第27話「世の中には同じ顔が三人居るとか言うけど、お前はそのままじゃねえか!!」




「お、おはよ……カイ……」


「ああ、おはよ」


 清々しい朝に元勇者カイリは二人の義姉と一緒に瑠理香の家の庭に転移する。転移先の庭では明らかにビクビクしている瑠理香が待っていた。実は快利は昨日あの後のアプリからの連絡を全て未読にしていた(なおメッセージは全て確認している)。


「うっ、怒ってる?」


「そう思うならそうなんじゃねえの~?」


 ムスッとして答えるが実はそれほど怒っていない。彼は仮にも元勇者だから一晩寝れば大体過去の遺恨は持ち込まないようにしていた。そうしなければ生きて来れない環境だったからだ。貴族なんて三日どころか数分で裏切る事も多々あった。だから切り替えも割と早かった。例えそれが中学の頃の親友で関係修復しようとしている女子に虐げられても、横で同じく項垂れている義姉の一人が昨晩説教しようとして逆に論破されて落ち込んでいても全っ然これっぽっちも怒って無い。


「はぁ、快利さ、許してあげなって、恋に恋するのは女子の特権なんだしさ」


「いや~まさか守って来た方よりも敵の方の百合ップルに肩入れする奴が居るとは思いませんでしたからね~。そりゃちょ~っとイイ話みたいなノリでしたけど?」


「だって純愛だったし――――「ああん? 純愛なら人類裏切っていいんですかね? 風美さ~ん?」


 そう言って快利は由梨花を連れて大学まで転移した。一応は現在中立の由梨花はどちらの言い分にも理解を示してくれたが、女性陣も擁護していたし、快利自身も分かってはいたけど納得はしたくない。つまりは拗ねているのだ。


「快利、偉そうに言えた義理じゃないけど、ね? 今日はピンクの方着てあげるから。二人を許してあげて」


 その提案に首を縦にブンブン振った後に、ハッとして気付いた。エッチなメイド服に釣られる程、俺は安い勇者では無いと思いながら初恋の人のセクシーメイドな恰好は見たいのだ。


「べっ、別にいいよ、そんな無理しなくてもさ。ほんとさ、二人の事はそこまで気にして無いから。向こうの世界での貴族の方がもっとエグかったし、ただ少しね……エリ姉さんは昨日分からせたけどルリがさ……」


「瑠理香が?」


「やっぱ信用されてないんだなって……そう思って拗ねただけ……向こうじゃ割り切れたのに、そこが俺自身なんつ~か情けないって言うか、任務を放り出して拗ねて帰るなんて勇者じゃないって言うか……」


 快利はそこを気にしていた。相変わらず秘密にされている自分を虐めていた理由、それともう一つ何かを隠している気がすると言う疑念。おそらく目の前の姉も含めて何かを隠している事くらいまでは検討がついていた。これでも何度も王国の敵の陰謀を暴いて来たから当然だ。だからそれを打ち明けてくれないと言う、もどかしさと信用されて無いと言う不安が彼をここまで不安にさせていた。


「それは違うと思うよ。たぶんあの子はあんたに甘えてるの。これ位なら許してくれるって、ま、それはそれでどうかと思うけど……だからキチンと話してあげて」


「アハハ、ユリ姉さんに教えてもらう日が来るなんて――――ムギュ」


 瑠理香が自分に甘えてるとは、どう言う意味なのか?などと考えていたら気付けば由梨花に問答無用で抱きしめられていた。


「柄じゃないのは分かってる。ま、敵に塩送ってあげるのも年上の役目かなって……それと、絵梨花にも何かアイテムあげて。私と瑠理香にだけ渡してあの子は無しって意外と落ち込んでたわよ?」


「いや、エリ姉さんは俺が一番近くで守ってあげられるから不用だと思ってて……でもそっか自分だけ何も無いと、いざという時の守りが不安なのか……分かった!!良いのが有るから戻ったら渡してみる!!」


 そう言うと快利は由梨花から名残惜しいが離れて転移して行った。そして快利が居なくなったキャンパスを一人で歩く由梨花はため息を付くと呟いた。


「はぁ、最初は散々嫌がらせして、その後は便利かもって思って利用しようとして、最後は優しくされたから好きなるなんてさ……私の方が最低なんだよ快利。だからあの二人を許してあげて……あんたはそれが出来る優しい子なんだから」





