第3話「え?イジメ?何かしたんですか?」
◇
予鈴が鳴ってから教室に入るとほとんどのクラスメイトが座っているので快利も席に着こうとすると彼の席には毎朝生けてある菊の花が……。あぁ……そうだった俺ってイジメられてたんだ、と今更ながら自分の現状を思い出した。
「はぁ……しゃ~ないか」
快利は素早く消滅魔法を使って花瓶を消滅させると席に着こうとしてイスや机に触りながら修復魔術を展開した。イスは足が壊れていて机も中の教科書ごとボロボロにされていたのを思い出したのだ。この日も盛大に笑われてその翌日に彼は異世界に飛ばされたのだ。だからちゃんと覚えていた。過去改変の第一歩であった。
「なっ!! ええっ!!」
教室中がざわめいて、後ろの席からも驚いた声が聞こえた。しかし担任が入って来てしまったので慌てて静かになる。実はこの教師もイジメを見て見ぬふりをしていたのでクソ教師ではある。ま、気の弱い教師だから問題が起こるのを恐れているのだろう。そこまで考えていると後ろの席からイスを蹴られる。当然無視する。前だけを見るとHRが終わって教室が再びうるさくなる。
「おいおい朝から調子乗ってんな秋山!!」
前の席からなれなれしく触ろうとした男子生徒Aが居たので思わず雷魔法をオートで発動してしまった。『スパーク』という魔法で静電気(異世界基準)が発生する魔法だった。バチッ!!と音が鳴るとそれだけで男子生徒Aは倒れた。
「んぎゃっ!!」
見た目が真っ黒コゲで良い感じに肉の焼ける匂いがしてたのでバレると思って咄嗟に回復魔法を使った。それだけで服はボロボロだけど取り合えず真っ黒焦げじゃなくなったので大丈夫だろうと思って彼は机の上に突っ伏して寝る準備に入った。その男子生徒Aは意識が戻るとボロボロの制服のまま保健室に逃げ出して行った。
「って待てよ!! おまえ貴司に何しやがった!!」
「秋山のくせに何してくれてんだよぉ!!」
「秋山サイテー」
この集まって来た三名は俗に言うクラスの上位グループでイジメ推進派の男三人に女二人とか言う典型的なリア充グループだ。さっき逃げ出した男子もこのグループ所属だ。でもイジメでリア充とか終わってんなぁ……とか今更ながらに快利は思う。
「はぁ……」(威力が一番弱いのに……ここまで威力出るんだ……)
「ため息つきたいのはこっちなんだよっ!!」
ちなみにさっきスパークを使ったのは理由がある、いつもの快利なら
(ま、聖なる勇者に触れるあらゆる邪悪を消滅させるって言うスキルらしいんだけどね……覚えたら基本オートってのがヤベーんだよなぁ……一生切れないし)
このスキルの発動条件が勇者に悪意を持って、しかも勇者に対する脅威と判断されるもの全てにオートで反応するので、なお性質が悪い。一応は設定から特定の人間にだけは発動しないように、お気に入り設定なんかも出来たりするのだが、異世界では王様を含めて国民は全て国単位で登録していたので問題は無かった。
この世界では母さんとポロしか登録はしていない。だから触れられる前に、あの世界では雷系最弱のスパークで静電気感覚で触らせないようにしたのだが、それでもこちらの世界では威力が強過ぎた。
「てかさ秋山チョーシ乗り過ぎ。さっきからアタシが呼んでも無視とか舐めすぎなんですけど?」
「はい。すんません。風美さん」
さっきから後ろの席で快利のイスを蹴っていたのは彼女、
「マジで!! 瑠理香に蹴られるなんてあんたみたいなクズにはご褒美じゃん感謝しろよ」
「はいはい。感謝します」
「ま、いっか……貴司にもそうだったけどさぁ……どうも秋山チョーシ乗ってるし今日はフルコースだから覚悟しなよ。楽しみ~!! とりま駅前のステラリンカーのモンブランとショートケーキ買って来てよ」
駅前のケーキ屋に行けと言われると条件反射で立ち上がるのを情けないと思いながら、『あ~俺の青春ってそう言えばパシリだった』なんて思い出しながら歩いて廊下に出ると快利はすでに時間魔法を展開していた。彼は朝の事と今の失敗でやっと気付いたのだが、時空魔術なんて高次魔術を使わなくてもベーシックな身体強化の魔法だけで私生活には事足りるのでは?と気付いたのだ。
「ダッシュだよダッシュ!! 気合足りてないんじゃね? 秋山さぁ……って、あれ? 居ねえ!?」
