来の夫!!」


「ああ、お前がまさか俺の感知系のスキルと連動した床ぶち抜いて侵入してくるとは思わなかったからな。おかげで床からの侵入者用に仕掛けておいた爆破系の魔術が起動したから起きるハメになったんだよ」


 実はエリ姉さんが時空の穴で気絶し、ルリがアイドル衣装で触手に捕まっても俺は起きなかった。まず時空の穴は俺が作った異空間だから普段の移動用とは違い閉じた空間なので気付かず、ルリがヌメヌメにされた魔界の触手は相手を縛り絡め捕る事しかせず毒とかお約束の媚薬なんて一切出さない健全なものだ。だがセリカが突撃して来たのは俺のスキルと魔術だ。一応は加護対象者なので『聖なる防壁何でもガード』のお陰でいつも通り無事だったのだがそれでも俺の魔術とスキルがぶつかったので無事なだけで瀕死状態だった。


「起きたらお前がいきなり瀕死で横に転がってたらね、そりゃあ助けますよ!! そこまで薄情じゃ無いからなっ!?」


「そしてその後に縛って転がしてたら屋根を吹き飛ばしてモニカが爆弾放り投げて来たからなぁ……お前、もはや夜這いじゃねえからな!? あれは夜襲だから!?」


 そうして二人を改めて見るとセリカは夕食のBBQまで着ていたドレスを脱いで、俺の高校の女子の制服を着ていた。ただ爆破したせいで下着なんてモロ見えだし、かなり際どい制服姿になっていた。ちなみに入手経路を聞くと、ある筋から手に入れたとか聞いて俺はそのルートを潰す事を決意した。


「新学期になったら奈之代と百合賀に言っておくぞ? 快利」


「ああ、その前に下調べしとくからよろしく。まさか魔王軍の残党とかが売り捌いてたりしないよな?」


 そしてモニカの方は黒い暗殺者のようなピッチリとした全身タイツだった。有名な怪盗一味のエロス担当の人や某怪盗三姉妹が着ているようなアレ。ちなみにモニカ用に待機させておいたカエル君は健在で、ここに転送されるよう設定していた。だから屋根を吹き飛ばし床に降り立った瞬間、すぐに送られて来たから簡単に気絶させる事に成功した。


「マイマスターのせいで屋根を吹き飛ばした後は気絶しちゃったじゃないですか……いたいけな怪盗美少女をカエル責めなんて世論が許しませんよ!!」


「おう、すぐに世論味方に付けようとすんのヤメロよ。向こうの世界と違って、こっちの世界はマスゴミが権力握ってんだから!!」


「こちらの世界は意外と国家権力効きませんからね……困ったものです」


 やれやれと言って縛られたまま肩をすくめると言う器用なマネをしているモニカを一度放置する。そして俺は最後の一人を見た。


「ユリ姉さん……ついに着てくれたんだ……そのぉ……ありがとう?」


 俺が作ってあげたピンクメイド服、まずは肩出しは基本で胸元はダイヤの形で胸元がしっかり見える仕様にしていて、しかもへそ出しで足は薄いピンク、桜色のニーハイソックスを装備と言う俺の妄想を全力で具現化させた格好だ。


「ううっ、てかこれって今更ながら気付いたけどアニメ化したラノベの主人公が大好きなメイドのあの娘の衣装まんまじゃない!! 通称淫乱ピンク!!」


「そう、あの時は姉さんは茶髪だったけど今は黒髪に戻ったから完璧!!」


「あの、もしかしてカイの初恋って……」


 そう、俺の初恋はユリ姉さんだ。だが厳密に言えば少しだけ違っていてアニメ『ご奉仕しちゃうゾ』と言う深夜アニメのメインヒロインだ。そのアニメに出て来る黒髪ピンクメイドとユリ姉さんがそっくりだったから最終的にユリ姉さんが初恋となっていた。


「つまりは、あんたは義理の姉のコスプレ姿を見たかっただけなのね?」


「うん!! だって小学校の頃からの……夢、だったからさ……」


 『少し照れるぜ!!』なんて言ったら周りの女性陣全員から軽蔑の眼差しを向けられていた。美少女メイドは男のロマンなんだよ!!間違っても爆弾放り込まれたり悪態つくのは間違っている。王道のご主人様に尽くすのがいいメイドなんだ!!


「あ~、もう良いわよ。それで一応聞くけど……その、どう?」


「ああ、そりゃもちろんユリ姉さんすっごい似合ってるしエロ可愛い!!」


「そっ、そう。ま、あんたには最近お世話になってるし、料理も少し覚えたりとか色々と感謝してるから、そのお返しみたいなもんよ」


 そんな事をクールに言ってるけどユリ姉さんの顔はやっぱり恥ずかしいのか真っ赤だ。いつもこんな感じなら可愛いんだけどな。最近は良い意味で姉弟の関係になったりして甘えたり出来て今の関係好きなんだよな俺。


「それよりも快利、爆発したり屋根吹き飛ばしたりして周りに気付かれないの?」


「いや、実はこのペンションの外には音漏れ防止用の結界張って有るからたぶん他の人たちは気付いて無いから……」


 そう言って辛うじて残っていたもう一つの窓を開けると朝の散歩をしていたらしい南美ちゃんと綾華さんの二人と目が合った。


「「「あっ……」」」


 ちなみに俺の後ろにはエロナース、エロメイド、エロアイドル、エロ怪盗とボロボロの学生服の五人が居て、それが二人にはバッチリ見えている。しかも全員が正座しているので、まるで俺がハーレムを仕切って誰にしようか品定めしているかのような勘違いをされてもおかしくない光景だ。