「さてさて、それじゃ二人とも学校行くよ……ってどうしたの?」


 戻ると二人が庭先で土下座していた。いやいや、いくらルリの家に今は人が居ないからって、これは……。


「カイ、ごめんなさい、よく考えたら敵……だったんだよね、私なんて一度死にかけてたのに……」


「快利、私も昨日言われたが素直に聞けなくてすまなかった。一緒になら謝れると思って便乗した」


「はぁ、分かった。二人とも顔上げて、俺としても本当に怒ってない。ただ少し、本当に少しだけ拗ねただけ、だから行くよ二人とも早く立って、あと、もう許したから、ね?」


 その後も10分くらい中々土下座をやめない二人を無理やり立たせると少し強引に両脇に抱きしめる。今回の転移先はある意味一番安心で一番危険な場所だからだ。昨日エリ姉さんに聞いたその場所に俺は難色を示したけど、最後には納得した。だけど油断はしない。そして俺は生徒会室に転移した。


「よし、大丈夫だな……」


「安心しろ、と言うのは無理だろうな……勇者よ」


「ああ、それとビルトリィー、学校では百合賀先輩と呼ぶぞ? それで本当に良いのか? ここを転移場所にして」


 そして転移先で待っていたのは毅然と構えたメガネ女子の百合賀尊こと四天王のビルトリィー、その斜め後ろに控えている生徒会長、黒幕奈之代だった。俺が拗ねて帰ったあの後、取り残された四人は少し話し合って、その際に転移場所に困っている事を話してしまったらしい。その点も俺は昨日エリ姉さんを叱っていた。


「転移場所がバレている状態で、かつ敵がこちらを待ち構えている事ほど怖い事は無いからな……」


「ふむ、あの頃はお前は転移系魔術は使えなかったから我らも対策はしてなかったからな……しかし特性でもごく一部の者しか使えなかった時空魔術を使えるようになっていたとは……」


「ま、俺も成長したんだよ。お前を倒した後に六年あの国で戦ったんだからな」


 やっぱりあの世界で戦った七年は濃密だった。常に死が隣の戦場や城内、信頼できるのは旅の仲間と己の力のみ。何度も何度も死にかけた。そしてその度に俺は強くなった。生き残るために……。


「カイ……大丈夫?」


「ああ、大丈夫。それより今後はここを拠点に使わせてもらう、黒幕会長もそれで構いませんか?」


「うん。私は尊がずっと傍に居てくれるならそれで……」


 ええ分かってましたよ。この人さっきからず~っと百合賀先輩の方ばっか見てますからね。俺らの事はどうでも良さそうだし、てか本当にコイツは昨日までエリ姉さんの事を好きだったんだろうか?


「魔王討伐までは色々と利用させてもらいます。大事な人を守るためにもね?」


「ああ。私としてもナノを守るためには、あの方とは袂を別つべきと、そう考えている。せっかく転生した命だ。今度はもう自分のために使おうと思う」


「そうしろ。じゃあ俺達は教室に行く……っと、そうだエリ姉さんにはこれを……」


 そのまま生徒会の二人も一緒に教室に戻ると言うので一応心配だったからエリ姉さんにあるアイテムを渡す。『魔法使い殺しの指輪ウィザードスレイヤーリング』と言う魔法反射及び特殊魔法以外を無効化するアイテムだ。


「この指輪もアイテムなのか?」


「ああ、エリ姉さんを守ってくれるはずだ」


 その後は何事も無く過ぎて行った。結界を張って寝ようにも後ろのルリが許してくれないので真面目に授業まで受けてしまう。そう言えば中学の時は隣の席だったからノートの隅にお互いに書いたりしてたな……。




――――約二年前(勇者の体感七年前)――――




《数学むずかしい》

《今やってるとこ?》


 ノートの隅の方に書いてこっちに近づけてくる。俺は当時ドキドキしながら気の利かない言葉しか書けなかった。


《がんばれ、やればできる》

が教えてよ》


 そうそう、それで放課後じゃなくて授業中とかで割とこうやって話す、文字で会話する事が多くなった。少し気になったルリのくせ字を見ながら俺は、数学を含めた勉強を教えてもらっていたエリ姉さん方式のスパルタはルリに向いて無いと思って、話題を変えるように今日は図書室で話せないか聞いてみた。


《今日はなせる? 図書室で》

《わたし今いそがしい》

《さいきん、すぐかえるよな?》


 そう言って横を見ると少し慌てた様子で頷いていた。何に頷いてたのか分からないけどこの時はまだ眼鏡をかけていたルリの目がどことなく恥ずかしそうにも見えていて、そんな事を思っていたら、あっと言う間に休み時間になって俺は気になった事を聞いていた。


「カイ、数学教えて~」


「別にそれは大丈夫なんだけどさ……気になったんだよ……」


「えっと、どうしたの?」


 不思議そうなルリの表情に俺はさっきのやり取りの中でノートのある箇所が気になっていた。だってそれは――――――――ガタッ!!