「キャハハハ。ドア開けた瞬間、猛ダッシュしたんじゃん。いつもの秋山じゃん。ね? 瑠理香?」
快利が居ないことに気付いた取り巻き女子は快利が今頃全力ダッシュしていると思い込んで廊下の窓を見て校門から出る時に大声を出してやろうとしていて、瑠理香もそれを楽しみにしていた。
「え、うん。アハハ……そーね。あいつはいつもどーりのアタシのパシリよ。一時間目の途中でどんな顔して入ってくるかたのし――「風美さん。買って来たぞ。置いておくから。じゃ寝るんで……」
快利はケーキ屋に着くと店内には他に客が居ないのですぐに購入するとやっぱり面倒になったのでワームホールを開いて廊下に戻って来たのだ。だって時間魔法も時空魔術も疲労度は同じくらいなんで楽な方が良いじゃん。とか思ってしまったのだ。彼は基本的に楽な方に流れる潤滑油なのだ。
「ちょっ、あんた、いくらなんでも早過ぎでしょ!! どうやって!!」
――――キーンコーンカーンコーン――――
チャイムが鳴って教師が入ってくるとさすがに追求出来なかったのか授業中にイスを蹴って来たりしたけどガン無視だ。前はこんな程度でビクビクしてたけど向こうのイジメが壮絶過ぎてなぁ……。今にして思えば風美だってパシリと嫌がらせ程度で生死に関わる事して来ないからなぁ……。
そこで俺はまた異世界の事を思い出していた。まず思い出すのは転移二日目に言われた勇者なら魔法使えないはずは無いだろうと言われていきなり火・氷・風・雷の四属性の魔法を打たれそれを避けるか耐える訓練だった。
(あれは怖かったなぁ……城の兵士にひたすら追いかけられて見つかったら魔法打ってくるからなぁ……)
王の考案した訓練は『魔法鬼ごっこ‐デッド・オア・デス‐』と名付けられ城下の森で行われた。追われている間はまだ良かったのに逆に魔法を覚えて反撃し始めて何人か兵士を倒したのが良くなかった。勇者の特性で数年単位で覚える魔法を彼はたったの二日で覚えたのだ。その成果に王は素晴らしいの連呼で急成長を喜んでいたが快利はそんな場合では無かった。
その翌日から訓練から帰ると部屋の着替え(転移時着ていたパジャマ)や備品(スマホ)が無くなった。倒された兵士たちの嫌がらせだ。そもそも異世界からいきなりやって来たガキに命運など託せるかと思っていたらしい。至極もっともな意見だったので彼はぐうの音も出なかった。それだけでは無く今度は城の自分に支給されるはずの食料が減らされ最後は完全に無くなってしまった。
(空腹があんなに辛いだなんて思わなかった……苦しかった、辛かった)
兵士たちの恋人や家族やらが勤めていた王宮の料理番やら城内の食堂の人間が快利を褒めて褒章を出した王に腹を立て嫌がらせをしたのだ。城内の半分が敵に回ったのに王様は気付いて無かった。こんなんだから反乱起こされたんだよなぁ……。
(森の中の怪しいキノコやら野草、それに動物も狩りをして食べたなぁ……)
それからはサバイバルだった。現代っ子が森の中で
それから三か月後には快利の事を止められる兵士は居なくなり彼らは全員が平伏した。それを満足気に見る王と複雑な快利。ただこの当時はまだこちらの現実世界の常識が抜けておらず兵士達やその関係者を許したのだ。彼としては謝って土下座まで許しを請うのだから許しただけなのだが向こうは違った。
(下手に下の人間を許すと命の恩人とか言って奥さんとか恋人や娘を差し出すとかガチで有り得なかったんですけど……そりゃ、おいしい思いもしたけど……)
そう、そこからが更に酷かった。今まで快利に嫌がらせをしていた兵士の家族や恋人そして城内のメイドやらが露骨に媚び出して女性陣などは最後は夜這いを仕掛けて来たのだ。もちろん跳ね除けた後に王や
それを笑顔になった王たちから聞かされてから寝覚めの悪かった彼は王たちに黙ってコッソリお金を払って彼女らを解放してあげたりしていた。故に彼は向こうの世界でも割とビンボーだったのだ。そして彼は思ったのだ。
(女って……怖すぎだろ……)
それ以来、彼の中では女性は恐ろしいものとして決定づけられてしまった。そしてここで勇者カイリは色んな意味で一皮剥けてしまう。なんと勇者は異世界で色々と卒業してしまったのだ。下手に断っても悲惨な末路しかない下々の人のために文字通り一肌脱ぐしかなかったのだ。
(大変だったなぁ……毎晩誰かしら来るから……怖かった)
