第6話「死闘?分子分解されそうな姉のために元勇者は煩悩と決戦す!!」
このままじゃ……姉さんが分子分解されてしまうっ!!こうなったらやるしかない!!今こそ姉さんの胸を揉むしか……それしか姉さんを救えないんだっ!!今ここに異世界帰りの元勇者カイリの最大の試練が始まる……。
と、義理の姉にベッドに押し倒されながらこの元勇者は何を言っているのだろうと思う人間も居るだろうがどうか冷静になって欲しい、彼だけが悪い訳では無い。なぜこんな事態になったのかを説明するには、快利が帰宅してリビングで母の夕子と話している所から始めなくてはいけない。
◇
「そろそろエリ姉さん帰って来るし……そう言えばユリ姉さんは今日どうなの?」
「ユリちゃんは今日はサークルの集まりで帰りは遊んでくるらしいのよ~」
「ユリ姉さんもすっかり大学デビューしたよね……ま、女子大だけど」
ユリ姉さんは高校は俺たちとは違って近所の女子高で大学も女子大と徹底的に女子限定の進学先を選んでいた。男嫌いなんだから仕方ないし実際俺にもクズとかアホとか会う度に言って来る。
そんな勘違いをしている快利だが由梨花は男嫌いなのでは無く男性恐怖症だ。もちろん彼はそんな事は知らない。もう一人の姉の絵梨花と同様に嫌われていると思っている。
「ただいま」
「あ、エリちゃん帰ってきたわね~。お母さん用意するね!!」
「うん。じゃあ母さんはお皿とか用意してね。料理は俺が温めるからっ!!」
ここで温めるだけだと母さんに任せたらキッチンが爆発するので俺が全力でガードしなくてはいけない。異世界の平和も守った俺なら家庭のキッチンの平和も守れるはず!!そして俺の必死の防衛行動によって家庭は守られた。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「ごちそうさま~。快くんの今日の料理は懐かしい味がしたわ。何か昨日のからあげとかハンバーグは凄い美味しかったけど今までに無い味がしたの。けど今日はホッとする味だったわ」
「そ、そうかな。いつも通り作ったつもりなんだけど……ははは」
うん、今日はこの世界の食材だから、リザードマンもベヒーモスも使って無いからね……むしろこっちの世界の鶏肉とかニンジンとかジャガイモの質の高さに驚いてるよ。向こうじゃ呼び方も馬鈴薯とかだったけどこっちと違って小さかったし食生活はやっぱりこっちの世界の方が安定してるな。
「よ~し、じゃあお母さん食器洗っちゃうわね」
「うん。お願い母さん」
何度も言うようでしつこいが母さんが出来ないのは『料理』だけだ。より正確に言うならば調理が出来ないだけだから料理後の後片付けはしっかり出来る。そして俺がリビングでくつろいでいると姉さんが声をかけてくる。
「快利、明日は土曜だが私は部活が有る」
「うん分かってる。お弁当でしょ? ちゃんと用意しておくよ」
「ああ、それとだな、その……少し前にアレの用意を頼んでいたのだが、もう用意は出来た?」
何かあったかな?少し前……う~んと唸っていると珍しくエリ姉さんが言いづらそうにしている。何があったんだろうか……やはりこちらの世界に戻って来たばかりだから上手く思い出せない。
「ごめんエリ姉さん。あれって何だっけ?」
「一昨日頼んでおいたものだ! まさか忘れたのか……また伸びてしまったから締め付けが悪くなってな……また少し大きくなってしまったんだ……」
「ごめん。本当に何の話だっけ? え~っと……」
なんせ体感七年前なので一昨日と七年前なのだ。どうしよう……メモとか書いて無いから分からないぞ……。
「やはりお前に任せたのは失敗だったか……私の胸のアレだ……」
「胸……あぁ~!! さらしの事かっ!!」