 そこで俺は我に返った。ルリの蹴りで気付いた時に見上げると教員の張り付いたような笑顔があって俺は教員を可能な限り敵意認定しないようにして、頭に教科書の角を受けた。全然痛くないけど痛いフリをしなくてはいけないし、ほんと元勇者は大変なんです……。そしてさっきの回想で俺の疑念は確信に変わった。その後も淡々と一日が過ぎて行く俺の心はざわざわしていたけどな。そして放課後になった。


「そっか、じゃあ土曜も家には居ないのか……」


「うん。でも大丈夫、何かあったら必ず連絡でしょ? それとカイ、後で夜に連絡するから今日は、そのぉ……見てね?」


「ああ、今日はちゃんと見るさ。じゃあな」


 そうは言っても実はそこまで心配していない。それは尊の話を聞く限りは奴の狙いが俺だと分かった事が大きい。あくまで俺に復讐するのが目的、そのためにルリや姉さん達、俺の身内を狙う事は有りそうだが尊との関係を切ったところを見ると奴は小細工よりも正面から来ると踏んでいる。昨日の時点で尊や会長を囮に俺に不意打ちくらいは出来たのにそれをしなかった。


(だから来るなら俺の家だな……)


 俺はエリ姉さんの部活上がりの前に今日は先にユリ姉さんを迎えに行って家に送り届けて再度高校に戻る。そして道場前に待機すると……本当に凄い殺気だな……だけど少し様子が変だ。


「また来たわ……帰ったんじゃないの?」


「わざわざ制服に着替えて戻って来たのは何か訳が?」


「絵梨花先輩の弟? でもさっきと少し違くない?」


 なんだコイツらエリ姉さんだけじゃなくて俺の事も話してるのか?ま、いつも通り姉さんを待って帰るとしようと思っていたらエリ姉さんが道場から出て来て少し驚いていた。


「快利? ん? その格好はどうした?」


「いや、今ユリ姉さんを迎えに行って戻って来たばっかだよ?」


「え? ああ、そうかわざわざ着替えたのか……それとお前少し……」


 エリ姉さんも少し変な事を言っていたけど俺はそれから生徒会室に行くと誰も居なかったのでそこから転移したがエリ姉さんは最後まで不思議そうな顔をしていた。エリ姉さんはしきりに俺の顔を見た後にポツリと「やはり幼い気が……」と、だけ言って部屋に入って行った。


『そんな事があったんだよ』


『ふ~ん、そうなんだ。やっぱり絵梨花先輩から見たら顔付きが幼いって事かな?』


 俺は夜に連絡のあった通りルリからの連絡を貰ってすぐに電話をかけた。やっぱりメッセージと違って通話の方が色々話せると思ったからだ。


『でも今さら急に言われたんだよなぁ……っと、ゴメンゴメン俺の方ばっか話して、それで用事って何?』


『あ~、その、さ。カイは日曜に用事有るんだよね?』


『ああ、だから日曜は――――『その用事、終わった後で会えない……かな?』


『全部……話したいんだ……私の事……カイに……』


 ドクンと心臓の鼓動が早くなる。全部話すってそれはイジメの事や他にも秘密にしている事も含めた全部と言う意味なんだろうか?思わず全部?と間抜けな声を出して聞き返すとルリは全部話すと言う。


『なんで、急に……』


『決めてたから……話すなら日曜日だって……』


『分かった……じゃあ用事が終わったら連絡する』


『うん……待ってる。じゃあおやすみ……カイ』


『ああ、おやすみルリ……』


 通話を切ると思わずため息が出た。俺はこれを待っていたはず、話してくれるのを待っていた筈なのに何故か怖くなっていた。だって、俺はもう半分真相に……そんな事を考えていると、その日は少しだけ眠れなかった。そしてRUKAのライブの日がやってきた。