「オハヨウゴザイマス」


「そのぉ……昨晩はお盛んだったようで……」


「ケダモノ……オタクな顔してとんでもないケダモノよ!! 秋山くん!!」


 こうして俺は押しのアイドルグループにお盛んなファンだと思われてしまうのだった。そのまま全員が部屋から居なくなると俺はため息をついてペンション全体に修復魔術をかけて朝食の用意に向かった。





 朝食を食べ終えるとエマさんを除いて外のBBQ跡地のテーブルを囲んで集まった俺達は何して遊ぶか話し合いをする事になった。そもそもここは山で、海のように遊ぶ事なんて出来ないし子供なら昆虫採集のためにカブトムシを取りに行くとか色々有るだろうが、高校生の男女が遊ぶのは無理だ。湖で釣り?それともボートも無いのに湖を見るだけとか悲し過ぎない?


「お昼から温泉は違うよな……結局は昨日は秘湯とか行けなかったし……綾華さん達も行かなかったんですよね?」


「ええ、昨日までレッスン漬けで、こっち着いたら色々あって戦闘に巻き込まれてBBQだったからね……昨晩はぐっすりよ」


「普通はそうですよねぇ……」


 そう言うと先ほどの五人全員が顔をサッと背けた。特にルリはあの格好のまま自分の部屋に戻る時に二人にスマホで写真を撮られた後に母親の前に突き出されマネージャーとして厳しい一言を言われたらしい。


「さっきはああ言ったけどさ……昨日の前科も有るから確実にルリ姉ぇ達が暴走したんだよね? ほんと暴走したら貰ってあげて、お願い」


「アハハ、身に余る光栄だけど……ルリどうしたの? 明らかに落ち込んでるけど」


「ああ、ルリ姉ぇはエマ叔母さん……じゃなくてマネージャーに『太ったわね』って真顔で言われてね。ほらピチピチだったでしょ? デビューの時の衣装、私も少しキツイんだけど綾華なんて今でも普通に入るって言われてあの調子よ」


 見るとルリが明らかに焦点の有って無い目でブツブツ呟いていた。イジメっ子モードでも黒い時のどちらでも無い本当に「心ここにあらず」と言った感じでさすがに不安定な状態に見える。


「太った……RUKAとして完璧じゃなきゃカイに捨てられる……このままじゃ、ただの元アイドルで一生私は一人に……カイと居られない……」


「闇が漏れてるじゃねえか!! クッソ!! ルリ!! おいっ!!」


 ガクンガクン揺らすと少し戻った感じのルリを見ると今度は泣きそうになっている。本当にコイツ変わったのは見た目だけだったんだな。中学時代の発表の時もビクビクして泣きそうになった事が有ったのを思い出す。


「ルリ、大丈夫だ。太って無いから!! むしろこうやって抱きしめるとちょうど良いから!! なっ?」


「カイ……そ、そんなぁ、いきなり大胆過ぎる。もうっ!! どうせなら昨日の夜もこんな感じで抱きしめてくれれば……」


「マイマスター!! 密ですよ!! ソーシャルなディスタンスですよ!!」


 モニカが何か訳の分からない事を言っているが完全無視だ。もしかしたら別な世界ではマスクが必須な世界が有るのかも知れないが、この世界はそんな危機は起きてないし、何よりルリを落ち着かせるのはこれが一番だからだ。だから俺はもう一度ギュッとルリを抱きしめる。


「ふむ、やはり瑠理香さんだけは異様に特別なご様子……最大の障害ですわね。いいでしょう……なら風美瑠理香さん!! これをっ!!」


「へ? 何? 手袋?」


「あっ、バカ、ルリ!! それを拾うなっ!!」


 ルリは俺の腕の中からスルリと抜けるとそれを拾ってしまった。それを見てユリ姉さんも気付いたようで大声をあげた。


「あっ!! ラノベで見た事あるわ!! 決闘の合図よね!! それ!!」


「おい、セリカ。いくらなんでも決闘は許可しねえからな!! 物理的に無かった事にしてもこっちは構わないぞ!?」


「お待ち下さい勇者カイリ、何も傷つけ合う本当の決闘では有りません。今回は、そう……美を競うのですわ!!」


 何を言っているのか分からないがモニカはなるほどと手を打っている。コイツが納得しているなら命の危険性は割と無さそうだと思いながらも警戒だけは緩めないでおこうと俺はセリカを見た。


「モニカ!! 説明を!!」


「ええ……確かこの世界に転移して来て迷った時に見ていたのですが、こちらの世界には『ミスコン』なる品評会が有ると確認しました!!」


 モニカが言うと納得したように綾華さんが頷いたのを見て俺も理解した、南美ちゃんとルリだけは未だに分かって無いようだ。


「ここに第一回、異世界対抗ミスコンを開催致しますわ!!」


「ちなみに第一回戦は水着審査となります!!」


「えっ……水着!! 賛成!! 開催賛成!! 俺審査員やります!!」


 俺は「山だから水着回なんて来ねえよ」とか不貞腐れていた状態からの、まさかの逆転劇に興奮して思わず審査委員に名乗りを上げていた。ここで水着に浮かれていたらモニカやセリカがニヤニヤしてこっちを見てからかって来たり、ルリが嫌がりながらも仕方ないとか言って俺にくっ付いて来たから気付かなかった。後ろの二人の義理の姉たちの表情の変化に全く気付いていなかった。

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