そう、思い出した。姉さんは高校に行ってる間は胸にさらしを巻いている。ちなみにさらしと言うけど包帯とかを巻いているんじゃなくて正確には胸つぶしと言うシャツのようなものを着ている。今は俺にそれの事を聞いていたのだ。
「声がデカイ!! 母さんに聞かれたらどうするんだっ!!」
「ご、ごめん。確か俺の部屋に有るはずだから持って来るよ」
「そうか、いや待て後で私の部屋まで持って来てくれ」
それだけ言うとエリ姉さんは風呂場に行ってしまった。そしてエリ姉さんが風呂に入っているタイミングで玄関の方で鍵の開く音が下ので顔を出してみるとユリ姉さんが帰って来たところだった。
「あ、ユリ姉さんおかえり~」
「あ……うん……」
「え? どうしたの姉さん? ご飯食べた?」
こちらの疑問に答えないでフラフラして二階の自分の部屋に上がって行ってしまった。サークルの集まりで何かあったのだろうか?いつもならクズとかアホとか言ってくるのに。何となく姉の変化に気になるところはあったけど、それより今は母さんが片付け以外の余計な事しないかを確認しつつエリ姉さんの、さらしを探しに部屋に戻った。
「確かベットの下に入れておいたはずだから……あった」
そのさらし、胸つぶしを取り出すと準備をしてエリ姉さんのスマホにメッセージを送ると数分後に通知が帰ってきた。『すぐ来い』とあったのですぐ行くことにした。下手に遅いと怒られるしね。
◇
俺たち三人
「エリ姉さん? いい?」
ノックを二回コンコンとするとドアが開いたので俺はさらしを渡そうとすると中に入るように言われた。俺の過去の記憶ではここで受け渡して代金をもらって終了するのがいつものパターンだったのだが……特に断る理由も無いので部屋に入った。
「失礼しま~す」
部屋に入ると姉さんはベッドに座り俺には座布団を勧めるので座るとエリ姉さんを見上げるような形になる。改めて見ると姉さんは風呂上りで少し上気した顔をして、長い髪もいつものポニーテールでは無く、背中に無造作にかかるラフな髪形になっていた。そして黒のショートパンツに白Tシャツと言う普段の部屋着なのだが問題はその胸だった。
「ん? どうした? 快利?」
「い、いや、何でもナイヨ……」
姉さんの胸デカ過ぎんだろ……今も俺を見下ろす度に凄い揺れたり谷間がチラチラ見えたり無防備過ぎる。そりゃ俺は弟だけど……。と、こんな思春期真っ只中の快利なのだが、それも当たり前である。彼女と言うより彼女ら秋山家に来た女性陣は三人とも発育が大変よろしかった。そこで快利はふと思い出す。そう、そのための『さらし』だったのだと、慌てて目的の物を姉に渡そうとそれを袋から取り出した。
「ね、姉さん。これ、いつものさらし」
「お? ああ。助かる。これが無くてはな……男どもがウヨウヨ近づいてくるから困るのだ……まったく男と言う生き物は……」
なぜ彼女がさらしを付けるに至ったかは中学時代に遡る。その時には既に日本人女性の平均を大きく超えたサイズの彼女の胸は当時の同級生や男性教員なども含めて卑猥な視線に晒されていた。そこで彼女は中学を卒業すると地元から離れたレベルの高い進学校へ合格し地元との関係を断ち切ろうとした。
しかし高校生活を送る内にやはり男子や教員の好奇の目に晒され、果ては痴漢にも遭う始末。結果その大きすぎる胸を隠す事を決意し夏が明ける頃にはさらしを身に付けるようになり以来、今日まで高校生活中はこれを装着し続けていた。しかし家では当然それを外している。
「ん? どうした? 快利?」
「何でもないから……そ、それで何か用なの?」
やめて姉さんこっちを屈んで見ないで!!すんごい揺れてるから。そりゃ男なら誰でも見ちゃいますよ。家では高校とは違って
(何で昔は気にならなかったのにこんなに気になるんだよ……)
快利は七年間の経験とこちらの世界での姉二人の行動で女性には恐怖と警戒の二つの感情を抱いてはいるが性欲が無い訳では無い。むしろ旺盛だった。しかし相手は義理とは言え