 ライブ当日、俺は色々な意味でドキドキしていた。まず二人の姉が意外とノリが良くて一緒に来てくれた。特にエリ姉さんはアイドルみたいな軟派なものとか言いそうだったのに「暇だから付いて行く」と言う一言でユリ姉さんはもっと単純で俺に合わせると言ってくれた。場所はとあるドーム開催で、しかもRUKAのくれたチケットはあえて関係者席では無くてアリーナ席のまん前、正直少し近過ぎて見辛い場所でも有るのだがデビュー時の時と、この間のシークレットライブ以外では最も近い位置だ。


「しっかし凄いわね……人、『Twilight Diva黄昏色の歌姫』かぁ……最近テレビとかで見るようになったよね?」


「ああ、俺とRUKAの出会いは話せば長くなるんだけど……」


「おおっ!! 同士快利ではないか!?」


 振り向くとそこには地下アイドル時代から一緒に応援し、そして支えて来た同士たちが居た。


「な、なんか濃いのがいっぱい居るわね……」


「快利の友達……なのか?」


 自分も今日はメイド服では無いのでオタク蔑視をするユリ姉さんと本当に別世界に来て困惑しているエリ姉さんの二人を見ると少し笑ってしまう。そして同士たちに振り向いた瞬間にそいつらは三歩距離を取りやがった。


「ああ、姉さん達にも紹介するよ……って皆!?」


 すると同じFCでここ二年ほど、体感七年前にTwilight Diva黄昏色の歌姫を一緒に応援していた同士たちが警戒の眼差しを俺に向けていた。


「同士快利……なぜこの聖域に女人が……しかも凄い美人が二人も……」


「同士、いったいどうして……俺達を、歌姫を裏切ったんだァ!!」


「え? 何を言ってるんだ同士たち。二人とも俺の姉だぞ? それに今はトワディーは女性ファンも多いじゃないか……」


 その俺の一言でざわめきが止んだ……そして。


「わっ、私、快利君とは昔からの親友で――――「黙っていろ!! 俺こそが同士快利と親友で!!」


「そこのアホは放っておいて私も同士快利とは大変仲良くしています」


 うん。お前らが遠くのアイドルよりも近くの知人の姉に吸い寄せられたのは一体どうなんだ? 同士たちよ、俺達はどんな時も三人を応援して行こうって決めたんじゃ無かったのかよ……。


「同士たち……俺達は歌姫をRUKAを、そしてTwilight Diva黄昏色の歌姫の祝福を受けに来たっ!! そうだろ!! ここで俺の姉二人と会うのが目的じゃないだろ!!」


「いや、私は同士快利と違って社会人三年目ですので、そろそろ彼女が欲しい」


「俺も大学生なのに彼女が一人も出来ないんだよ~同士快利……」


 そんな……俺達は初期からFCにも入ってるような猛者が姉さんたちの色香に負けたと言うのか……いや確かに姉さんたちは二人とも可愛いし、胸も人並み以上だし、下手な芸能人やモデルより圧倒的に美人だけどさ……。


『みんな~あと一〇分で始まるから少し待っててね~』


『会場での注意事項を簡単に皆にお話するわ、しっかり聞きなさい? いいわね?』


 元気なMIMIとクールなAYAの声が会場に響いた瞬間、一気に歓声が広がり、さっきまで姉二人に注目してた同士たちも一気にテンションが上がっていた。ユリ姉さんは呆れ顔だったが、エリ姉さんの方がポカーンとしていて、声をかけて意識を取り戻したほどだった。それだけ歓声が凄かった。まだ本人たちが現れて居ないにも関わらずこの熱気だ。


『はい、残りは私が引き継ぎます。ライブの演出上の都合上、非常灯を消す場合も有ります。だから非常口の確認はしっかりね? 以上、RUKAでした~』


 そうか……俺は、また見えて無かったのか……気付けよ……まったくさ。


「どうしたのだ!! 同士快利!! いつもならRUKAが来たら狂ったように叫ぶ君が、随分冷静だな!! まるで同い年みたいだ!! ハハハハ!!」


「いや~、やっぱドーム公演、しかも地元に近いんで感慨に浸ってて……」(一応俺も精神年齢だけなら24歳だから近いっちゃあ近いか……)