羨ましいとか思った奴は今すぐそこに並べ
「秋山ぁ!! ちょっと
「はい
絡んで来たイジメ男子Bは驚異認定すらされなかったのでスパークを使わずに済んだ。そして『
「うぇっ!? これって本物!? いやいや偽物だよな? な?」
「おやすみ~」
面倒なので机に突っ伏して虫よけの結界を張る。対人間用の結界を張ったらたぶんこの教室の人が全員吹き飛ばされてしまう恐れがあるので触られても気付かないでダメージの入らない最弱の結界を張ったのだ。
これが成功し彼が次に起きたのが昼休みだった。ちなみに彼が寝ていた間にも風美軍団のイジメは続いていた。まずは寝ている快利を起こそうとバケツいっぱいの水をかけたのだが……。
「ぎゃあああああ!!」
「み、水が弾かれてるっ!?」
まるで車にワックス掛けしたすぐ後のように水が弾かれて水滴が少し付いただけになってしまった。逆にバケツをぶっ掛けた男子生徒Cに水が跳ね返りびしょ濡れになってしまい保健室へ着替えに行く事になったのだ。
「る、瑠理香……アタシちょっとトイレ……」
「え!? に、逃げんな!!」
電気でビリビリ(瀕死)、金の延べ棒(約3000万円相当)、水の逆流(風速20メートル弱付き)、これだけ見てもヤバいのに朝の瞬間移動のような怪現象である。さすがに瑠理香も現実を受け入れ距離を置きたいと思ったが、真後ろの席なので物理的に不可能である。何よりこれではクラスのトップとして君臨していた自分の沽券に関わるので退くに引けないのだ。
「んあ? よく寝た……お昼かぁ……弁当食べよ」
「ちょ、ちょっと!! 秋山!!」
「なんすか? 風美さん……お昼終わった後でオナシャス」
そう言って彼は弁当を食べ始める。う~ん……今日の創造魔法で作ったのってキングリザードマンの肉だったのか……からあげにしても食べれたんだなアイツ。いつも丸焼きにしかしてなかったからなぁ……と、舌鼓を打っている。
ちなみに創造魔法で作られるものは彼が思いついた物の順番で創造される。例えば『肉』と考えた時に頭に思い浮かんだのが今回はキングリザードマンの肉だったのでそれを創造した事になる。
――同時刻――
「ふむ……このから揚げ美味しいわね……快利、腕を上げたな」
「カイ君のからあげと卵焼き美味しいわ~♪」
「クズのくせに料理は一応及第点ね……お母さんおかわり!!」
同じメニューを食している彼女たちは偶然にもそれぞれの場所で快利と同時刻にその料理を味わっていた。かの異世界では千体のリザードマンを統べ、街一つ壊滅させる程の力を持っているトカゲの王である事なんて彼女たちは知らずに食べているのだ。世界が違えばエサになっていたのは間違いなく彼女らの方であろう。
◇
「ごちそうさまでした……ふぅ……午後も熟睡出来そう」
「ちょっと!! 秋山!!」
瑠理香は焦っていた今日までクラスの支配者と思っていた彼女の地位が揺らいでいるからだ。既に自分のグループの男子三名も自分の親友と思っていた女子も逃げ出した。他でもない目の前の快利によって男子二人は恐怖し、残り一人は純金に目が眩んでそれどころでは無くなっている。
「なに? 風美さん……俺寝たいんで」
「私が呼んでるんだから寝るとかアリエナイし!!」
クラス中が見ているここでビシッと快利に目にものを見せるしか彼女の名誉を挽回する機会は無い。彼女はいよいよ直接対決を決意した。まずは挨拶代わりの口撃をするのだが全然効果が無かった。昨日まではこれだけでビビっていたのに、その彼はもうどこにも居ない。居るのは七年間地獄のような異世界で生き抜いた元勇者だ。
「あの……もう良いですか?」
「待ちなさいよ!! 今日の放課後よ!! 今までよりもっと凄い方法でイジメてやるからっ!? 今までみたいなイジメと一緒だと思わない事ね!!」
「えっと……イジメ? 何かしたんですか? 寝てて気付かなくて……」
「と、とにかく放課後覚えてなさい!! 授業始まるから前向きなさいよ!!」
瑠理香はますます理解出来ずに居た。目の前の昨日まで自分の近くに置いておくだけで満足していた秋山快利が明らかに自分の手から離れて行くような現実に、何より自分に逆らうのが許せなかった。
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