「快利? さっきからどうした? 何か気になる所でも有るのか?」
「な、何も無いよ。それより話が無いなら俺そろそろ……」
「いや、今朝言った事を忘れたか? 今日は少しお前が
元勇者が必死に己の煩悩に抗っている間、姉の絵梨花の心の中は既に煩悩に支配されていた。彼女は風呂から上がるとタオル一枚で部屋に急いで戻るとタンスを漁って最近着なくなったワンサイズ小さい薄手のシャツを着て下着は着けずに弟を呼び出したのだ。
(来るがいい快利よ……この部屋に入った瞬間にお前はもう私のものだ)
そして部屋に招き入れ、さっきからわざと弟の前で露骨に足を組み替え、その際に無駄の無いキレの有る無駄な動きをして不自然に自分の胸を揺らしていた。
そう、快利は義理の姉に誘い込まれたのだ。この部屋に入った事が姉の罠だった。彼女はこの日のために親友から『ゼロから始める年下男子の落とし方』と言う本やネットで快利を分析し傾向や対策を練っていたのだ。
(やはり快利も男と言う事か……残念だ、残念なのだが……向こうから手を出してきたのなら仕方ない、私も所詮は男の前ではか弱き乙女、無理やり
どの面下げて自分でか弱き乙女とか言ってるのかと、お怒りは分かるが堪えて欲しい、あくまで自称『か弱き乙女』だ。剣道、柔道は共に二段で剣道に至っては高校生の全国大会常連な強者なのだが、これでも立派な自称か弱き乙女なのだ。これについて異論は認められない。
(マズイマズイ。もしバレたらお説教どころか変態扱いされたり、俺の方に悪意なんてぶつけようもんなら最悪の事態が発生する……だって
一方の快利の考えはこうだった、自分の煩悩がバレてしまい姉が怒りのあまり自分への敵意を向けて自分に悪意ある行動、具体的には直接攻撃をしてくる可能性だ。今の自分なら避けるのも防ぐのも簡単だが、姉は一般人なのでまず防壁が自動で発動してしまう。マズイ……どうしよう、と悩んでいると待ってましたと言わんばかりにガイド音声が頭に響いた。
『前方一名が
(こんの無能スキルうううううう!! このままじゃオッパイ……じゃなくて姉さんが分子分解されちゃうだろ!! どうすんだよおおお!!)
既にこの元勇者も姉の胸に釘付けであった。悲しいかなこれも異世界生活の後遺症なのだが、以前に彼が異世界で平民や下々の民のためにひと肌もふた肌も脱いだと言うのは話しただろう。ならば免疫はそこらの男子よりも有るのでは?とか思った人も多いだろう。
ここで快利の召喚先すなわち異世界転移先の世界の事情を簡単に説明しよう。魔王と戦う中で食糧自給率などは低下していて栄養状態が良いのは王家や貴族など一部の人間のみ、更に男しか戦に出ないと言う掟のせいで全てにおいて男性が優遇されるような社会だった。そんな社会では多くの女性、特に平民などはこちらの世界で言うところの栄養失調のような状態だったのだ。つまり……。
(向こうの世界に姉さんみたいなスタイル抜群な爆乳は居なかったんだよ!!)
そう、今もブルンブルン揺れている目の前の姉のような発育のよい女性など皆無だった。彼が救って来た女性は大体が栄養失調のような抱けば折れるような枯れ枝のような状態で、そんな半分病人のような女性を抱けとか拷問に等しい。
だから彼は女性たちを抱いたフリをして実際は自分の食料を渡したり魔法で料理を作ったり、病気や怪我を直したりして帰していたのだ。そのせいで余計に女性から人気が出てしまったので彼は女性好きなどと言われ女性の暗殺者を送り込まれていたのだ。つまり元勇者カイリは精神年齢24歳の童貞なのである。
(どどどど、童貞の何が悪いんだ!! ピッカピカの新品だぞ!! なんか言ってて悲しくなって来た……って今はそんな事は今はどうでも良いんだよ!! 今は姉さんが分子分解されない方法を考えなきゃダメだ!!)