 そしてライブは始まった。一曲目はデビュー曲で、俺も何度も聞いた彼女たちの名前の一部でも有る『Diva』だ。このTwilight Diva黄昏色の歌姫ことトワディーの最大の特徴は歌唱力の高さで自分達で歌姫を名乗るだけはあった。昨今の人数とダンスで圧倒するアイドルとは違い三人ともかなりの水準の高い歌唱力で有り、その分ダンスや動きは少し控え目だ。

 ただ決してダンスも下手と言う訳じゃなくてAYAを筆頭に残りの二人もデビュー時に比べてかなりダンスのレベルも上がっている。と、ここまで腕組みで後方彼氏面をしているように感じるような解説をしている俺だが、実際は大声でサイリウムを振って歓声を送っていた。そんな余裕ねえよ!!初アリーナだぜ!!


「ふぅ、やはり最高だな、間近で歌姫を見られるのは……」


「か、快利取り合えず言われた通りにお前の後方でこの棒を振っていただけなのだが大丈夫だったか?」


「色変えるタイミングなんて私たち分からないわよ!!」


 幸いにもその辺りは俺の姉で初心者だと言ってあるので、どう言う訳か周りが同士だらけで、そう言う意味で姉さんたちが少し間違えてもキレ散らかす奴らはいなかった。ただ別なブロックからは少し敵意の視線を感じる。そしてその後、六曲目が終わり、トークパートを挟みながら少し熱気が収まった。そんな時だった。


「止まれっ!! お客様、お待ち下さい、ちょっ、待てよっ!!」


「無礼な……失せよ人間風情が……」


「えっ? うわあっ――」


 遠くで魔力が爆発するような強烈な、あり得ない程強力な魔力の波動と発動を感じたので、俺は咄嗟に自分のブロックのアリーナ席とステージ上に結界を張った。そして離れた別ブロックを見ると、そこでステージ付近の警備員二人が消し炭にされていて近くに警備員の帽子だけが落ちていた。


「きゃああああああ!!」


「なんだよっ!! これっ!? 演出じゃねえのかよっ!!」


 今度はまた別ブロックのアリーナ席の人間たちが騒いだ瞬間にその付近から爆発音と煙が立ち上った。


「火事だ!! 火事だああ!!!」


 誰かの叫び声で、たちまちライブ会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。人々は次々と席を立つ者、そしてその場で気絶する者など様々でステージ上の三人も困惑しながらもリーダーのRUKAとAYAは必死に観覧席に落ち着くように言っている。そして次の瞬間、結界が強力な電撃で吹き飛ばされた。


「きゃっ!!」


「何なのよ!!」


 そしてその騒ぎを起こした男がステージ上に姿を現した。今の電撃の強力な魔法でライブ会場内の照明は落ちて大混乱で、ステージ上の一部の照明だけが非常電源にでも切り替わったように戻っていた。俺の結界を破るために最大出力で撃ったようなので、余波だけで結界外の人間が死亡している可能性すら有る。見ると俺の周りも聖なる防壁のおかげで無事だった姉二人と結界が辛うじて無事だったステージ上を除いて周りの人間が全員が気を失っているようだった。


「黒い鎧……それにあれって……」


「うそ……快利……でも横に……二人?」


「カイ……なの? どうして……?」


 二人の姉は驚愕に、ステージ上のRUKAは何かを呟いていた。そしてその男は黒い鎧を纏いステージ中央に現れた。そこで周囲一帯に先ほどよりも、さらに強力な電撃魔法を放つと周囲を静かにさせ黒い兜を取った。


「なっ……今のは『破滅の雷』ライトニングディストラクション……だと、それに……その姿は……お前、まさか……」


「ほう、そこに居たか、会いたかったぞ!! 勇者ぁ!!」


 俺は半被とサイリウムを即応式万能箱どこでもボックスにしまうと俺をステージから見下ろす同じ顔をしたそいつを見上げて叫んでいた。


「それは卑怯だろ……魔王サー・モンロー……お前、をどこで見つけた!? 俺の廃棄したを!?」


「クハハハハハ!! その顔が見たかったのだ……ああ、最高だ。同じ顔をした貴様のその怒りと絶望の顔を!! 我は見たかったのだからなぁ!!」


 魔王、いや七年後の過去改変で捨てたはずの肉体に宿った魔王サー・モンローが俺と同じ顔をしながら嘲笑を浮かべ暗黒の大太刀を構え俺の前に立ち塞がった。

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