『注意、対象が勇者カイリにターゲットを合わせています脅威認定増大』
(ヤバイ、姉さんが怒ってる……きっと俺の煩悩がバレたんだ……)
むしろ煩悩まみれなのはお互い様で何なら姉の方がヒドイのだが快利はそんな事は知らない。一つ言える事は今まさに快利は狙われている状態だと言う事だ……性的な意味で……。何も悪意や敵意とは直接的な攻撃のものだけでは無く、それ以外の違う悪意も存在する。聖なる防壁は正にその違う悪意に反応していた。
例えば今の絵梨花のような既成事実を強引に結ぼうとする性的な悪意などがそれである。強引に関係を結ぼうなど実際に及んだ場合はセクハラを飛び越えてただの刑法犯罪だ。そこには悪意しか無いので防壁はそれを許さないのだ。だって
(私も初めてだが問題は無い……こう言う時のために事前に色々と勉強はしていたんだ。お前がベッドの下と机の引き出しの一番下の奥のスペースにコッソリと隠せていると思っていた本でなっ!! さあ快利、我慢せずに私を襲って来い!!)
非常に優秀だがとことん残念な姉である。ここまではじっくりと計画的だったのに今朝の快利の反抗的な態度で更に火がついてしまったのだ。余計なことをしてしまったな元勇者よ!こんなところで義姉に襲われてしまうとは情けない。
(なんか今俺が理不尽にバカにされた気がする……勇者だぞ!! 元だけど!!)
実はこの絵梨花の行動は七年前は快利が異世界転移したので実行に移されなかっただけで本来の快利の身に起きる予定調和の出来事だったのだ。
ちなみに本来のまま進んでしまうと快利は最後には追い詰められて絵梨花を受け入れて色んな意味でルートが固定され専業主夫になるエンディングが待っていた。
目の前で平静を装いながら目だけは血走らせている残念な美少女の計画が成就してしまう事になるのだ。
「快利? いつも言っているが言いたい事が有るならハッキリと言うんだ。何か私にしたい事、ヤリたい……事とか揉みたい……物とか有るのなら言うんだ!!」
どさくさに紛れて自分の願望を垂れ流す義姉に対し、それどころでは無いのでよく聞いてなかった快利だったが、目の前の揺れる二つの小玉スイカにまるで催眠術にでもかかったように声が出なくなっていた。このままでは義姉ルートに一直線だ!!負けるな元勇者!!頑張れ快利!!今こそ煩悩と戦うんだ!!
「え~と……じゃあ……エリ姉さんの……オッパ――ハッ!! なななな、何でも無いよエリ姉さんっ!!」
「チッ……まあ良い。夜は長いし、まだまだこれからだ。私がゆっくりと将来のことも込みで教育してやろう快利……」
しかし残念ながら今回は状況が違う。快利は七年もの間それこそ必死に転移先で戦い抜いた本物の勇者なのだ。一般人の誘惑程度では簡単に落ちない強い意思が備わっていた。陥落寸前とか言ってはいけない、彼は頑張ったのだ。
(危ないところだった……姉さんの誘惑は四天王クラスはあったような気がする)
それにしても皮肉なもので今回のこの絵梨花の行動は、快利自身が帰ってくるために過去改変したせいで目の前で起きていると言っても過言では無い。改変の無い時間の流れなら今朝の時点で彼はベッドごと異世界に行く予定だったのを、彼の意思で回避したからこうなった。異世界からの脱出をするために過去改変した故の最大のピンチが快利を襲っているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます